—— ここからは、人間関係を考える上で読んでおきたい本についてお話ししていただきたいと思います。具体的に3つのテーマを想定してみました。最初に、「20代、30代のビジネスパーソンは組織内でどう行動すべきか」を学べる本で、お薦めの本は何でしょうか。
守屋 私は『戦国策』を挙げたいですね。複雑な人間関係の中で、組織の利益になるように見せかけておいて自分の利益にする術や、組織の利益になるのだということを説得して回る術など、実に多彩なやり取りが書かれています。中国の古典の中でも非常に現代的意義の高い一冊だと言えます。
三谷 以前、一線で活躍している30代のコンサルタントの人たちの討論に呼ばれたことがありまして、その中で進行役が「20代の時に何か捨てたものがありますか」という質問を投げ掛けたんですね。すると、ひとりのSE系の人が平然と「評価」だ、と。自分は仕事に納期も予算もいつもぎりぎりだったので、上司からは評価されていなかった。それでも、20代の頃、とことんこだわり抜いて仕事をしたからこそ、今の自分があるのだと思う——、そう発言していました。
この〝何かを得るためには何かを捨てなければならない〟という認識を持つことは、非常に大事だと思います。そして、その重要性を教えてくれるのが、『鋼の錬金術師』です。
守屋 ほほう、そう来ましたか。
三谷 若い世代の人には、この話はとてもわかってもらいやすいですね。
—— 次に、「ソリの合わない上司や取引先の人とうまくやっていく方法を学ぶ」上で参考になるような本はないでしょうか。
守屋 私もコミックから挙げますが、『票田のトラクター』『新・票田のトラクター』は勉強になります。完全な敵でも完全な味方でもない相手と、ある時はうまくつながりある時はうまく敵対しながら、全体としては関係を破たんさせることなく続けていくにはどうすればいいかを、読みやすい形で示してくれている本です。
『新票田のトラクター 1 政界ウラ技48手編』
ケニー鍋島著、前川つかさ画
中国古典で言えば、『菜根譚』でしょう。儒教・道教・仏教的な教えをミックスして、人としてうまく生きていくにはどうすればよいか、人間関係を壊すことなくどううまくやっていくかを、非常にバランスよく書いています。
三谷 ソリの合わない人とどうやっていくのかは、突き詰めると、①正面突破するか、②相手をうまく騙すか、③小さな信頼を得るところから積み上げていくかの、3つの方法しかないと思います。
そのうち、正面突破を描いたのが『風の谷のナウシカ』であり、「うまくやっていく」ことは考えず清濁併せ呑んで進むしかない、その覚悟が大事だと訴えているのです。
「うまく騙す」と言うと聞こえはよくないですが、「相手の一枚上を行こう」と捉えれば、守屋さんが挙げた『菜根譚』が参考になるでしょう。
守屋 ちなみに、『菜根譚』が言っているのは、「うまくいかない関係は、自らを鍛えるのに適した学習環境である。その中でこそ人は磨かれるのだから頑張らなければいけない」ということです。ポジティブシンキングなんですね。
三谷 もうひとつの、小さな信頼を得るところから始める方法は、『プラダを着た悪魔』を読めばよくわかると思います。
『プラダを着た悪魔〈上〉』
ローレン・ワイズバーガー著、佐竹史子訳
そもそも、ソリが合わないのは、信頼されていなくて、何かと口出しされるからだという場合が多いのです。だとすれば、自分にできることをひとつ決めて、その領域では信頼を得て仕事を任されるようにして、口出しされないようにする。これを積み上げていくしか手はないと思うんですね。
では、信頼が得られる領域を見つけ、仕事を任されるようになるにはどうしたらいいのか——。そこは、『特別講義 コンサルタントの整理術』——私が書いた本を出して、恐縮です——で、「分ける・減らす・早くやる」ことを身に付けてほしいと思います。
—— 最後に、「部下や後輩の信頼を得て、思いのままに動いてもらう方法」について何に学ぶべきか、ご教示ください。
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