青鬼

第8回 幽鬼 ―勇気―

「卓郎たちを止める」とジェイルハウスの敷地内に入る杏奈と、彼女を慌てて追いかけるシュン。事故以来、いろいろと“見える”ようになったといい出す安奈に驚いたシュンは――。

実写映画も公開中の、人気ホラーゲーム「青鬼」。人気の火付け役となった小説版『青鬼』の一部を公開します。

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 杏奈は手提げバックを放り出すと、シュンが呼び止める暇もなく、門扉の隙間にするりと身体を滑り込ませ、敷地内を走り始めていた。
「ちょ、ちょっと」
 できることなら、卓郎と顔を合わせたくはない。このまま逃げ帰ろうかとも思ったが、意を決して彼女のあとを追いかける。
 —私の両親はね、卓郎君に殺されたの。
 そう口にしたときの、彼女の苦悶に満ちた表情を思い出す。どういうことなのか杏奈から訊き出す必要があったし、それ以上に、卓郎を殺すかのような勢いで塀の内側へと飛び込んでいった彼女のことが心配でならなかった。
 門を通り抜けると、目の前にはなんの手入れもされていない広大な庭が広がっていた。よほど土に栄養が染み込んでいるのか、真冬であるにもかかわらず、雑草は伸び放題だ。
 卓郎たち三人は、巨大な洋館の前でなにやら話し合っている最中だった。かなり距離があるので、会話までは聞き取れない。向こうも、シュンたちが入ってきたことには気づいていないようだ。
「じゃあ、行くね」
 シュンのすぐそばで、杏奈がささやいた。
「……え?」
 深呼吸をしたのか、彼女の胸が大きく動く。両手はこぶしを握り締めていた。そのまままっすぐ卓郎たちのほうへ向かっていくかと思いきや、身を屈めて石塀沿いに歩を進める。
「あ……ちょっと」
 思いがけない杏奈の行動に慌て、うっかり声を出してしまった。気配に気づいたのか、美香がこちらに顔を向ける。彼女とまともに視線が絡み合った。
 しまった。見つかった。
 シュンは身体を硬直させたが、美香はそのまま別の方向を向き、退屈そうにあくびを漏らした。太陽が沈み、薄暗くなったことが幸いしたのか、どうやら気づかれずにすんだようだ。
「シュン君、隠れて」
 いつの間に戻ってきたのか、シュンの足もとでしゃがみ込む杏奈に、強く腕を引っ張られる。されるがまま、彼はその場に腰を落とした。
「よかった。見つかっちゃったかと思ったけど、大丈夫だったみたい。あの子、近眼なのかな?」
 胸を撫でながら杏奈がいう。
「……これから、なにをするつもりなの?」
 彼女に尋ねた。
「卓郎君たちが何を企んでいるのか、まともに訊いたって正直に答えてくれるわけがないから、こっそり近づいて突き止めてやるつもり」
 杏奈は早口で答えると、腰を屈めたまま草むらの中を移動し始めた。彼女と同じ姿勢で、シュンもあとに続く。
 あたりはますます暗くなっていたし、伸び放題の雑草がうまく身体を隠してくれるので、よほどの下手を打たない限り、見つかることはないだろう。
「ゴメンね。シュン君までつきあわせちゃって」
 前を進む杏奈が、小声で囁いた。
「いや、僕が勝手についてきただけだから」
 背中を向けている彼女に見えるわけもないのに、胸の前で両手を振る。
「僕のほうこそゴメン。迷惑じゃなかった?」
「ううん。一緒にいてくれて心強いよ。ありがとう」
 心がほわんと温かくなる。嘘であってもいい。その言葉だけで、シュンは自分の存在に意味を見出すことができた。
「……学校には慣れた?」
「いや、まだ全然。僕、口下手だし……友達を作るのって、あんまり得意じゃないから」
「そんなことはないでしょ。私とはこんなふうにしゃべってるわけだし」
 委員長は特別な存在だから。
 心の中だけで答える。なぜか耳たぶが熱くなった。

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青鬼

noprops /黒田研二 /鈴羅木かりん

個人制作のフリーゲームでありながら、20万部突破の小説化、AKB48入山杏奈さん主演の実写映画化と、とどまるところを知らない人気を博している「青鬼」。 近日発売が予定されている小説版『青鬼3(仮)』に先立ち、人気の火付け役となった小...もっと読む

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