大学時代からつくりはじめた「歩く機械」
木村匡孝(きむら・まさたか/株式会社TASKO 設計制作部 工場長)
1981年、東京都生まれ。2004年、多摩美術大学 情報デザイン学科卒業。多摩美術大学在学中、電動芸術研究室で「ロボットと平和についての研究」を専攻する。明和電機のアシスタントワークを経て独立後、「東京KIMURA工場」を設立。エンジンやモータを用いた「KIMURA式自走機シリーズ」を始めとする、いわゆる「バカ機械」や誰に頼んでいいかわからない機械の受注・生産を手がける。2012年、総合制作会社「株式会社TASKO」の立ち上げに参画。他ジャンルとのコラボレーション、テクニカルコンサルティング等、電気と機械にまつわるさまざまな業務を引き受けている。
はじめまして、木村匡孝と申します。私は「KIMURA」「明和電機」「TASKO」という3つの活動の場を持っているので、まずはそれぞれでつくってきたものを紹介します。
ひとつ目の「KIMURA」は個人としてつくりたいものをつくる活動です。主に「歩く機械」をつくっています。2000年に、ホンダのASIMOが発表されたんですよね。それを見て、すごい時代がきたと思いました。きっとこれから、アトムやドラえもんのようなロボットが実現して、21世紀はロボット世紀になる!と1人で盛り上がったんです。それで、自分でもロボットをつくろうと思い、2年後の大学2年生のときに「peace walker」という二足歩行の機械を制作しました。
これは「KIMURA式自走機シリーズ」という、私がライフワークとしてつくり続けているシリーズの原点です。当時はとりあえず「こんな感じのものをつくりたい」という、漠然としたイメージだけでなんとか完成までもっていきました。でも、すごくいいものができたと思えたんです。この経験がとてもしっくりきて、自分はこの道で食っていこうと決めました。
これに気を良くして、今度はエンジンで歩く「foottawayシリーズ」というのをつくりました。
その後、エンジンで歩く犬をつくろうと思いました。それがこの「INUシリーズ」です。
当時、アメリカのアル・ゴア副大統領が環境問題についての提言をして、石油があと20年で枯れるというようなことを言ったんですよね。そうしたら、エンジンというものがなくなってしまうかもしれない。私はすごくエンジンが好きなんです。天気の悪い日には調子が悪いとか、そういう生き物みたいな感覚のあるパワーソースってほかにない。エンジンがなくなってしまうなら、そのオマージュになるような作品をつくりたいと思ったことが製作のきっかけです。実は20年で枯れるなんてことはなかったみたいですけど(笑)。
そのあと「television」という作品をつくりました。
このとき、人工知能にとても興味があったんです。televisionはあたかも知能を持っているかのように、テキストの読み上げ機能を使って作品をプレゼンしてくれます。
これは「KIMURA paper craftシリーズ」です。
これは、某プラモデルメーカーから試作を依頼されてはじまったシリーズです。まずは簡単でローコストなので、紙で試作品をつくりはじめました。そうしたら、むしろ紙でつくることそのものがおもしろいと感じたんです。
これまで自分の作品は、金属などの硬い素材でつくることが多かったんですよ。それってたぶん、自分のイメージしたものを堅牢なかたちにして残したいという欲求があったからなんです。硬ければ硬いほど、頑丈であれば頑丈であるほど、自分の死後も残り続ける。そう思っていました。でも紙でつくってみたときに、紙なら誰でも簡単に加工でき、図面さえあればいつでも再現できることに気づきました。それって堅牢なものをつくるよりも、時空を越えて残り続けるということなんじゃないかと思ったんです。
次に「明和電機」としての活動について紹介します。
明和電機ってご存じですか? 土佐信道というアーティストがやっているアートプロジェクトです。
作品を展覧会で発表するだけでなく、ライブパフォーマンスをやったり、CDを出したり、おもちゃをつくったりもしています。この「オタマトーン」という楽器は見たことがあるかもしれません。明和電機は土佐さんが社長という設定で、作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、中小企業の町工場のようなスタイルをとっています。だからみんな作業服を着ているんですね。一番左にいるのが私です。ここに、大学を卒業してすぐ入り、機械技術やアーティストとして活動を続けていくシステムなどについて学びました。今ではライブのサポートなどをやっています。
アーティストや企業のイメージをかたちにする
3つ目は「TASKO」としての活動です。TASKOは2012年に立ち上げた会社で、簡単に言うと土佐社長のいない明和電機です(笑)。明和電機は、土佐信道というアーティストの表現活動のために、マネジメント、舞台制作、ステージ補助、機械制作、デザインとサポートをしている人たちがいます。私もその一人です。じゃあ、その土佐社長がいるポジションに、いろいろな人・ものを当て込んで作品制作をすることができるんじゃないか、と考えたのがもともとの始まりです。
TASKOにはプロデュース事業部、設計制作事業部、舞台制作事業部、WEBデザイン事業部という四つの部があります。私は、設計制作事業部を担当しています。明和電機で言うと、楽器を含めたいろいろな機械をつくる部門ですね。そこは、各種電飾・機械の制作や、プロダクトのモックアップ制作、コラボレーションによる作品制作、オリジナル機械の販売・レンタルなどをしています。
そして、一番依頼が多いのがテクニカルコンサルティングです。「こんなものをつくりたいんです」というイメージだけがあるクライアントに、そのつくり方を教えたり、実際につくったりしています。分野としては、ステージやPV、広告などさまざまです。ももいろクローバーZの衣装などは、けっこう昔から手がけています。昨年の紅白歌合戦の衣装では「スキャニメーション」という、細いスリットを動かして、その隙間から見える絵がアニメーションのようになる技術を使っています。
ステージ衣装は、重いと大変です。軽くするにはと考えて、思いついたのがこれでした。スキャニメーションはかなり昔からある技術なんですけど、それと現代のデジタル技術を組み合わせるとおもしろい効果が生まれるんですよね。最新技術を追い求める会社はほかにもあるので、TASKOとしてはもっと100年、200年前の技術をどんどん応用していきたいと考えています。
Z-machinesというZIMAのキャンペーンで、ロボットが楽器を演奏するという作品もつくりました。
これは色々なテクノミュージシャンが楽曲をつくっているのですが、彼らがこの楽器たちを使いこなしてくれて感動しました。
あとは、「TRUE LOVE TESTER」という、愛がないと外れないブラジャーというのをつくりました。
これには前回、青木さんがお話していたkonashiが入っています。ライゾマティクスさんとの仕事で、私はロック部分の開発を担当しています。男の人が外そうとしてもホックが外れないんですが、女の子がドキドキしていたらそれを感知して外れるようになっているんですよ。シンプルですが、わりとよくできています。
あと、PARTYさんと一緒にやったandropの「World.Words.Lights.」という曲のPVにも関わっています。
このときは音楽に合わせて動く機械をつくる、プロダクト制作をやっています。MIDIデータと完全に同期するというのがミソで、何回やっても同じ動きになるんです。
「空想のつくり方を考える」という仕事
ここでひとつケーススタディをお話しします。富士ゼロックスの広告で「四次元ポケットproject」というのがあり、中小企業が力をあわせてドラえもんのひみつ道具をつくるという企画をやりました。
これがプロジェクト全体のCMです。
ドラえもんのひみつ道具の絵をぽんと渡されるところから企画がスタートしました。「セルフ将棋」ってドラえもんのひみつ道具辞典に載っているだけで、本編には登場しないんですよ。ヒントになるのはこの絵だけ。この2Dの平面の画像から、物体にするところまでの手段を考えるんです。こういうことはよくあります。クライアントのこれをつくりたいという漠然としたイメージを解釈し、実現方法を考える。「空想のつくり方を考える」というのがTASKOの本質だと考えています。
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