誰かの期待を満たすために生きてはならない
古賀史健(以下、古賀) 僕が制作チームの一員として『ゼロ』を作っているとき思ったのが、堀江さんは経営者というより、思想家なんだなということです。人間心理だったり、世界に対する真理だったりするようなものを、不器用だけど一つ一つ自分の手で掴みながら前に進んでいるという印象を受けました。
堀江貴文(以下、堀江) すべてのことに正面から向かって行くタイプだから、そう見えたのかもしれません。僕は幼稚園の頃から、周りに対して気を遣って言いたいことも言わないでストレスを溜めるより、言いたいことを言ってぶつかって、その後に仲良くなればいいという思いで生きてきました。そんな生き方をしていたから、批判され続けてきたわけですけど。
岸見一郎(以下、岸見) 仲良くなれるってわかっていればぶつかりますが、普通はそうは思えないです。
堀江 僕の場合、なぜかはじめからそう思ってしまった。自分は過ぎたことを引きずらないから、他人に対しても正直に接したほうが結果として関係がよくなると思ったんです。たとえば、『嫌われる勇気』には、「承認欲求を否定する」という話が出てきますよね。
古賀 「誰かの期待を満たすために生きるのは、他人の人生を生きることである」ということですね。
堀江 はい。当然、僕にも承認欲求はあるんですけど、子どもの頃から承認されない人生を歩んできたので、途中から「承認されることはない」という前提で生きることにした経緯があります。『ゼロ』にも詳しく書きましたが、僕の親はテストで100点を取っても褒めてくれませんでした。それが当たり前だと考えていたんですね。だから次第に両親に褒められなくても、自分が満足してればそれでいいと思うようになりました。だからこそ、「他人も、自分(僕)の期待を満たすために生きてはいないだろう」ということにも気付くことができた。
古賀 それは経営をしているときに気がついたんですか?
堀江 いやいや、それも小学校くらいの頃だったと思いますよ。なんでこいつら自分の思った通りに動いてくれないんだろうと。それに対する対処法があるわけではなく、もんもんとしていたけど、とりあえずは諦めることにしたんです。自分だって自分の満足のためだけに生きているのに、他人が僕の期待を満たすために動くはずがないだろうと。
岸見 それがわかっていると大きいですよね。
堀江 僕は大学生のとき、先輩に「人の気持ちを少しは考えろ!」と言われ、「人の気持ちなんかわかるはずがない!」と反論したことがあります。結局はそういうことだと思うんですよね。他人の期待や自らの過去に縛られて動けなくなっている人が世の中にはたくさんいます。しかし、そういったことは考えても仕方ないことなんです。自分ではどうにもならないんだから、自分は今の自分の人生を全力で生きるしかない。『嫌われる勇気』を読んではっきりとそのことを再認識しました。
ホリエモンが長年抱えていた、あるコンプレックス
堀江 一方で、なかなか過去のとらわれから抜け出せなかったのが恋愛です。『嫌われる勇気』では、「お前の顔を気にしているのはお前だけ」というエピソードが出てきますよね。それはわかっているんだけど、自意識を引きずってなかなかそうは思えなかった(笑)。
岸見 「愛のタスク」は、人生において一番難しい課題なんですよ。
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