正義の味方なんて、つまらない

昨年秋にテレビドラマ化され、高視聴率を叩き出した「半沢直樹」、その小説シリーズの最新作『銀翼のイカロス』が、ついに発売! 大手航空会社の破綻を出来事をモチーフに、さらに拡大した物語世界の中で、主人公・半沢直樹をはじめ、個性的なキャラクターたちが、所狭しと大活躍を繰り広げます。作者・池井戸潤さんが語る、創作の舞台裏とは……。

池井戸潤がいま輝いている3つの理由

ドラマも小説も超ヒット!
ドラマ「半沢直樹」は視聴率40%超えの大ヒット。最新作『銀翼のイカロス』も、発売3日で55万部を売り上げ、記録を更新中です。

企業が舞台。なのに、誰でもおもしろく読める!
従来の企業小説とは異なる、わかりやすさと躍動感。予備知識がなくてもグイグイ読み進められるのが、池井戸作品です。

清濁併せ吞む、リアルなキャラクター!
意外にダーク? な半沢直樹をはじめ、登場する人物が皆、一癖も二癖もあってユニーク。なのに、必ず誰かに感情移入するはずです。

「敵に回したくない」ダークな男

— 昨年秋にドラマ化された「半沢直樹」の原作となった『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』、そして『ロスジェネの逆襲』に続いてのシリーズ最新刊『銀翼のイカロス』が発売されました。発売3日にして、発行部数は55万部!

池井戸潤(以下、池井戸) ありがとうございます。まだ手元を離れたばかりで、自分でも面白いのかどうなのか、正直、よくわかりませんが、楽しんで読んでもらえたのならよかったと思っています。

— 今作では、銀行に戻った主人公・半沢直樹に、破綻危機に陥った大手航空会社の再建が託されます。航空会社の破綻というと、現実にもそういう出来事がありました。

池井戸 現実にも起きてはいますが、基本的にこの小説はフィクションであり、物語です。現実の事件を小説の形で追いかけたものではありません。むしろ、小説の世界があって、現実は単なるモチーフというか、きっかけを与えているにすぎないんです。読者の中には勘違いして、「事実はこうじゃなかった」とか「もっと、現実の航空会社の腐敗ぶりに切り込んで欲しかった」というような感想を口にする方がいらっしゃいますが、これは半沢直樹という主人公が活躍するエンタメであってジャーナリズムではありません。現実に起きた事件の裏を暴くために書いているわけではないんです。

— 今回も半沢は、厳しい状況にたびたび追いつめられながらも、相変わらずの豪腕ぶりを発揮し、胸のすく活躍を見せてくれます。

池井戸 当初は腐ったエリート集団対半沢、という構図を考えていましたが、途中から「やっぱり、違うんじゃないかな」と。結果的には、さらに大きな敵と戦うことになりました。前作の『ロスジェネ』では、出向先ということもあってちょっと猫を被っていましたが、今回は原点に戻って言いたい放題、やりたい放題。好き勝手にやっています。

— 半沢は案外、黒いところがあるんですよね。ドラマよりはずっとダークで、ねっとりじっとり相手を追いつめていく、狡猾な策略家という感じ。

池井戸 そうです。「半沢直樹」で主役を演じた堺雅人さんにも話したことがあるんですが、半沢というのはある意味、小ずるいところのあるバンカーなんですよと。決して単純な、正義の味方ではありません。読者からも、「あいつだけは敵に回したくない」「友だちになりたくない」といった感想が、よく届きます(笑)。
 でも、それがおもしろいんじゃないかと。従来の銀行を舞台にした小説だと、貸し渋りとか貸し剥がしといった銀行の悪業を暴くようなものが多く、人間として銀行員を描いたものはありませんでした。

— そこが、半沢直樹シリーズの新しさになったわけですね。

池井戸 このシリーズの中で銀行は道具立てにすぎなくて、あくまでもそこで展開する、サラリーマン社会の人間ドラマなんです。そして、典型的な、世の中のイメージ通りの銀行員像では、こういう物語はできない。もっと人間くさくて、ずるくて、どうしようもなくて……どこの会社にも、「ああ、こういう奴っているよな」と思える人、いますよね。書いていても、ちょっと悪い奴のほうが断然、魅力的。正義の味方なんて、本当につまらないですよ。

— 水を得た魚のような主役はもちろん、脇のキャラクターたちにもますます脂がのって、それぞれいい味を出しています。

池井戸 それは、ドラマの影響も大きいですね。たとえば、半沢の上司である部長の内藤とか、頭取の中野渡といったキャラクターは、今までは半沢を絡めて書かないと成立しなかった。でも、ドラマで吉田鋼太郎さん(上司・内藤役)や北大路欣也さん(頭取・中野渡)が演じたあとだと、読者が頭の中でイメージを補完してくれる。だから今作では、このふたりだけで会話をしたり、内藤が半沢の代わりに取締役会で活躍するといった場面が出てきます。書いていても、すごく楽でした。

— そして、ドラマで話題を呼んだ“あの男”も登場します。オネエ言葉の金融庁敏腕検査官・黒崎駿一。演じた片岡愛之助さんのハマりぶり、見事でした。

池井戸 本当は登場する予定じゃなかったんですけどね(笑)。執筆中にドラマの撮影を見学に行って、愛之助さんの演技があまりにもおもしろかったので、つい出すことにしてしまいました。もともと黒崎は、オネエ言葉じゃない、普通の検査官だったんです。

— えっ!?


次回「作家は『神様』なんかじゃない」は、9/2更新予定

構成:大谷道子 写真:喜多村みか


銀翼のイカロス
『銀翼のイカロス』池井戸潤

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この連載について

イマ輝いているひと、池井戸潤「半沢? とんでもないけど、かわいいヤツです」

池井戸潤

昨年秋にテレビドラマ化され、高視聴率を叩き出した「半沢直樹」、その小説シリーズの最新作が、ついに発売! 大手航空会社の破綻を出来事をモチーフに、さらに拡大した物語世界の中で、主人公・半沢直樹をはじめ、個性的なキャラクターたちが、所狭し...もっと読む

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コメント

Quishin おもしろ。。 4年弱前 replyretweetfavorite

officeikeido docomoの「ENTAME WEEK」で池井戸のインタビューが公開中です。同内容の記事は、こちらでも読めます→https://t.co/ZCjR2FW7ef 4年弱前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 半沢直樹の小説シリーズ最新作『銀翼のイカロス』 池井戸潤 https://t.co/snhEuoYS0S 4年弱前 replyretweetfavorite

fka_shanghai "もともと黒崎は、オネエ言葉じゃない、普通の検査官だったんです。" 4年弱前 replyretweetfavorite