オリーブ』のおしゃれ中毒

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代、当時の女の子達に与えた影響を分析します。今回は、ファッション雑誌としての『オリーブ』について言及します。
この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間」全4回も収録! オリーブの罠、とは何だったのでしょうか?

熱く真剣なファッション誌だった

 大人になって『オリーブ』を読み返して改めて思うのは、「『オリーブ』は、ファッション雑誌であった」ということです。
 それがファッション雑誌であることは、もちろん当時から理解はしていました。が、これほどまで熱く真剣に、ファッションのことを伝道する雑誌だったとは。

 『オリーブ』と同じ時代に存在した、同じく女子高校生向けの雑誌としては、『mc シスター』(婦人画報社・当時)、『ギャルズライフ』(主婦の友社)、『週刊セブンティーン』(集英社)、『プチセブン』(小学館)などがありました。この中で最もファッション寄りだったのは『mc シスター』でしたが、雑誌名の「mc」とは、同社で出している『MEN’S CLUB』のこと。つまりメンクラの妹雑誌ということで、取り上げられるのはトラッド寄りの、親御さんも喜びそうなリアルクローズが中心だったものです。
 また『ギャルズライフ』は、以前にも記した通り、ツッパリ・ヤンキー系の女の子が読む雑誌なので、ファッションページは皆無。せいぜい、「本日ツッパリ卒業」などとして、ズベ公ファッションの女の子が普通の女の子に変身しました、といったページが見られるくらいです。

 そして『セブンティーン』や『プチセブン』は、ファッションページもあったけれど、情報ページやマンガもあるというつくり。ファッションページでは、ごく普通の女の子たちが好みそうな、おしゃれすぎずダサすぎないという、ほどほどの服を紹介していたと記憶します。
 たとえば『セブンティーン』の場合は、同社でお姉さん誌として控えているのが『ノンノ』。これは「あぜ道の『ノンノ』」とも言われる、つまりはどんな田舎の女の子でも安心して読むことができるファッションが満載の雑誌なのであって、そのようなお姉さん雑誌が待ち構えているせいもあってか、『セブンティーン』も過激な女の子向けにはなっていません。そして『プチセブン』の場合は、何せその前身は『女学生の友』。こちらもまた、ごくまっとうな女の子向けの雑誌だったものです。

 対して『オリーブ』は、極端なほどにファッション寄りでした。マンガなどは載せませんし、『ギャルズライフ』のような性の情報は絶無。
 とはいえティーン向けの雑誌ということで、女子高生の心身や生活についても、多少の心配はしてくれていました。ちなみに私は、一九八五年の夏に出た第七十三号から、アボワール徳川先生の後を引き継いで「オリーブ少女の面接時間」という連載を開始したのですが、モノクロ一ページのこの連載は、マーガレット酒井先生という謎の大人が、毎回「図書館」とか「文化祭」などとテーマを決めて高校生と対談するというもの。高校生のフランクな本音をご紹介するという、いわば『オリーブ』における「ファッション以外」の部分を担っていた軽い読み物です。

 当時大学一年生の私は、ついこの前まで女子高生であったこともあり、実際に女子高生と対談はせず、自分の中だけで対談をでっちあげていました。マーガレット酒井先生は「高校生の話を面白がって聞く大人」という立場だったので、「当時、三十代くらいの人かと思っていました」と、元『オリーブ』読者にはよく言われます。
 しかしファッションとは関係の無いその手の読物ページは、『オリーブ』にとっては箸休めのような存在。『オリーブ』という雑誌の軸足は常に、ファッションにありました。

「ガーリー」「かわいい」は自明ゆえ

 高校生にとってのリアルクローズばかりでなく、冷静に見れば「そんな服、どこで着ればいいの?」と聞きたくなるような、モード寄りの非リアルクローズもばんばん出て来たのが、『オリーブ』。モード界の流行も、きっちり捉えていました。『オリーブ』は少女向けの情報誌でも娯楽誌でもなく、本当の意味でのファッション誌だったのです。

 オリーブ・ファッションとはどのようなものであったのかと考えた時、すぐ頭に浮かぶのは、「ガーリー」「かわいい」といったイメージでしょう。しかし意外なことにこの二つの言葉は、『オリーブ』にはほとんど登場しません。オリーブ少女達は、実は「ガーリー」で「かわいい」女の子を目指していたわけではないのです。
 考えてみれば、それは当たり前の話なのでした。当時の『オリーブ』の読者は、基本的に「ガール」そのものでした。「ガーリー」とは「少女風」といった意味であるわけですが、当時のオリーブ読者は、自分自身が「ガール」なので、わざわざ少女“風”を目指す必要性が無かったのです。

 「ガーリー」とは、「ガール」ではない人がガールの世界に憧れて、もしくはガールに戻りたくて志向するイメージです。創刊から九〇年代前半までの、オリーブがもっとも熱かった時代は、読者に占める本物の「ガール」率が高かったため、「ガーリー」という言わずもがなの言葉を使用しなかったのではないか。
 『オリーブ』=「ガーリー」というイメージが強くなってきたのは、九〇年代後半以降でしょう。初期に『オリーブ』を愛読していたオリーブ少女は、成長とともにガールではなくなり、しかしそれでも『オリーブ』的世界が大好きであるために、ガーリーさを維持し続けようとしました。『オリーブ』の勢いが弱まり、ついに休刊となってからは郷愁も手伝って、『オリーブ』的ガーリー主義が、元オリーブ少女達によって堅持されたのです。

 「ガーリー」と同様、「かわいい」という言葉が『オリーブ』にほとんど登場しないことも、今の私には意外でした。雑誌内の本文には、「かわいいリボンでアレンジ」とか「ピンクのシャドウを使うとかわいくなります」などと使用されているけれど、表紙の言葉や大きな見出し、つまりは『オリーブ』の方向性を示唆するような文章には、まるで禁止されているかのように「かわいい」という言葉は使用されていないのです。
 しかしこれも、「オリーブ少女がかわいいのは自明」という共通認識があったからなのかもしれません。「かわいい」を目指すのでなく、かわいくて当たり前の少女を、ファッションの力で別次元にワープさせるのが、『オリーブ』の基本姿勢だったのではないか。

「モテ益」に反旗をひるがえす

 そしてもう一つ、「かわいい」という言葉の使用頻度が『オリーブ』において低い理由は、「かわいい」=「モテ」ワードだから、なのではないかとも、私は思います。
 日本人男性が好む女性が「きれいな女性」とか「セクシーな女性」とか「格好いい女性」ではなく「かわいい女性」であることは、よく知られています。彼等は、日本を覆う儒教文化の影響で、「男が上で女が下」という状況に、安心を得ます。つがいとなる女子を選ぶ時は、ですから庇護の対象になるような女の子、反対に言えば自分を凌駕することの無い女の子を、好むことになる。

 ですから日本人女性として生まれたなら、他者から「かわいい」と評価される道を選ぶ女性が多いのは当然のこと。「かわいい」ことによって得られる利益がいかにたくさんあるか、私たちは子供の頃から叩き込まれていますし、その手の「かわいい」益は、子供や若い女性のみならず、おばあさんになってももたらされるのです。今や「かわいいおばあさん」でなければ、優しく介護もしてもらえないわけで、私たちは一生、「『かわいい』と言われなくてはならない」というプレッシャーとともに生きなくてはなりません。

 様々な「かわいい」益の中で最もわかりやすいものは、モテ益でしょう。「かわいい女の子」とはすなわち、異性が安心して手を出しやすい女の子のこと。モテればモテるほど女の子にとって異性を選択する幅は広がり、それは「よりよい結婚」に、ひいては「よりよい子孫を残す」という「種の保存」的命題にまで結びつきます。
 このように「モテたい」という気持ちは、動物である人間にとって、最も基本的な欲求。独身女性を読者対象とした女性誌の多くが「モテ、及びその先にある結婚」を第一目標として掲げるのは、ごくまっとうな現象なのです。

 しかし『オリーブ』は、そこに反旗をひるがえしました。
 「異性の視線ばかり意識した、モテのためのファッションなんてつまらない。自分のために、自分の着たい服を着ようよ!」
 と、『オリーブ』は日本の少女達に呼びかけたのです。

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オリーブ』の罠

酒井順子

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代を振り返ります。この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間...もっと読む

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chinaHacca ラストの2時間ドラマで撲殺に使われそうなクリスタルの花瓶にウケる(*´艸`) うちの母はアンアン好みでアンアンやオリーブは好きな系統だったかなぁ。 洋裁してた人だから装苑も好きだったよ、まだ型紙付きだった頃の。 https://t.co/HurFyQZAkS 12ヶ月前 replyretweetfavorite

OsamubinLaden 最終的に尖りすぎてガラパゴス化して、衰退していくという意味で、現代詩なんかと共通の日本的な何かを感じずにはおれない  3年以上前 replyretweetfavorite

s115_d718_p69 前2回、 より引用。あー辛いね。女子。 3年以上前 replyretweetfavorite

skrparr 毎回読んでるけどおもろい。こういう風に時間が経っても語られるような雑誌ってあんまりない気がする。→ 3年以上前 replyretweetfavorite