みんないろんなこと気にし過ぎ、でもオレは気にしてない(キリッ)。

フェイスブックに「いいね!」があっても「わるいね!」がないのは当然、「いいね!」の反対は「無関係」であるというのは作家・評論家の東浩紀さん。無闇にツイッターRT数を気にする人々、はたまた炎上して活動を自粛する企業を見て、「みんなネットに流されすぎ」と説く、その心とは。
検索すればあらゆることがわかる時代。日々たくさんの情報に埋もれているけれど、果たして本当に欲しい情報はなんなのか。茫漠としたネットの時代において「かけがえのない生き方」を示した作家・思想家の東浩紀さんの新著『弱いつながり 検索ワードを探す旅』の刊行を記念し、あんなことからこんなことまで、脱線上等でじっくりお話を伺いました。

人生は偶然でできている

— 『弱いつながり 検索ワードを探す旅』刊行おめでとうございます。今回、東さんにとっては初めての、哲学や批評に興味のない読者を想定した、読みやすい本ということだったんですけど、どうしてこの本を書かれたんですか?

弱いつながり 検索ワードを探す旅
『弱いつながり 検索ワードを探す旅』

東浩紀(以下、東) そうですね、当時幻冬舎の編集者に中島さんっていう方がいて、その方からお願いされた企画です。ただ……、突然中島さんが幻冬舎から去ってしまって。その後もうちの会社を手伝ってくれたりとかして、今はcakesというメディアにいるようですけれども。

— えっと……。

 あ、あれ? もしかして同じ中島さんでは?

— き、奇遇ですね……。

 全然気がつかなかった!

— あははははは(汗)。

 どうこの始まり方(笑)。

— あの……、ソワソワしてます(笑)。せっかくなので、元担当編集として踏み込んでお話を伺うためにも、当初の経緯をお話すると、東さんの飲み屋話を、エッセイにしたいなと思って企画をご相談したんですよね。
 ツイッターやトークイベントとかでの東さんのはっちゃけた人生論や、世間へのツッコミの冴え渡っている様子などを拝見していました。そこで、語り下ろしを構成し直す時事放談スタイルをご提案しました。

 そうそう。ただ、この本にまとめる段階で、そこらへんの時事的な雑談はだいぶ削って、元々の連載の2/3以下の分量になってます。そういう意味でも読みやすいんじゃないかと思います。

— 連載時の原稿(星星峡 & cakes掲載『検索ワードをさがす旅』)に入っていた、口内炎が大変だとか、突然思い立って奥様と長野オリンピックにいったら当日券なんてなかった、トホホ……というエピソードなども、とても楽しかったんですけどね。

 この本は、今までのかっちりした本に比べると、自己啓発っぽいというか、軽い感じに見えるかもしれないですけど、その修正のせいで意外とちゃんとぼくの思想が出ます。ぼくが今までやってきたことが驚くぐらい一貫して説明されている。

— と言いますと?

 自分で自分の仕事について説明してるんだから、当然といえば当然なんですけど、今までの東浩紀の活動が、こんなにクリアに一貫して説明されたことはないんじゃないか(笑)。古くからの読者さんも驚くんじゃないかと思います。
 思えばぼくは、まずフランスの哲学者デリダについて本(『存在論的、郵便的』1998年)を出して、つぎにオタク論(『動物化するポストモダン』2001年)を出して、出版社(「コンテクスチュアズ」改め「ゲンロン」2010年)を立ち上げて、ゲンロンカフェとかやって、チェルノブイリ(『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』2013年7月)行って、今度は福島(『福島第一原発観光地化計画』2013年11月)に行って……。

— 確かに、活動の遍歴を知る人は、東さんが新しいことをするたびに「東浩紀よ、どこへ行く」と思っていたかもしれないですね。

 でもそれは難しく考え過ぎなんですよ。これ読めば、こんなに簡単なことだったのかと驚くと思います。この本は「よくわかる東浩紀」だなって、自分でゲラを直していて思いました。

— ネットとリアルや、世相のことを読み解いているつもりが、そこに貫かれているものを読むと、「なんだこれは東浩紀のことじゃないか」と。

 そうそう。そういう意味でもこれは、「みんないろんなこと気にし過ぎだよね、でもオレは気にしてないからさ(キリッ)」みたいな本です(笑)。

— 「いろんなこと」というのは?

 貯金して、いつ結婚して、いつ子供産んで、とか。

— 本書で、何回も同じ人生を生き直せれば、統計学的には利益の大きい計画は立てられるけれど、「一度きりの人生」においては、ちょっとした偶然で簡単に計画が吹っ飛んでしまうというお話がありますね。

 そうです。

— そういえば、東さんは当然エゴサーチ済みだと思うのですが、ネットに「東さん、あの時こう言ってたけど、今反対のこと言ってるのおかしくない? どっちなの?」っていう発言の矛盾を集めたツイッターまとめがあるじゃないですか。思想の一貫性がないのでは的な。

 ぼくに限らず、みんないろいろなことを気にしすぎだと思いますね。むろん、ぼくが何かについて立場を変えたことで、迷惑を被った関係者が文句を言うのはしょうがない。それでぼくが信用できないと思ったら離れればいい。でも、人間はそもそも状況に併せ変化するものでしょう。政治家にしろ経営者にしろ、一〇年前といまでまったく同じこと繰り返している人がいたら、そっちのほうが問題ですよ。
 というか、そもそも最初からぼくの仕事を無価値だと思っているなら、そんなの検証しても意味がないと思うけどな。

— 確かに。

ネットには「いい関係」と「無関係」しかない

 そういえば、フェイスブックって「いいね!」しかないじゃない。あれ、「わるいね!」がないのは一方的でよくないと言うひとがいるけど、ぼくはむしろ当然だと思うんですよね。「いいね!」という評価は新しい関係に繋がるけど、「わるいね!」は本当は関係に繋がらないんですよ。だって、自分にまったく関係がないひとが、自分に害を与えるわけでもないなにかの活動をやっていたとして、「わるいね!」と思ったら普通はそのままスルーでしょう。そこで「わるい、わるい!」って叫ぶのはいわゆるアンチです。
 つまり、「いい関係」「悪い関係」「無関係」が並列にあるんじゃなくて、そもそも「いい関係」と「無関係」しかないんですよ。「いいね!」かスルーか。

— 「悪い関係」ならばネット上で積極的に構築されるはずがない、ということですかね。

 批判というのは、本当は「いいね!」を前提としているわけ。というか、なんらかの「関係」を前提としている。日本のネットはそれわかってないひとが多すぎだと思う。
 相互の関係性が前提にない「批判」というのは、単に無関係なひとが悪意の発露でやるクレームでしかないから、別に対応する必要がないんです。この割り切りは、ネットで生きていくためには必要だと思うんですけどね。村人(当事者)の中では確かに批判は大事なんです。だって、批判者たちとこれからも一緒に生きていかなきゃいけないんだから。
 でもネットって、村でもなんでもなくて、ただの茫漠たる世界です。べつにこれからの人生、匿名のネットユーザーと一緒に寝食をともにするわけでもないじゃない。ネットは広大だから、相互に無関係でいることが許されている。だとすれば、嫌だと思ってる人たちは無関係になればいい。ぼくはぼくで生きる。アンチはアンチで生きる。別にそれでいいと思うんだけどね。

— つまり、仮によその村人たちの間で、炎上しても関係がないと。

 そうそう。例えば「ゲンロン友の会」の会員から不満が寄せられたら、これはまずい。彼らからの批判は真摯に聞く必要がある。関係がすでにあるから。あとむろん、アンチが現実に犯罪行為とか働き出したら、それも断固対処する必要がある。関係ができているから。
 でも、ぼくの読者でもない、ゲンロンの会員でもない、仕事でも関係ない、そして現実になにか犯罪を起こしたり妨害行為をやるわけでもない人々がいくらネットで批判していても、それはぼくの人生に無関係なので、単にそうですか、考えが違いますねっていうことでしかないわけです。

— 対岸で煙が立って“炎上”しているように見えても、そもそも火がつく対象がないと。

 原理的にはね。でも企業の対応とかも、本当はそれでいいと思うのよ。クライアントや顧客が批判してきたら当然対応しなきゃいけない。でも、自分の商品を手に取りもしないし、買いそうにもない人たちがネットでいくら盛り上がってたとしても、そんなの無視でいいんじゃないですかね。無関係ですよ、それは。

— 確かに、ツイッターで炎上して、企業が自粛するような騒ぎを見ていると、そこまでしなくていいのに、と思うことはあります。

 いっぱいありますよね。とにかく、あるていどは無視というか、対応すべき相手とそうでない相手をきちんとわけないと、ネットではどこまでも疲弊しますよ。結論から言うと。

— 政府の問題だと、さすがに自分の国のことですから、ちょっとしっかりしてくれよ、と思いますけど。

 国は、みんなが国民だから。

— でも、アメリカの医療についてどう思う?って問われても、当事者じゃないですからね。

 この世界さ、別に料理でも服でもいいけど、万人が気に入ってくれるものなんてないわけですよ。あれは趣味が悪い、食べられない、みたいなものがいっぱいある。その人たちはその店に来ないし、それでしょうがない。その店をおいしいと思って来てくれてた人たちが、不満を言い出したら大事だけど。
 すべての商売ってそうでしょ。これはぼくが、商売をするようになったからそういう考え方をするようになったということかもしれないけど。

— ゲンロンという会社組織を経営し、東さんの顧客や関係者が明確に見えるようになったから。

 そうですね。関係があるからこそ批判は意味があるわけで、無関係な人の声にいちいち耳を傾けてもなににもならないと思います。

— なるほど。

 今、みんなネットに流されすぎですよね。ネットで評判悪いとかあんまり気にしないほうがいいんじゃないかな。悪評を言ってる人たちの大部分は、自分たちの作ってる商品の顧客にもならない人たちで、そもそも無関係。みんなすぐ忘れるし。顧客とか仕入先とかそういう関係をこそ人は大切にするべきだよね。

— ええ。風評の中に本当に大切な風評もあるかもしれないけど、それはきちんと見極めたほうがいい。

 もっと言うと、逆のこともあるわけです。例えば、ネットで無関係な人からすごい勢いで褒められたからといって、そんなに大した話じゃないってことなんだよね。RTとか稼ぎたいんだったら、それこそ猫の写真かなんかをアップすればいいわけで。

— あははは。猫の写真は破壊力ありますよね。即RTです(笑)。

 でも、猫の写真で1万5千RTされたからといってそれになんの価値があるかというと、ない。実態がない。

— つまり、その内容とRTする人に実質的な関係性が発生しうるかということですね。

 そうです。

— 不用意な言動への批判が、すぐに飛び火してしまうネットでは、とてもわかりやすい指針ですね。

 現状について改善策は明快で、一人ひとりが炎上なんて気にしないって思って、その気にしないって思う人が一定数増えればいいだけなんですけどね。難しいとは思うけど、そういう状態を目指して気にしない人が増えるべきだと思いますよ。

— 「うちは気にしない」「うちも気にしないですよ」「やっぱ気にしないですよね」と。

 そうそう。うちは気にしないんだけど、うちの取引先が気にするかもしれないとか、そういうことをみなが言っていると、ネットの無責任な噂の力がドンドン増幅して、自分で自分の首を絞めることになる。あれはみんなで止めた方がいいんですよ。

— 「だって関係ないですもん」って胸を張って言えればいいわけですね。

 だって現実に関係ないんだもの。とにかく、ネットで自分のことを知らない人たちのあいだでいくら悪い評判がたっても、そんなの気にしない。無視。それで大丈夫。

— 東さんが言うと説得力があります(笑)。

 大丈夫です。全く問題ない。

— というわけで、話を戻すと本書にはそういうことも含めて、東さんの生き方としての思想が書かれていると。

 ええ。そうですね。でも実際には炎上の話はほとんどしてないし、こんな本じゃないですけどね(笑)。
 とにかく、本の最後は娘の話で終わってみたんですけど、突発的事故と計画のあいだ、偶然と必然のあいだに引き裂かれながら、みんなが「一度きりの人生」を生きている、そんな矛盾が大切なんだというメッセージが伝わるといいなと思っています。担当編集者と話すとどうも話題が内容から逸れるな……。

— 大丈夫です、たぶん! 脱線ついでに見晴らしのいいところまでぶらつきましょう。


次回「第2回 威張っている専門家の正体は、インテリではなくただのオタク。」は、8/20更新予定

聞き手・構成:中島洋一 写真:加藤浩


統制されたネット時代をより良く生きるための挑発的人生論!

目次
0 はじめに—強いネットと弱いリアル
1 旅に出る 台湾/インド
2 観光客になる 福島
3 モノに触れる アウシュヴィッツ
4 欲望を作る チェルノブイリ
5 憐れみを感じる 韓国
6 コピーを怖れない バンコク
7 老いに抵抗する 東京
8 ボーナストラック 観光客の五つの心得
9 おわりに—旅とイメージ

この連載について

東浩紀よ、どこへ行く

東浩紀

検索すればあらゆることがわかる時代。日々たくさんの情報に埋もれているけれど、果たして本当に欲しい情報はなんなのか。茫漠たるネットの時代において「かけがえのない生き方」を示した作家・思想家の東浩紀さんの新著『弱いつながり 検索ワードを探...もっと読む

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Nuts_aki 相互の関係性が前提にない「批判」というのは、単に無関係なひとが悪意の発露でやるクレームでしかないから、別に対応する必要がないんです。 https://t.co/rnLE7ssYBO 約1年前 replyretweetfavorite

jgagtgmj ネットにはいい関係か無関係かしかないって、嫌韓とかどう思ってるんだろう? https://t.co/LSxXCXf92W 約1年前 replyretweetfavorite

f0urseas0ns20 https://t.co/WAAStGQPO6 約1年前 replyretweetfavorite