第87回 切断エリプス(前編)

「ねー、もちろんそれも証明できるんだよね?」とユーリは言った。

第86回の続き)

今日は土曜日。ここはの家。 いとこのユーリはダイニングで、母さんが作ったスパゲティを食べている。

「ユーリ、何見てるんだ?」

ユーリはさっきから皿をじっと見つめている。

ユーリ「ねーお兄ちゃん。これって楕円だえん?」

「何のこと?」

ユーリ「このソーセージ」

ユーリはスパゲティに入っていた小さな輪切りのソーセージをフォークの先でつついた。

「ああ、そうだね。ソーセージを円筒えんとうだと思って、ナイフを平面だと思えば、断面は楕円になるよ。 切ったあとで炒めるから変形しちゃうけどね」

はそばにあった紙に、円筒を平面で切る図を描いた。

円筒を平面で切る

ユーリ「お兄ちゃん、図うまいね! ちょっとゆがんでるけど」

「ミルカさんみたいなツッコミどうも。 ソーセージみたいな中身が詰まったものだと、 円筒というより円柱といったほうがいいかな。 まあ、形に注目するだけなら円筒でかまわないけど」

ユーリ「ほら、こないだ《ささやきの回廊》のこと教えてくれたじゃん?(第84回 卵のないしょ話参照)あれから、楕円が気になって気になって……」

「大げさ」

ユーリ「へへ。てゆーかさ……《焦点から焦点へないしょ話が伝わる》って、お兄ちゃんが証明してくれたじゃん? あれ、けっこー感動もんだったから」

「それはそれは」

「どう? 感想が聞こえてこないけど、おいしいかしら?」

ユーリ「はーい、とってもおいしいです」

「よかった。あなたは?」

「まあ、おいしいけど」

「けど?」

「おいしいよ……ごちそうさま」

ユーリ「あっ、ちょっと待ってお兄ちゃん。ユーリもすぐ食べ終わるから!」

の部屋

ユーリ「早くやってよ!」

「何を?」

ユーリ「さっきの、証明して! ソーセージの楕円問題」

「え、あの話まだ続くのか」

ユーリ「《円筒を平面で切ると、断面が楕円になることを証明せよ》……ほら、入試にもきっと出るよ! この問題」

「出ない出ない。それに断面は楕円になるとは限らないし」

ユーリ「え?」

「こんなふうに、水平に切ったら断面は円だろ?」

円筒を水平に切った断面は円

ユーリ「それは、お兄ちゃんにしては甘い主張だにゃ。円は楕円の特別な場合でしょ! 円も楕円の仲間なんだから、 断面が楕円って言ってもいーじゃん」

「さすがにユーリはだまされないか……いや、やっぱりちがうな。円筒を平面で切ったときに断面が(円を含む)楕円にならない場合はあるよ」

ユーリ「え!」

「わかるかにゃ……」

ユーリ「ユーリのマネするなー! ……ほんとに?」

「ほんとほんと」

ユーリ「……わかった。あれでしょ? ソーセージを横や斜めに切るんじゃなくて、まっすぐ縦に切る。そうしたら断面は……直線?」

「そうだね。円筒を、その中心軸に平行な平面で切った場合、 普通は直線が $2$ 本になる。 ぎりぎりソーセージに接するようにナイフを使えば、直線は $1$ 本。 まあ接する場合を切断といえるかどうかは微妙だけどね」

ユーリ「そんじゃ、条件付け加えて、こーゆー問題にする! 《円筒を、中心軸に対して斜めの平面で切った場合、断面が楕円になることを証明せよ》……これなら文句ないでしょ?」

「……しょうがないなあ。じゃ、いっしょに考えてみようか」

ユーリ「うん!」

読者さんへ
ここで先に進むのをちょっとストップしてください。
ユーリの問題、
《円筒を、中心軸に対して斜めの平面で切った場合、断面が楕円になることを証明せよ》
あなたなら、どう考えますか?

座標を定める

「しかし……なかなか難しい問題じゃないかなあ、これ」

ユーリ「お兄ちゃんならできるよ!」

「まずは少し図を描いてみようか。断面が円になったり、楕円になったり、直線になったりするのは、 全部、ナイフとなる平面の角度が変わったからだよね」

ユーリ「うん。角度が変われば形も変わるね」

角度を変えれば形も変わる

「だとすると、きっとこんなふうに角度を $\alpha$ としておくといいかもしれない。一回の切断で $\alpha$ は定数。決まった角度でスパッと切るから。角度を変えて切るというのは、 $\alpha$ の値を変えることに相当する」

角度を $\alpha$ とし、座標を定める

ユーリ「ふむふむ。この $x$ と $y$ は?」

「うん、切断に使う平面の上に《座標》を決めておこうと思ったんだ。さっきから《断面の形》と言ってるけど、その形っていうのは、 この平面上に描かれた形のことだからね」

ユーリ「ふーん」

「この図の $O$ は、この円筒の中心軸と平面との交点のこと。ここを座標の原点に取ることにすると、きっといいと思う」

ユーリ「何で?」

「なんとなく」

ユーリ「なにそれいいかげん!」

「いや、ごめん。なんとなくじゃない。僕たちのゴールを考えると、ここに原点を置くのがいいとはっきりしている」

ユーリ「ゴール?」

「がく。この断面が《楕円である》と証明するのがゴールだろ?」

ユーリ「そーだけど……」

「じゃ、ユーリにクイズだよ。僕たちはいまこの断面が《楕円である》といいたいわけだよね?」

ユーリ「うん、そーだね」

「では、何がいえたら《楕円である》といえると思う?」

ユーリ「何がいえたら……って、楕円であるといえたら。じゃないの?」

「それじゃ話がぐるぐるまわってしまう。ユーリはもう楕円についていろんなことを知っている。 いまここに $x$ と $y$ の座標がある。何がいえたら《楕円である》といえる?」

ユーリ「 $x$ と $y$ の……」

「うんうん」

ユーリ「あったじゃん、ほら。 $x$ と $y$ が出てきて、イコール $1$ になるの。 $x$ と $y$ の式」

「そうそう。それのこと。楕円の方程式

ユーリ「それだ!(第83回参照)」

楕円の方程式
$$ \left(\dfrac{x}{a}\right)^2 + \left(\dfrac{y}{b}\right)^2 = 1 $$

「そう。僕たちは楕円の方程式を知っている。 $x$ と $y$ の座標があって、点 $(x,y)$ が楕円の方程式を満たしているなら、 その点は楕円上にあるわけだ。 だから僕たちが進む道はこれで決まった。何とかして、 切断面の形が楕円の方程式を満たしていることをいえばいい」

ユーリ「ふむふむ……でも、どーやって?」

「それを、これから考える」

ユーリ「あ、そーなの……」

は少し考える。 こうすれば……わかるかな?

「ちょっと図を描いてみるよ、ユーリ」

ユーリ「どーゆー図?」

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結城浩

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コメント

tsatie “@aramisakihime: まずこのタイトルの切れ味。 > ” どうせなら「エリプスの恋人」、、、それは筒井! 4年弱前 replyretweetfavorite

aramisakihime まずこのタイトルの切れ味。 >  4年弱前 replyretweetfavorite

chibio6 何気に難しかった。どうにか理解した。 4年弱前 replyretweetfavorite

lyuda83 一度読んだ後に自分で解いてみた。できたー(≧∇≦) 円柱を斜めの平面で切って体積を求める問題と似てるところが。 4年弱前 replyretweetfavorite