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「おい、誰だ?」
シュンの悲鳴を耳にして、卓郎たちがやって来る。
逃げようと思っても、下半身がいうことを聞いてくれない。シュンは雑草の上に尻餅をついたまま、その場から一歩も動けずにいた。
周囲を見回したが、杏奈の姿はどこにも見当たらない。卓郎たちがやって来る前に、どこかへ素早く身を隠したようだ。
「なんだ、おまえか。おい。こんなところで、なにやってるんだ?」
卓郎が刺すような視線を放つ。蛇に睨まれた蛙の思いが痛いほどわかった。恐怖に全身がすくみ、脂汗ばかりがだらだらと流れ落ちる。
「あ、あの……」
慌てて言い訳の言葉を探したが、ただ焦るばかりでまともに声も出ない。
「聞こえなかったか? 俺んちの庭に勝手に入り込んで、なにをやってるのかって訊いてるんだよ」
「ああ、すいません。ここは卓郎君のお父様の所有地でしたか。てっきり、空き家だとばかり思っていたものですから」
シュンより先に答えたのは、彼を驚かした張本人——屋敷の裏でなにやらこそこそと動き回っていたひろしだった。
「言い訳はいい。なにをやってたか正直に答えてみろよ」
「昆虫採集です」
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