出口治明 vol 2. 大人になるということは、過去を勉強して人間を理解すること

最も本を読んでいた頃は毎週10冊以上の書籍を読破し、多忙を極める今も週に4、5冊は読んでいるという、ライフネット生命保険株式会社CEOの出口治明さん。いったい、どんな本から影響を受けてきたのか。そして経営者に読んでほしい本は? 今回は、出口さんのお薦めする本、そして読書論に焦点をあててみます。

歴史を語るのであれば、この本は押さえておいてほしい

— 今までに影響を受けた本、特に影響を受けた本を挙げるとすると、どのようなものがありますか? 他のインタビューなどでは『ハドリアヌス帝の回想』を一番に取りあげていましたが。

出口治明会長兼CEO(以下、敬称略にて) たくさんありすぎて選べないのだけれど。歴史の分野で言えば、I. ウォーラーステインの『近代世界システム』を読んだ時のショックは大きかったですね。

— その本は、いつ頃に出会ったのでしょうか。

出口 1980年代の初めに読んだんじゃないかな。僕は1948年生まれだから、30代の前半ですね。これは(この本棚に置いてあるものは)「岩波モダンクラシックス」で2006年に再版されているのだけれど、この初期のバージョンが(ページをめくり確認すると)ほら、1981年に出ている。30代のはじめにこの本を読んだときは、歴史ってこういう風にみるんだなと思って、大きいショックを受けた。私見では、ウォーラーステインを読んでいない歴史学者は、全部ニセモノといってもいいと思うくらい。

— 歴史のとらえ方が整理されたのですね。

出口 そう。そして同じころに、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』も出たんですよ。たしか1983年くらいに訳されていたから、上記の本とほぼ同時期。この2冊が、歴史の入門書としてはベストだと思っています。極論すれば、この2冊を知らないで「歴史が好き」と言っている人とは、議論しても仕方がないぐらい(笑)。あとは、それ以前にブローデル(※)を読んでいました。
※ フェルナン・ブローデル フランスの歴史学者、大作「地中海」で有名。

— 出口さんの著書である『仕事に効く 教養としての「世界史」』 には、過去の膨大な読書による知識から出口さんが紡ぎあげた仮説がいくつも書かれています。この独自の世界観は30代の頃から抱いていたのですか?

出口 はい。あまり当時から基本的な考え方は変わっていないと思います。30代の後半ごろにはほぼ形作られていたんじゃないでしょうか。とはいえ、パーツは常にアップデートしています。例えば、西ローマ滅亡の直接的な要因としてよくあげられるゲルマン民族の大移動ですが、そもそもゲルマン民族と呼べるような人々はいなかった。この部分は、ここ最近になってさまざまな学者が言い出したことです。昔は学問がそこまで進んでいなかったんですね。このように、部分部分はアップデートしています。

— いったん歴史書から離れますが、棚の上にあえて1冊だけ飾ってあるこの本は、なんでしょうか?

出口 『道しるべ』ですね。大好きな本です。ぜひとり上げてください。この本は、『ハドリアヌス帝の回想』と同じように、つかれた時に読み返す本の1冊です。どのページを読んでも、ほんとに美しい言葉と、すばらしい愛があるので、座右に置いておくのにこんなにいい本はありません。

— 先ほど(前回)、本はほとんど読み返さないとおっしゃっていましたが、この本は例外なのですね。

出口 そうですね。一度読んだ本はあまり読み返さないのですが、つかれたときにふらっとページを開けてみる、というのは、この『道しるべ』と『ハドリアヌス帝の回想』、あとカリール ジブランの『預言者』です。この3冊は、ほんとうに言葉が美しい。

— いずれも訳書です。

出口 はい。『ハドリアヌス帝の回想』には有名なエピソードがあって、三島由紀夫がこの訳者の多田智満子さんを著名な男性作家のペンネーム(偽名)ではないかと疑っていたというのです。その硬質な文体があまりに美しいので、そのように思ったらしいのですね。多田智満子さんは詩人ですが、『ハドリアヌス帝の回想』は、本体の文章もすばらしいし、訳文も劣らずすばらしい作品です。

— 美しい言葉は、つかれをとるのですね。

出口 (今回のインタビューは)読書というテーマなので、ぜひとり上げてほしい読書論があります。他の場所でもよく語っているのですが、私は、世界最高の読書論とは、皇后陛下のニューデリーでの基調講演(※)だと思うのです。これは、ぜひ皆さんに読んでほしい。リンクをはっておいてください。
※ 第26回 国際児童図書評議会(IBBY)ニューデリー大会での基調講演(1998年)

— 出口さんは「僕も、『美しいと思い、体が震え』ました」とTwitterで語っていました。

出口 あの皇后陛下の基調講演を超える読書論は、僕の66年の人生の中で読んだことがない。見たことも聞いたこともない。読書のすべてはあそこに書かれていると思います。過不足なく完璧に語られているので。完璧さという意味では、ミロのヴィーナスよりも美しいと思うのです。

経営者が読むべき本は、まず人間を知るための本である

— いち経営者として伺いたいのですが、経営者に薦める本はありますでしょうか?

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本棚は人を表す、といいます。本連載は、さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうという試み。本がいまの自分をつくったという人から、ほとんど本を読まない人の本...もっと読む

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コメント

milkmanscc 「近代世界システム」読みたい!!> 4年以上前 replyretweetfavorite

Onigiri_botes そうかそうか。なるほどなあ...。 出口さんの言うことにはただただ勉強させられるばかりです。 4年以上前 replyretweetfavorite

abekeisuke1976 歴史を学ぶ意味。→ 4年以上前 replyretweetfavorite