オリーブ』の非モテ志向と『アンアン』

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代、女の子達に与えた影響を分析します。今回は七〇年代の『アンアン』から継承された精神を見ていきます。
この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間」全4回も収録! オリーブの罠、とは何だったのでしょうか?

「モテたい」男性誌と「モテに執着しない」女性誌

  モテ系、愛され系ファッションを目指さなかった、『オリーブ』。それは何故なのかと考えてみますと、まず挙げられるのが「社風」なのだと思います。平凡出版/マガジンハウスが現在までに刊行してきた女性誌群を見ても、どれ一つとして「モテ」を志向したものはありません。『オリーブ』もまた、その流れに乗ることが宿命であった雑誌なのです。
 とはいえ同社の男性誌は、その限りではありません。『平凡パンチ』も『ポパイ』も、異性についての興味はたっぷり持つ雑誌。男性誌は「モテたい」と声高に言い、女性誌は「モテに執着しない」と言うのが、同社の雑誌なのです。

 同じ会社の雑誌ながら、モテに対する姿勢に大きな男女差が見られる理由は、男性誌、女性誌それぞれにとって、「その方が新しかったから」なのだと私は思います。男が堂々と「モテたい」「女の子大好き」とはまだ言いづらい時に創刊されたから、『平凡パンチ』『ポパイ』は、そんな気持ちを堂々と開陳した。そして、「女は結婚が一番の幸せ」という時代だったから、『アンアン』は「女の人生、モテだけではないでしょう」と提案したのではないか。すなわち「時代が内包しているが口に出せない思い」を早めに表現する、というのがこの会社の社風。

 平凡出版/マガジンハウスの源流は、一九四五年にできた「凡人社」。雑誌『平凡』は歌謡曲や映画の情報をふんだんに盛り込み大ヒット、一九五四年に社名を「平凡出版」にした後、一九五〇年代末には『週刊平凡』を創刊し、こちらも人気雑誌となります。

 そして一九六四年に創刊されたのが、日本初の若者向け男性週刊誌の『平凡パンチ』。この雑誌の創刊は、日本の若者にとって非常にエポックメイキングな出来事であったと、半ば伝説のように語られています。
「スピード、スリル、セックスという若者好みのアイテムを扱った企画物記事が、たちまち当時の男子高校生、大学生のただ薄暗かった生活・風俗に、金のかかる新しいライフスタイルをふきこんだ。学生服から、VAN・JUNブランドの陽気なファッションへ、街をスピーディに移動する密室感覚のクルマへ、責任とか義務が押しつけられない、スポーツのような性的関係へ」(『平凡パンチの三島由紀夫』椎根和、新潮社)
 というこの雑誌は、新しいものに飢えていた若者の心を掴んだのです。

『平凡パンチ女性版』から『アンアン ELLE JAPON』へ

 そんな『平凡パンチ』からスピンオフしたのが、『平凡パンチ女性版』。これは一九六六年に、臨時増刊として発売されました。
 この「女性版」は、一つの役割を担っていました。一九六九年の二月に、平凡出版はフランスの雑誌『ELLE』との全面提携の契約を結びます。『ELLE』日本版を出すにあたって、そのパイロット版としての役割も、『平凡パンチ女性版』は担っていたのです。

 そして翌一九七〇年三月に出たのが、「ELLE JAPON」という文字が併記された、『アンアン』創刊号でした。今、『ELLE JAPON』はマガジンハウスから離れて他の出版社から発売されていますが、創刊から一九八八年までは『アンアン』=『ELLE JAPON』だったのです。
 それは日本で初めての、ヨーロッパ直輸入ファッション誌でした。本家『ELLE』から送られるファッションページに日本独自の編集ページも加えた構成。
 そんな『アンアン』は、女性誌業界に新風を吹き込んだものと思われます。それまでは、女性誌といえば主婦向けか少女向けが主。「若い独身女性」向けというマーケットは、まだ開拓されていませんでした。

 女性誌のあり方は、当時の女性の生き方を如実に示していたとも言えましょう。一九七〇年代は、「女はみんな結婚する」時代。女性が仕事をするにしても腰掛け感覚で、結婚したら退職するのが普通でした。日本女性達は、少女時代の後はいきなりおばさんになるしかなかったのであり、可処分所得を持った独身女性のボリュームは、極めて少なかったのです。女性誌もまた、そんな女性分布に従って構成されていました。
 そこに登場したのが、『アンアン ELLE JAPON』。初めの頃はあまり売れなかったそうなのですが、しかし主婦雑誌も洋裁誌も読みたくなかった数少ない“若い独身女性”達は、「こんな雑誌が欲しかった!」と、喜んだのではないか。

 『オリーブ』に「リセエンヌ」が初めて登場した時、
「いまから7、8年前のこと。『オリーブ』のお姉さん雑誌『アンアン』で、何度となくリセエンヌのライフスタイルやファッションを特集していました。その頃の『アンアン』、大好きだった人も少なくありません」
 という記述がされていたことを、以前ご紹介しました。「いまから7、8年前のこと」とはすなわち、一九七〇年代半ばのこと。『アンアン』にリセエンヌが登場したのは、やはりそれが『ELLE JAPON』でもあり、フランスとの結びつきが強かったからなのです。

『アンアン』における「リセエンヌ」

 『アンアン』における「リセ」の初出は、一九七一年の十月二十日号。
「フランスの高校生 五月革命以降彼らは変わった そのオドロクべき変ボウぶりを探る」
 と題した見開きのコラムにおいて、五月革命がリセに及ぼした影響について記されています。一九六八年の五月に、ソルボンヌ大学で起きた学生によるストライキの影響が高校にも飛び火したのが、五月革命。
「五月革のまえ、フランスの高校だって日本と同じくらいきゅうくつだった。白いブラウスとグレーのスカートじゃないといけないとか、言うことはだいたいつまらないことだけど」
 という状態だったのが、五月革命の後は、あるリセでは服装も自由になり煙草もOKに……という具合。
 この時期、日本でも学生運動はまだ続いていました。『アンアン』においても、リセと五月革命のつながりを示すことによって、読者に何らかの刺激を与えようとしたのだと思います。そこには、うっすらとした政治と思想の匂いが漂っていたのです。

 その後、一九七三年頃から「リセエンヌ」という言葉は『アンアン』に頻出するようになるのですが、その頃になると「リセエンヌ」から政治や思想の匂いは消え、ファッションアイコンとしてのみ、存在するようになります。
「リセの生徒たちのお気に入り」
 として、リセエンヌのコーディネートや持ち物を紹介したり、
「リセの新学期」
「15歳:私はリセエンヌ」
 といった特集も。

 今の『アンアン』は、社会人女性向けのファッション誌という印象がありますが、この頃の『アンアン』のターゲットは、もっと若かったようです。前述のように「若い独身女性」があまり存在しなかったせいなのか、大学生やその下の高校生をも意識した作りになっており、だからこその「リセエンヌ」でもあったのでしょう。
 そうしてみると初期『アンアン』と『オリーブ』は、とてもよく似ているのです。
 『アンアン』には、
「制服がない高校のハイ・スクール・ルック」
 などという特集もあって(一九七四年十二月五日号)、そこで紹介されているのは成城学園高校、立教女学院高校、女子学院高校、玉川学園高等部など。それから十年後の一九八四年のオリーブでは、
「制服のない学校だから、おしゃれ。」
 という特集がなされ、そこにも成城学園高校や女子学院高校の生徒達のスナップが載っていることを知っている私としては、「初期『アンアン』って、『オリーブ』だったんだ!」と驚かされます。そして付属校カルチャーは、この頃から重視されていたのだ、と。

「ニュートラ」に動揺した『アンアン』

 しかし両者が完璧に似ていると言い切れないのは、初期『アンアン』では「モテの問題を切り捨ててもいいのか」という迷いが見られるからなのでした。
 たとえば、『アンアン』一九七五年九月五日号では、「ニュートラのすべて」という大特集がなされています。「いま静かなブームが起こりつつある。震源地は神戸」とされるニュートラとは、「ニュー」な「トラッド」。かっちりとしたトラッドに女性らしさをふんだんにとりいれるというスタイルです。それは異性を怯えさせないけれどちょっとしたお色気を感じさせるという、男性好みのファッションとして認知されていました。

「ニュートラのすべて」が大特集された『アンアン』1975年9月5日号(表紙のみ「ニュー・トラのすべて」)

  同年には、ニュートラ女子大生向け女性誌『JJ』が創刊され、その後の赤文字系女性誌ブームの発端となりました。『アンアン』は「リセエンヌ」ファッションを提案していたけれどその概念はさほど人口に膾炙せずにいたところに、「ニュートラ」というビッグウェイブがやってきたため、『アンアン』においても動揺が起きたのでしょう。
 神戸と東京、それぞれのニュートラ女性がこの号では紹介されていますが、
「夕方6時には家に帰るし、母が眉をしかめる服装はしません」
「学校を出たら22歳くらいで結婚したい」
「いわゆるGパンは嫌い」
 といったニュートラ女子達の発言からは、彼女達の確固たる“主義”が見えます。「原宿ふうのファッション」については、
「買う気は起こらない、あれこそ非個性的」
 といった発言もあり、保守派のニュートラvs.革新の原宿ファッション、という構図が見て取れるのです。

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オリーブ』の罠

酒井順子

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代を振り返ります。この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間...もっと読む

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コメント

m_um_u やけに詳しいなと想ったら酒井順子さん本人が書いてた。「平凡→平凡パンチ→平凡女子+ELLEJAPAN→アンアン → オリーブ」 3年以上前 replyretweetfavorite

m_um_u アンアンのセックスでにきれいになれた?とか負け犬の遠吠えあたりのあのへんで代表的なのってなにかなあとぐぐりつつ http://t.co/fEA60o5iuW http://t.co/uT98tgxFeR @finalvent がcakesでユーミン語りしないかなあと 3年以上前 replyretweetfavorite

hiroko_is かなり保存版// 約4年前 replyretweetfavorite

c3po2006 となると最近の『アンアン』における男を喜ばすハウツー満載のセックス特集はなんなんだろうと… → 約4年前 replyretweetfavorite