【ハーレクイン豆知識:人気作家】
世界中の作家の夢である「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーリストには、ノーラ・ロバーツやリンダ・ハワード、ダイアナ・パーマーをはじめとする数多くのハーレクイン社の作家の名が常に登場しています。 ハーレクイン黎明期に活躍したアン・メイザーもそんな代表作家の1人。「彼女に憧れてロマンスを書き始めた」と数多くの作家に言わしめた、伝説的なロマンスの巨匠です。
【作品紹介】
『愛は繰り返す』
ヘレンは16歳のとき、リードという年上の男性を愛し、妊娠した。 だが彼は煙のように消えてしまい、ヘレンは弄ばれた失意とともに、 10年のあいだ恋愛もせず、娘とふたりで生きてきた。 そんなとき出会ったのが、おだやかで優しいジョンだった。 まだほんの友達づきあいだが、彼がヘレンに惹かれているのはわかる。 一歩、踏み出してみるべきなのかもしれない……。 ヘレンは、バミューダにあるという彼の実家への招待を受けた。 ことのほか広大で美しい敷地に立つ邸宅に驚いているヘレンに、 金融界の大物だというジョンの父親が紹介された。 これは——運命の悪戯なの? ヘレンは呆然とした。 目の前に立っていたのは忘れもしない、あのリードだったのだ。
「なぜ来たの?」
「これがイギリス式もてなしなのか。ひどいもんだ!なぜ来たのかって?もちろん君に会うためだよ。ほかにどんな理由がある?ふたりで初めからやり直せないものかと思ったからだ」
「初めからやり直す?」
アレクサのことを知らないのなら、なぜやり直す必要があるのだろう?アレクサのことを知っているのなら、なぜそう言わないのだろう? うろたえてしまい、ヘレンは慎重さを失った。すばやくリードのそばをすり抜けて戸口に突き進み、ドアを背後で閉めようと押したが、一瞬、遅かった。リードの靴が敷居に差し込まれていた。彼の力には勝てなかった。
「君は正気なのか? 僕のほうが狂っているのか? 会えば君は喜ぶと思っていたよ!」
体が凍ったようになり、もう抵抗できない。訪ねてきた理由が何であれ、もう彼を拒絶したくない。
「わかった。出ていくよ。なぜ思い違いをしたのだろう?」
彼は肩をすぼめて出ていこうとした。
「いやよ……」
声が喉に詰まった。彼を行かせてはならない。どんなに無分別な決心だとしても、彼を立ち去らせてはならない、この気持を知らせもせずに。
リードは振り返らなかった。自分が耳にしたことに自信が持てないというように立ち止まっただけだった。ヘレンは近づくと、こぶしを握り締めた。勇気をふるい起こしてその手を彼に差し伸べ、おずおずと腰に触れる。身震いが手首から伝わってきた。
ヘレンはリードの背中のくぼみに唇を押し当てた。シャツを通して温かい体のにおいが立ち上る。 リードは低いうめき声を出してヘレンに向き直った。
「ああ……ヘレン!」
彼は片手でヘレンのうなじをとらえながら、もう一方の手でドアを閉めた。そして唇を求めた。
以前にもふたりはキスを交わした。だが、これほど魂をこめたことはない。この瞬間のために今まで生きてきたようだった。過去は消え、確かな未来もなく、望みどおりの現在があるだけだ。そのために償いをすることになってもヘレンに悔いはなかった。
ふたりは固く抱き合っていた。ヘレンの手はシャツの下の、湿り気を帯びた肌を滑った。 リードは息を止めた。彼の手はタオル地のバスローブの下に伸びた。ヘレンの首筋に濡れた髪から水滴が落ちた。さらに肩からバスローブをはぎ取られ、羞恥心が彼女を襲った。
「鍵をかけなきゃ……」
「ああ、そうだね」
リードはかけ金を下ろすと、シャツのボタンを外してかなぐり捨てた。そして、ヘレンを抱き上げ、居間に歩いていった。 一つしかない寝室を探すのは簡単だった。
ヘレンはアレクサと一緒にその部屋を使っていた。狭いシングル・ベッドが並んでいるのを見て、リードの口もとは少しゆがんだが、彼はヘレンを片方のベッドに下ろした。ジーンズを脱ぎ捨てたリードが歩み寄ってきた時、ヘレンは抵抗する力を失っていた。
リードは胸のふくらみに顔を埋めた。ヘレンの指は自然に彼の髪に滑り込んだ。清潔な髪は絹のように柔らかく、少し湿り気を帯びている——ちょうど肌と同じように。感情に押し流されるままに彼女は彼を迎え入れた。
温かくしなやかな肌は欲望を誘い、ヘレンを強烈な充足に導いた直後、リードは自分の高揚におののき震えながら果てていった。
数分の後、ヘレンは目を開けた。湿った肌に空気がひやりとする。彼女は愛の余韻にまだうっとりと漂っていた。現実に返るのが、何よりもリードが来た理由を、あるいは過去の過失に根差した将来を考えるのが嫌だった。現在にだけ生きたかった。この瞬間をリードが許すかぎり、しっかりと捕まえていたい。彼が無条件に、本当に愛してくれていると思っていたい。 リードが身動きして、ヘレンは夢心地を破られた。彼は肘をついて、ヘレンを見下ろしていた。細めた目は何かを尋ねている。彼女は目を閉じ、とがめるようなまなざしから逃れた。
「すまない……ほかに恋人がひとりだけいたと君が言った時、僕は信じられなかった。でも、今はわかるよ。ずっと昔のことだろう?」
「ほかの恋人?」
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