ナタリーの「フラット」さはどこから生まれているのか

音楽、コミック、お笑いといったポップカルチャー好きにとって、なくてはならないサイト「ナタリー」。その運営会社で取締役を務める唐木元さんは、フリーランスの制作業務、出版社での雑誌編集を経てナタリーに参画し、コミックナタリー、おやつナタリー、ナタリーストアとメディアを続々と創設。ナタリーがメディアとして発展するための屋台骨を支えてきました。一方、cakes編集長の加藤貞顕は「ナタリーがニッチ分野で成長し続ける理由、唐木元さんに全部聞きました。」という記事を読んで、ずっと唐木さんに話を聞いてみたいと思っていました。今回実現したインタビューの最初の話題は、「ナタリー的」ということについて。「ナタリー的=大山卓也(音楽ナタリー編集長)説」とは?(聞き手:加藤貞顕 構成:崎谷実穂

感情がなく働き続ける虫のような男、大山卓也

— 「ナタリーがニッチ分野で成長し続ける理由、唐木元さんに全部聞きました。」、読みました。これ、すっごくおもしろかったです。「ナタリー的」である要素として「速い」「フラット」「ファン目線」という3つをあげていましたよね。とくに「フラット」というのが、おもしろいと思ったんですよね。この記事では「公平性と客観性と網羅性」のことだとおっしゃってました。最初の2つはまだわかるんですけど、最後の網羅性ってのがすごいなと。

唐木元(以下、唐木) そう。取り扱うトピックを選ぶときにより好みしない、ということなんです。どんなネタも全部やるようにすると、結果として網羅的になっているということです。

— 普通は、なにかに肩入れするのがメディアですよね。これはナタリーの大きな特徴だと思います。

唐木 ナタリーならではというか、もともとは社長の大山卓也個人の資質なんですよ。フラットだけでなく、「速い」「ファン目線」も彼個人の資質が大いに反映しています。もうね、あの人、虫みたいなんです。

— えっ、虫って……?

唐木 ヒトだけじゃなく犬も猿も、キジですら情動で生きていると思うんです。うれしいとか悲しいとかムカつくとか、そういう気持ちが原動力になって、何かをしたり、やめたりしている。でもセミとかカニとかって情緒で動いてる感じしないじゃないですか。自分の意思や気持ちとは別のところにプログラムみたいなものがあって、それによって動かされている感じ。タクヤはそっちなんです。北海道出身だからなのかな、感情の起伏がほとんどないんですよね。

— 出身地、関係あるんですか?(笑)

唐木 北の大地がああいう人間を生んだんじゃないですかね。一方の僕は、情緒過多なんですよ(笑)。雨を見ても雪を見ても虹を見てもメソメソ泣いてしまうような人間。タクヤだって何かを感じてはいるのでしょうが、それによって行動を変えたりは一切しない。社長と副社長のこのバランスでナタリーが回っているようなところはあります。

— 大山さんは、メディアを立ち上げた人としてはかなり異質ですね(笑)。メディアというのは、むしろ情緒豊かな人がつきやすい職業だと思っていました。

唐木 そうですよね。まあ虫は半分冗談ですが、そういう大山卓也という特殊な人の性格、資質がメディアに投影されると、ナタリーっぽさになるということです。ナタリーの前身と言っても差し支えない、大山個人がやっていた「ミュージックマシーン」という音楽関連のニュースサイトにも、すでにこの資質は活かされていました。

— 個人で網羅性を実現しようとすると、手数として難しかったりしますよね。

唐木 ところが、ミュージックマシーンは個人サイトとしては異様な更新数だったんですよ。1行リンクの紹介だけですけど、それでも1日に40本アップしていた日もあります。

— 尋常じゃないですね(笑)。

唐木 そうなんですよ。これはもう、タクヤの個人的な資質としか言いようがない。そして、彼には更新し続けるスタミナがあった。僕は、社長に向いている資質の一つとしてスタミナがあげられると痛感しています。僕自身はスタミナ、ないんですよ。ないながらも、2008年にコミックナタリーを立ち上げて、3年半くらいは1日も休まず働きました。やっぱり、すごくしんどかったです。

— 3年半はしんどいですよ。

唐木 でも、タクヤは今でも休まない。2001年にマシーンを立ち上げて毎日更新を始め、2007年からはナタリーの編集長で、毎日大量の記事をチェックし、ときには自分で書く。タクヤがすごいのは、ずっと働いていてもうつ病にもならず、波がなく働き続けられることです。その間、より好みもしないし肩入れも自分語りもしない。ナタリーというメディアの特殊性は大山卓也個人の資質に半分以上由来してる、と僕らが言う所以ですね。

— それが、非常にネットに合っていた、と。

唐木 うーん、結果的に合っていた、というところでしょうか。ナタリーは売上が立つまでにも時間がかかっていますし、黒字化するまでにも紆余曲折ありました。でも、あるとき突然歯車が噛み合いだしたんですよね。

プラモデルをつくるように文章を書く

唐木 タクヤにできないことがあるとしたら、「できない人の気持ちがわからないこと」ですね。「なんでできないの?」という疑問すら抱かないくらい、わからないんですよ。僕はタクヤの才能にぶら下がってるだけの凡人なので、若い子たちがどこでつまずいてしまうのかわかる。だからこの会社に入ってからは、ナタリーでやるべきことをかみ砕き、言語化し、メソッド化してきました。僕がやったと言えることあるとすれば、それくらいですね。

— 社員に仕事のやり方として伝えてきた、と。どういうふうに教えるんですか?

唐木 たとえば文章を書くときに僕は、「プラモデルのように書く」と言うんです。

— プラモデルのように、というのはどういうことですか?

唐木 まず補助線としてプラモデルの対義語って何だろうということを考えてみたいんですが、それはスクラッチモデルと呼ばれるものかな、と。

— ゼロから全部つくる。

唐木 ええ、例えば紙粘土で戦艦を作るとか、丸太からガンダムを削り出すとか。それってすごくむずかしいですよね。時間と才能に恵まれた芸術家のやることです。じゃあ、自分たちのような凡人が、どうやったら安定して一定のクオリティのものを生産し続けられるのか。そう考えたとき、思いついたのがプラモデルだったんです。

— なぜ、プラモデルなんですか?

唐木 模型屋さんに行くとわかるんですが、ほんとは模型ってガレージキットとかペーパーモデルとかメタルキットとか、いろいろな種類があるんですよね。そのなかで、なぜプラモデルだけが圧倒的な支持を誇っているのか。それは、誰でもつくれるからです。

— はい。

唐木 じゃあなぜ、プラモデルだと、誰でも簡単にかっこいいガンダムがつくれるのか。加藤さん、プラモデルってなにで構成されていると思いますか?

— ええと、まずマニュアルでしょうか。

唐木 そうです。取扱説明書、取説ですね。

— あとは、フレームにくっついたパーツ?

唐木 はい、ユニット化されたパーツです。あと、もうひとつ重要なものがあります。

— あとは……、なんだろう。

唐木 プラモデルは必ず箱に入ってますよね。そして、その箱には完成したその模型の絵がどーんと大きく書かれているんですよ。

— おお、たしかにあれは重要だ!

唐木 取説、パーツ、箱絵。この3つが揃っていることが、プラモデルの条件です。逆に言えば、何かをつくろうとするときに、この3つを用意しさえすればだれでも簡単につくりたいものがつくれる。それは、記事の文章も、イベントの企画も、ひいては会社そのものまで。

— なるほど。仕事全体に言えることなんですね。例えば、文章で言うと「パーツ」は何を指すんですか?

唐木 取り上げるトピックです。ニュース記事だったら、誰がいつどこで何をしたというような情報と、それに付帯するもの。これを箇条書きで用意しておきます。

— 取説は?

唐木 文章の設計図ですね。そこには僕が「骨子」と呼んでいるものが記されている必要があって、骨子は「要素」「順番」「軽重」の3つによって構成されています。要素はさっきのパーツのリスト。つまり何を言うか。順番はそのままで、どれから言うか。軽重は重み付け。つまりどこをどれくらい言うか。そして、箱絵は「主眼」にあたります。言いたいこと、テーマ、コンセプト、意義など呼び方はなんでもいいんですけど、「自分はこの文章で何を伝えるのか」というゴールをはっきり持っておく、ということですね。

— 目標みたいなものなんですね。

唐木 はい。「文章を書け」と言われたときに、これらを何も用意しないでいきなり書きだすのって、丸太から仏様を彫り出すような難しさなんですよ。小説家ならぜひトライすべきところですが、我々はビジネスであり職人なので。

— だから、自分の仕事をいったんプラモデル化して、3つの要素を用意しろ、と。

唐木 別に大層な話じゃなくて、秀吉の墨俣城と同じことなんですけど。ただこれを教え続けていたら、おもしろいことに、文章がうまくなっていくと同時に仕事そのものがうまくなっていくことがわかったんです。よく、受験で一番大事なのは国語力だといいますよね。国語ができると、他の科目の文章題もよく解けるようになるから、と。それは仕事にも当てはまるんですよ。文章の書き方を身につけた人は、記事広告の進行や企画書作成など、さまざまな仕事がうまくやれるようになっていきました。

— たしかに、こうやって仕組み化すれば、他の仕事もスムーズにできそうです。

唐木 そう、まさに仕組み化なんです。いきなり書き始めるのに比べると、自分だけのプラモデルを用意することは時間も手間もかかって、一見めんどくさく思えます。でも、準備には時間をかけてもいい。そのほうが、絶対トータルの時間は短くなります。そしてクオリティにも波が出ない。という具合に、プラモの話はほんの一例ですけど、そういう書き方や働き方を社員に伝えていくのが、番頭役である僕の仕事かなと思っています。

1日で110本以上の記事を上げ続けるためには

— 「フラット」についてもう少し聞いてもいいですか。網羅的にやるといっても、世の中にあるすべてのネタを網羅できるわけじゃないですよね。すべてをフラットに扱おうとすることで、人気のある重要なニュースなどを取りこぼすリスクがあると思うんです。その問題にはどう対応しているんですか?

唐木 量を増やすことですね。

— 根性とも言えますね(笑)。

唐木 はい、まさに(笑)。地味にコツコツ泥臭く……って浪花節みたいですけど、真実はそこにしかないんですよ。ナタリーが始まった2007年当時って、他社の音楽ニュースサイトはだいたい1日10〜15本の記事アップ、土日は更新休みというところがほとんどでした。

— はい。

唐木 でも、ナタリーはフラットを標榜した手前、あれもこれも扱わなきゃということで、どんどん記事数が増えていったんです。いまは、音楽ナタリーだけで70本記事を上げる日もあります。コミックナタリーも25本くらい上げて、お笑いナタリーも20本くらい上げることがあるから、そうすると、日常的に1日110本くらいはニュース記事を上げることになる。

— すごいですね! 社内に記者は何人いるんですか?

唐木 音楽の編集部が18人、コミックが5人、お笑いが4人で、だいたい25人くらいで書いています。

— じゃあ、ひとり1日5本は書くことになる。

唐木 トップ記者だと1日21本書いたのが記録かな。まあそれは瞬間最大風速としても、1日に5本くらいは書いてほしいですよね。この量をつぶれないで書き続けるためには、効率的にやらなければいけません。それにはさっきお話したような、プラモデル型の仕事の仕方が役に立つんです。

— アップされる記事が膨大だと、ナタリー内で一つひとつの記事が埋もれてしまうことがありませんか。それはどうやって解消してるんですか?

唐木 あまり解消しようとしていません。埋もれるくらいの情報があっても、自分の必要な文字列は目に飛び込んできますよね。もしくは、SNSでの拡散によって、届けたい人には記事が届きます。ツイッターでの拡散って、一種のフィルターの役目を果たしているんです。趣味の合う人をフォローしていれば、自分のほしい情報だけが自動的に入ってくる。

— ああ、じゃあトップページから探すよりも、ソーシャルメディアから飛んできて自分の好きな記事だけ読む、という人がたくさんいるんですね。

唐木 むしろ、そういうユーザーがほとんどだと思います。たまに、トップページのヘッドラインを全部読んでいる人もいるみたいですけど、そういう人は情報ジャンキーという人種で、僕らと一緒です(笑)。でもそうやって情報の藪にばさばさと分け入って能動的に探せる人はそんなにいないので、もうちょっと広く届けるために、いまアプリを準備しています。

— おお! それはどんな機能をつけるんですか?

唐木 基本となる機能は、ヤフオクで言うウォッチリストのようなものをつくって、自分の好きなアーティスト、漫画家、お笑い芸人を登録できるようにします。それに紐付いたニュースがアップロードされた時にプッシュ通知で教えてくれるというものです。

— なるほど。それはいつ頃出るんですか?

唐木 エンジニアによいプレッシャーをかけるためにも、秋を予定しています、と言っておきましょう(笑)。でもこれも、難しいんですよね。ナタリーの「フラット」「網羅的」というイズムと反すること、フィルタリングをするわけですから。その矛盾をどうやって抱えていくのかは、まだ答えが見えていません。

— でも、とりあえずやってみようかと。

唐木 そうですね。やってみてわかることもあるんじゃないかと。まあ失ったところで大したポリシーでもないですし、また組み立てりゃいいでしょう。

(次回へ続く)


ナターシャ代表・大山卓也さん初の単著です。


ナタリーってこうなってたのか 大山卓也

この連載について

コミックナタリー編集長・唐木元インタビュー

唐木元

音楽、コミック、お笑いといったポップカルチャー好きにとって、なくてはならないサイト「ナタリー」。その運営会社で取締役を務める唐木元さんは、フリーランスの制作業務、出版社での雑誌編集を経てナタリーに参画し、コミックナタリー、おやつナタリ...もっと読む

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コメント

yaiask これもう3年前なのね…。この3年で唐木さんはバークリーに行き、大山さんは会長になり、 約1年前 replyretweetfavorite

valuefp 唐木さんの本買わないと。。 約3年前 replyretweetfavorite

khaneda_denaaa "感情がなく働き続ける虫のような男" http://t.co/8w9yL7buPR 4年弱前 replyretweetfavorite