第4回 恋愛は「心の穴」が、させている【哲学者とAV監督の対話 ①】

男女関係に悩む人々に人気沸騰中の連載『キモい男、ウザい女。』今回から、話題の本『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)の著者である國分功一郎さんを迎えての、5回にわたる対談をお送りします。第1回目のテーマは、誰もが持っている【心の穴】について。この対談は12月1日に発売になる二村さんの新刊『すべてはモテるためである』(イーストプレス・文庫ぎんが堂)のために収録されたものですが、お二人のお話が白熱しすぎて、そちらにはすべてを載せきれない分量に……。そこで今回、文庫本の対談とも重複している部分もありますが、cakes上で掲載させていただきました!

人間は誰しも【心の穴】を持つ生き物である。

國分 二村さんの著書『恋とセックスで幸せになる秘密』を読ませていただいて、まず感銘を受けたのが二村さんの言葉の使い方なんです。

二村 ありがとうございます。そう言っていただくと恐縮します。たとえば、どのへんですか?

國分 同書の大きなテーマである【心の穴】ですが、この表現も、単純に言い換えようとすれば「性格」とも呼べるし「トラウマ」とも言える。でも、そうした呼び方にすると、意味としてこぼれていくものがあるからこそ、【穴】と呼んでいるわけですよね。

二村 【穴】そのものは良いものでも悪いものでもなく、その人の「さみしさ」も「生きづらさ」も「かかわった他人を苦しめてしまうネガティブ部分」も、そして「その人の魅力」や「その人らしさ」といったポジティブな部分も、そこから湧いてくるんだと考えたいんですよ。

國分 必ずしもネガティブなだけのものではない……、ということですね。

二村 ところが、人はつい【自分の穴】のネガティブな側面を意識してしまい、恋愛やセックス、あるいは自己実現(と呼ばれているもの)で「穴を埋めたく」なります。

國分 二村さんは、どうしてそういう考えに至られたんですか?

二村 ほら、世間は「AV女優になるような女性にはトラウマがある」って物語が好きですよね。でも僕は、誰の心にも、すべての人の心に【穴】はあけられているもので、それは【傷】っていうより、まさに【穴】だなあ……と、たくさんの女優さんと仕事させてもらううちに実感したり、あとは自分の生活とか恋愛の中でも実感します(笑)。「なんで俺は、かならず『これ』をやってしまうんだろう?」と。
AV女優になる人って、美人だったりエロすぎたり、仕事をがんばりすぎたり、たしかに「親への復讐」としてその仕事を選ぶ人もいますが、まちがいなく全員、普通の女性なんですよ。ただ心に「AV女優という仕事を選ばざるをえない穴」があいているだけで。恋愛にしても心の病いにしても【傷】って表現すると「被害者意識」と切り離せなくなるじゃないですか。でも哲学者になっちゃう人は「哲学者にならざるをえない穴」があいているだけ(笑)。「総理大臣になっちゃう」とか「大金持ちになっちゃう」とかって、どう考えても完全に【心の穴】のなせるワザでしょう。

【心の穴】は『ジョジョの奇妙な冒険』の「スタンド」である。

二村 ちょっと話が変わるんですが、マンガの話をしてもいいですか。國分さん『ジョジョの奇妙な冒険』って読みます? 

國分 大好きです。

二村 國分さんのTwitterを拝見してて「あ、この人マンガやアニメそうとう好きだ……」とお見受けしたので、きっとわかってもらえるだろうと思ってわかりにくい話をしますが(笑)、ジョジョに出てくる「スタンド」が、まさに【心の穴】だと思いません? 主人公も敵も味方も、その人の心の中の「どうしようもない、その人らしさ」が守護霊か背後霊みたいな怪物の姿で顕現するのが「スタンド」ですが、その超能力も弱点も、まさに「その人そのもの」です。

國分 なるほどね……。

二村 石ノ森章太郎の時代から、少年マンガの主人公って悪役から必ず「お前は確かに強いが、その優しさが命取りだ!」とか言われちゃいますが、けっきょく、その優しさという「弱点」こそが主人公としての魅力なわけで、でも、その「彼の弱点だと思われていたもの」が最後には勝つじゃないですか。『ジョジョ』ってマンガはその【キャラクターの心=魅力=弱点=最大の武器】というのを徹底させていて、たとえば第4部の主人公のスタンド「クレイジーダイヤモンド」の、殴って相手を修復する・癒すって超能力、あれは主人公の「心の性質」ですよね。敵のキャラも、その悪役の心のゆがみとか弱さが、そのまま具現化して武器になってる。で、「スタンド使い同士は惹かれあう」ってセリフもある。

國分 二村さんのお話に乗っかって言っちゃうと、僕は論文を書くときに第3部の主人公「スタープラチナ」のように書くのが理想でして、すごく精密・緻密に動いて、読解しているテキストのどんな単語も取り逃さないが、結論は誰よりも豪快に「オラオラオラオラオラ!」と(笑)。まぁ「スタープラチナ」と違って目が悪いんですが。

二村 どうしても「そういう文章」になってしまう、どうしようもない「國分さんらしさ」こそが超能力であり、でも同時に弱点かもしれない(笑)。つまり、その人の魅力と欠点は同じものであるという……。

國分 そうですね。だって、自分の文章のどこかには必ず、豪快な「オラオラオラオラ!」って部分がないといやなんですもん(笑)。そこをよく指摘される。

二村 國分さんの【心の穴】は、そこなんでしょうね。

【心の穴】は恋愛を左右し、それは親によってあけられている。

國分 人間の「誰かに恋する気持ち」は、もともと備わっている先天的なものではなく、その人が持つ【心の穴】によって発生するのだと思います。その【穴】があるゆえに、それを埋めてくれる誰かを欲する。そして【心の穴】は二村さんが『恋とセックスで幸せになる秘密』にお書きになったように、おもに育ててくれた親によって、あけられている。

二村 よい親であっても悪い親であっても、すべての親は親である以上、かならず自分の子どもの心に、なんらかの形で【穴】を開けてしまうと思います。

國分 これは非常に重大なテーマなのに、あまり論じられていないんですよね。〈父なるもの〉とか〈母なるもの〉が、抽象的にはさんざん論じられているけど、各人が生きてきた「父」や「母」や「育ててくれた人」との具体的な関係については、論じるための視点が提示されていない。だから二村さんが恋愛というトピックを語る中で「具体的な親との関係を論じる視点」を示されたことに、たいへん感銘を受けました。

二村 本人はなかなか気づけないけど、恋愛でやろうとしてることって【親子関係で得ていたこと(もちろん「苦しみ」や「傷つけられたこと」も含みます)を繰り返しているか、あるいは親子関係で失ったものを取り戻そうとしているか】どっちかですよね。

國分 でも、それを認めたくないもんだから「だって恋って、しちゃうものでしょう!」「好きになっちゃったんだから仕方がない!」と言って、ごまかして、自分の【心の穴】を見逃してしまう。

二村 多くの人、とくに恋愛の渦中にある人は、自分が恋に落ちたことを「運命的なものだ」って考えがちですが、僕は「恋には理由はない」っていう、あの言葉が本当に嫌いなんですよ。「運命じゃねえよ。その人を好きになる理由なんて、あるに決まっているじゃねぇか」って思います。

國分 「どんなことにも原因はある」ってスピノザも言っていますよ(笑)。

二村 もしも人間の心に【穴】がなかったら、おそらく、たがいに惹かれ合うってことも、ないんじゃないだろうか。

國分 人は必ず小さい頃に親からの影響を受けていて、なにかを押し付けられて育っていく、アリス・ミラーという精神分析家はそれを「闇教育」と呼びましたが、親によって何かをあきらめさせられたり、親に愛を期待していたけれど裏切られたりということですね。そもそもフロイトが「性格は断念によって形成される」と言っていたわけで、恋や愛について、ひいては人の心について考えるなら、絶対に【心の穴】を避けるわけにはいかない。それは「親と自分の関係」を考えることでもある。

二村 そのフロイトの言葉は初めて知りました。「断念によって形成」か、すごいこと言うなあ……。

國分 【心の穴】は、持つ人と持たない人がいるんじゃなくて、誰の心にもあけられているもので、ただ【穴】の大きさや形は一人ひとり違う。「自分の心には穴がある」ということを認めた上で、それがどんな形をしているのかを考えてみることは、とても大切です。

二村 自分が親になるときに、初めて「自分が親から、どんな【穴】をあけられていたか」が、わかったりしますね……。

國分 もうひとつ考えておかなければならないのは「自分の【心の穴】を見出すのは結構つらいことでもある」という点ですね。たとえば「自分は本当は愛されていなかった」と気づくのは、つらいことです。

二村 でも「自分をよく知った上で(知りたくなかったことも知った上で)なんとか自己嫌悪からも被害者意識からも自由になって、自己肯定しよう」と考えないと、しんどいところをグルグルまわることになります。自分の【心の穴】を「悪いもの」だとしか捉えられなくて、なんとか「今ある自分」じゃないものになるために仕事も恋愛も「がんばる」から、あるいは恋愛の場合だと無意識に「相手の存在を使って、自分の【心の穴の空虚】を埋めよう」とするから、ますます苦しくなるんじゃないでしょうか。そんなこと、ぜったい無理なのに……。

《次回に続く》

 

國分功一郎(こくぶん・こういちろう)
1974年生まれ。哲学者。高崎経済大学経済学部准教授。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)など。

ブログ:Philosophy Sells...But Who's Buying?
Twitterアカウント:@lethal_notion

 

 

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この連載について

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キモい男、ウザい女。

二村ヒトシ

アダルトビデオ監督・二村ヒトシさんが、男女の関係性を探り、自分自身を語っていく連載です。現代の日本に生きる私たちほぼ全員が「キモチワルい男」であり「めんどくさい女」であるという、恐ろしすぎる【見立て】からはじまるこのお話。なぜ現代の恋...もっと読む

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sachiak_ing 二村さんと國分さんの対談読んでいて、恋に落ちやすい人は心の穴が多いってことなのか、それとも穴が大きいのか、などと考えていたけれど、もう眠いので寝ます。 おやすみなさい。 https://t.co/IuD2vFqdK3 1年以上前 replyretweetfavorite

schwarz1208 @jenaiassez これのパクりかもしれないです。https://t.co/wWOtjIQIPp 2年弱前 replyretweetfavorite

swallow_life 心理学チック、おもしろい。 https://t.co/klj1EiXZnt 約2年前 replyretweetfavorite