おしゃれにおける競争原理
『オリーブ』からのメッセージは、
「おしゃれに気を遣うべきは、外見のみに非ず。生活の全てをおしゃれ化せよ」
というものだけではありませんでした。
「現状に満足するな。常におしゃれの研鑽を積んで、他の誰よりもおしゃれになれ!」
ということも、『オリーブ』が強力に発信し続けるメッセージだったのです。
前回紹介した「おしゃれ友達」という単語は、おしゃれについて語り合ったり、情報交換ができるような友達という意味。しかし『オリーブ』における「おしゃれ友達」とは、ただ仲良くするだけの相手ではありません。
それがよくわかるのは、一九八四年二月に発売された第三十九号です。この号は、第三十五号で「リセエンヌ」という概念が登場して以来初のリセエンヌ大特集で、大規模なフランス取材も決行した模様。エッフェル塔をバックに二人の少女が立っている写真が表紙です。
『オリーブ』 1984年2月18日号
最初のグラビアは、本場パリの三人のリセエンヌが日本のブランドの服を着るというものなのですが、そこに記してあるのが、
「おしゃれ友達は、おしゃれライバル。刺激的です」
という一文。管見では、これが『オリーブ』における「おしゃれライバル」という単語の初出。オリーブ少女が目標とすべきおしゃれなリセエンヌは、このように切磋琢磨しているのだ。であるならば日本のあなた達がするべきことは……、わかっていますよね? というムードの中でページをめくれば次は、
「オリーブ少女が勉強したい、リセエンヌのおしゃれ手帳」
というグラビアが。
「さあ、オリーブ少女もリセエンヌに迫っちゃおう」
という文言は軽いけれど、「リセエンヌに追いつけ追い越せ」とあおる様は、まるで明治維新後の日本かそれとも敗戦後の日本か、という感じ。
このようにオリーブ少女達は、おしゃれにおける競争原理を徹底的に叩き込まれております。最終目標はリセエンヌであるわけですが、しかし普段の生活環境にはリセエンヌは存在しないので、そこで登場するのが、身近にいる「おしゃれライバル」。
一九八四年の第五十二号では、人気キャラクターズブランド「Scoop」のタイアップページで、
「しかめっつらでにらめっこ、おしゃれライバルだよ」
という文章が。やはりキャラクターズブランド「PERSON’S」のタイアップページには、
「友達と会ったら、パーソンズおしゃれ 競い合い!」
「大親友だってライバル! おしゃれ仲間は、みんな、目立つの大好き。」
とあります。
ブルマーにも果敢にチャレンジ
ブランドのタイアップページだからこそ、読者の消費意欲をあおるために「ライバル」「競い合い」といった単語を使用しているのかといったら、さにあらず。広告以外でも、『オリーブ』では、様々な競争ワードを使って、しょっちゅう「よりおしゃれなものを身につけて、友達より優位に立て」とオリーブ少女達に語りかけているのです。『オリーブ』は他の少女誌と比べても、最も物質主義的、かつ好戦的な雑誌であったと言えましょう。
秋も深まった頃の号では、
「秋とびこえて、雪模様のセーターいちばん乗り!」
と、「誰よりも季節を先取りせよ」と尻をたたきます。そして、
「ボーイフレンドと待ち合わせのカフェテラスで、いちばんおしゃれな女の子が、わたし!」
という文句は、やはり「色気などでなく、センスでナンバーワンとなって男の子にアピールしろ」と説く。男の子の気持ちは、そこでは考慮に入っていません。
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