【ハーレクイン豆知識:ラブシーンのお作法】
実はハーレクイン社には、ハーレクイン作品の表現ルールが記された、言うなれば“秘伝の書”が存在しています。その書には、ロマンチックなラブシーンに仕上げるためのポイントが網羅され、NGワード等も細かく設定されているのだとか。官能的でありながらも女性を不快にさせないように、細心の注意が払われているのです。
【作品紹介】
ロンドンで教師をしているケイトは故郷に向かっていた。 傍らにいる最愛の娘は目的地に着くのが待ちきれない様子だ。 18歳のとき、私も娘のように旅の終わりを切望していた。 愛する人に裏切られ、身ごもっていることを告げられぬまま、 ひとりぼっちで故郷をあとにしたときのことだ。 今回の帰郷は、そのとき以来こじれてしまった 両親との関係を修復するためのもの。 しかし、そこで待っていたのは年老いた両親だけでなく、 娘と同じ黒髪を持つサイラスとの11年ぶりの再会だった。
「僕のなんだって?」
年月がたったいまも、まだ嘘をつき通すつもり?そんなことをしてなんになるの?ケイトは腹立たしかった。
「私が何を言っているのかおわかりでしょう?とぼけるのはやめてちょうだい。あなたは奥様を失ったかもしれないわ。でも……」
「奥さんって、なんのことだ?僕には妻などいない」
「嘘を言わないで。昔は私も愚かだったから、あなたのその言葉を信じたわ。でも、いまは違う。私はあなたが彼女と一緒のところを見たの。あなたが彼女に話しているのを聞いたわ。子供たちがあなたのことを恋しがっていると彼女が言ったのを、この耳で聞いたわ。あなたが彼女にキスしているところをちゃんとこの目で……」
沈黙が永久に続くかのように思えた。ケイトは緊張のあまり震え、吐き気を催してきた。サイラスと妻が一緒のところを見たと話しているだけで、あの場面が鮮やかによみがえり、サイラスに欺かれたと知った時の不信感と絶望を再び味わっているような錯覚に陥った。
あの時と同じように、ケイトは腹部に手を当てた。サイラスと妻が一緒の場面を目撃する少し前から、ケイトはひょっとして妊娠したかもしれないと思っていたのだ。生理が数日遅れていた。なんでもないかもしれないと思いながらも、ケイトは不安だった。最初に愛し合ったあと、サイラスはこれ以上危険を冒してはならないと言い、ケイトは自分が避妊措置をするからと彼に告げた。だが、結局何もしなかった。サイラスと一緒にいたり彼のことを思って過ごしたりすることにすべての時間が費やされ、ほかのことを考える余裕がなかった。それに、若さゆえの気楽さで、その問題は心の隅に追いやってすっかり忘れていたのだ。
少なくとも、生理が遅れているとわかるまでは……。ひょっとしてサイラスの子供を身ごもっているかもしれない——そう思った時には、誇らしさを感じると同時に不安で押しつぶされそうになった。それとなく、子供のことを持ち出してみた。でも、サイラスは私が大学を卒業するのが先だと主張した。いまはいいが、将来きっと後悔するからと。私はできるだけ早く結婚したかったのに……。