仕事に活かせる名著【ビジネス力編】

「ビジネス書大賞2014」大賞、「ベスト経営書2013」第1位をダブル受賞した『経営戦略全史』の著者である経営戦略教授の三谷宏治さんと、10万部を突破し話題となっている『最高の戦略教科書 孫子』の著者である作家・中国古典研究家の守屋淳さんの対談が実現! お二人がビジネス書やハウツー本にとどまらない、人間力を高めてくれる名著について語り合います。
前編は、仕事がうまく進まない、将来の仕事、生活設計が不安といった若手ビジネスパーソンの悩みに応える【ビジネス力編】です!

— 更なる成長のために、企業にイノベーションが求められているように、個人のビジネス力においては「新しい視点から発想する力」が求められていると思います。新しい視点を得るためには、どういった本を読めばいいのでしょうか。

守屋 新しい視点を獲得するということは、「今縛られている文脈からジャンプする」ことだと思います。とは言っても、そもそも「縛られている」ことに対する気付きがなければジャンプもあり得ないわけで、まずは「今、自分が何に縛られているのか」を認識するところから始めるしかありません。

 この意味で、現代のわれわれが思考という点で、何に縛られているのかを気付かせてくれるのが、『精神と自然』 という本です。この本は、西洋近代合理主義とは異なる見方を提示した学者のひとり、グレゴリー・ベイトソンが書いたもので、他にもさまざまなヒントが汲み取れる良書です。

精神と自然―生きた世界の認識論
『精神と自然―生きた世界の認識論』
グレゴリー・ベイトソン著、佐藤良明訳

 柔らかいところでは、三谷さんも著書の中で紹介されていた、多湖輝の『頭の体操』。新しい視点を獲得するための、いいトレーニングになる本です。

頭の体操 BEST
『頭の体操 BEST』多湖輝

三谷 私のビジネス力の形成に大いに貢献してくれたのが、SFと科学書なんです。
 SFとは、人間にとっての最も根源的なテーマを極端な形で提示し、議論できる場であり、私は多くのSFを通してさまざまなテーマを—例えば『未知との遭遇』であれば「コミュニケーションとは何か」を—議論してきました。その知的な楽しみが、結果的には、新しい切り口を見つけたり、ことの本質を捉える力を伸ばすことにつながったのでしょう。SFで一冊挙げるとすれば、『幼年期の終り』を推します。この本は、「進化とは断絶である」ということを提起している本です。

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))
『幼年期の終り』
アーサー・C・クラーク著、福島正実訳

 一方、科学書の魅力は、守屋さんもおっしゃったように、新しいジャンプを与えてくれるところです。中でも、それまでの常識を覆す「地球が全面的に凍結した時期が過去に2回くらいある」とする説(「全球凍結」説)を発表し、とてつもない反論を受けるのだけれども、その反論を打ち破っていく闘いを、新説を発表した科学者自身が書いた『スノーボール・アース』は、間違いなくおもしろいですね。

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
『スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 』
ガブリエル・ウォーカー著、渡会圭子訳

— 将来に対する漠然とした不安がある中、「キャリアの構築を見据え、どういう力を養うべきなのか。また、そのためのヒントを与えてくれる本は何か」について、ご意見を伺わせてください。

守屋 今現在の状況認識が未来にも当てはまるかは、甚だ疑問です。そうした〝乱世〟にあって為すべきは、どのような変化が起きようとも生き残っていく自分を作っていくこと、これに尽きるのだと思います。そのために必要な適応力や、強い心といった人としての強さを磨く上で、江戸時代末期以降の日本人が最もよく使ってきたテキストが『伝習録』です。「どんな環境にあっても志を持って前に進む」ことを説いています。

伝習録(中公クラシックス)
『伝習録』
王陽明著、溝口雄三訳

 同じようなことをもう少し突き詰めた状況下で訴えているのが、ナチスの強制収容所で生き残った人が書いた『夜と霧』で、深く考えさせられる一冊です。

夜と霧 新版
『夜と霧(新版)』
ヴィクトール・E・フランクル著、池田香代子訳

三谷 いろいろなことが読めないくらい変化する未来に対して、とるべき姿勢は2つしかありません。自分で未来を創るか、未来に柔軟に対応するか、このどちらかです。どちらの道を往くにしても必要とされるのが、「試行錯誤する力」なのです。失敗してもまたすぐに動き出せるだけのメンタル―失敗してもめげない心とか、与えられるのではなく夢を自分で創造する力―と、スキルを持つことが決定的に大事です。

 もうひとつ、「現代はかつてないほど個人が自由に何でもできる時代だ」という認識も持ってほしい。アイデアがあれば、ファイナンスも人集めも、ものづくりさえ個人でできる、まさに〝個の時代〟です。その意味では、既に古典になりつつあるのかもしれませんが、『リーン スタートアップ』が読み直されるべきだと思います。

リーン・スタートアップ
『リーン・スタートアップ』
エリック リース (著), 井口 耕二(翻訳)

守屋 三谷さんが今おっしゃった内容は、たいへんよく理解できます。そこで、付け加えて申し上げたいのですが、試行錯誤にしても、個人で小さなビジネスを展開するにしても、ゲリラ戦の知恵が応用できると思うんですね。困難な状況の中をいかに生き延びるのか、その戦術をチェ・ゲバラの『ゲリラ戦争』に学ぶのもおもしろいでしょう。

新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術 (中公文庫)
『新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術』
チェ・ゲバラ著、甲斐美都里訳

「経営戦略」の入り口として三谷宏治さんのオススメの一冊

「この本を読めば、戦略フレームワークがいかにおもしろいかがわかるはずだ。ここに書かれた戦略フレームワークを駆使した逆転劇を読んで、私自身『こんなカッコイイ戦略コンサルになりたい』と思ったほど」(三谷)

戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)
『戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ』
三枝 匡

次回「仕事に活かせる名著【人間関係編】」は8月1日更新予定

Text:Shuichi Takayama/Photo:Koji Arimitsu


本対談のもととなったお二人ほかビジネスの達人が多数登場するビジネスパーソン必携のムックがこの1冊です。

ビジネスパーソンのための「最強の教養書」100 (日経ムック)
『ビジネスパーソンのための「最強の教養書」100』(日経ムック)

経営戦略の専門家・三谷宏治さんと、中国古典の専門家・守屋淳さんの名著、ぜひお手にとってご覧ください。

経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
『経営戦略全史』三谷宏治

最高の戦略教科書 孫子
『最高の戦略教科書 孫子』守屋淳

この連載について

仕事に生かせる名著を考える—三谷宏治×守屋淳 特別対談

守屋 淳 /三谷宏治

今、直面している仕事上の悩みや、人間関係に関する悩みについて、ビジネス書やハウツー本ではなく、人間力を高めてくれる良書との出会いの中で解決策を見つけ出してみてはどうだろう。経営戦略の専門家、三谷宏治さんと、中国古典の専門家、守屋淳さん...もっと読む

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