—— お二人とも、一番好きなお笑い芸人といえばオードリーなんですよね?
てれびのスキマ(以下、スキマ) はい。
能町みね子(以下、能町) あ、スキマさんもそうなんですか?
スキマ そうなんです。一番思い入れがありますね。
—— オードリーについてのお話の前に、お互いを認識したきっかけは?
スキマ 僕は、能町さんのことを本当にちゃんと認識したのは『久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン』が始まってからで遅いんですけど。
能町 いえいえ。
スキマ 最初に名前を知ったのは『TEAM! チーム男子を語ろう朝まで』です。
『TEAM! チーム男子を語ろう朝まで!』(太田出版、2008年)
能町 ああ、そうですか! へー!
スキマ この本の対談で、能町さんがおっしゃっていたことにすごく共感したんですよ。『ダウンタウンのごっつええ感じ』のドッキリについて、「YOUさんと篠原涼子さんがあの場面では邪魔だった」という部分。
能町 (笑)。私はテレビ評のブログを見ていて。「てれびのスキマ」「お笑い芸人のちょっとヒヒ話」、「はてなでテレビの土踏まず」……そのひとつとして知っていました。なかでもスキマさんのブログは納得できる話が多いな、深めに書いてるなという印象があって。
あと資料の漁り方が半端ない。だから、こういうふうに本を出す人になってよかった。
スキマ あはは! ありがとうございます(笑)。
能町 テレビ・芸能関係のことを好意的に書ける人ってあんまりいないので。みんなナンシー関の真似をしようとして失敗してる人ばっかりだから。
スキマ 斜めにおもしろがるのはナンシー関さんがやっているから、それはもういいかなと思っていたんです。テレビに対して真正面からおもしろいっていうというやり方はまだあるなと。
能町 正直私、嫌いとかではなくたまたま、ナンシー関さんをそんなに読んでないんですよ。そんな状態で言うのもなんですけど、ナンシー関さんのことを「テレビの気に入らないことを言ってくれる人」みたいに勘違いしている人が多すぎるなと思って。たぶんナンシーさんは別にそういう意図でやってたわけじゃない気がする。
スキマ うん。
能町 批評的に悪く言うときももちろんありますけど、一方でたぶんダウンタウンの松本人志さんをちゃんとした言葉で評価したのってナンシー関さんが早かった気がしますし。
スキマ そうですね。
能町 変にナンシー関さんの薄っぺらい模倣みたいなことをしている人が多いなかで、なんか骨太というかしっかりしたポジションで、すごく読みやすくて、おもしろいなあと思っていました。
スキマ うれしいです、ありがとうございます!
叶わなかった青春の「男子校憧れ」
—— お二人がオードリーのファンになった、と自覚した瞬間は?
能町 恥ずかしいなー……。2006、7年頃はもうYouTubeが全盛で、ネタもすごい上がってる状態で。けっこうマイナーなところほじくっていくのが好きだったので、全然知らない芸人さんのネタをよく観ていたんです。
2008年には「今年はどうもオードリーがいいらしい」というのをネットで見てて、『M-1グランプリ2008』の2、3カ月前くらいにYouTubeで観て「すごいおもしろい」と思って。
スキマ へえ。
能町 その時はおもしろいと思ったくらいだったんですけど、本格的にハマってしまったのは、あるネットラジオを後追いで知ってからです。そこで、若林さんの考え方にけっこうガチはまりしてしまった感じはしますね。
スキマ それ知らないです。どんなものですか?
能町 全く売れていない時期に、佐藤(満春※1)さんとやっていたものです。たまにメールが寄せられたりするんですけど、それに対して普通に怒ったりするんですよ。
※1 佐藤満春:お笑いコンビ「どきどきキャンプ」のメンバー。通称、サトミツ。若林とは下積み時代から、一緒に時間を過ごすことが多い間柄。『オードリーのオールナイトニッポン』『もっとたりないふたり』などオードリー関連の番組を中心に、放送作家としても活動。
スキマ あははは!
能町 「こういうことを書くヤツはどうのこうの」って説教を始めたりして(笑)。
スキマ 僕はもう単純に、M-1のちょっと前から『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)とかに出ていたのを観ておもしろいなと思っていて、本格的に好きになったのはやっぱりオールナイトニッポン。
能町 そうなんですね。
スキマ 僕、男子校憧れみたいなのがあるんですよ。自分がそういう青春を全く送ってないんで、高校時代から同じ時間を過ごしてきた二人の仲いい感じというのがすごい好きなんです。
能町 仲いい感じということでいえば、私は昔の映像を漁ってたときにGyaOも見まくって、完全にハマりました。
スキマ ああ! 『そらを見なきゃ困るよ!』※2 は僕も見てました。テレビでは春日さんが注目される中、いち早く若林さんの病みとか毒を見せてましたよね。
※2 そらを見なきゃ困るよ!:2007年11月〜2009年8月までGyaOジョッキーにて放送されていたネット番組。蒼井そらとオードリーの3人がMCとなり、トークと視聴者参加型の大喜利を展開。
わかりにくさがわかりやすい
能町 すごくおこがましいんですけど、オードリーとは全く同じ歳というのもあって、一緒に過ごしてきた感があるんですよ。しかも、後追いなんですけど、売れてないときのものばっかり見てきたから。
スキマ わかります。僕もほぼ同じなんで。
能町 変な仲間意識みたいなのを勝手に感じていて。それとやっぱり、あの二人の関係性が本当に独特で。あのー……この話すると長くなっちゃうんですけど。
スキマ どうぞ。聞かせてください(笑)。
能町 若林さん本人はBL妄想されることををすごく嫌がるじゃないですか。これについては解説してあげたいと思ってて。なんでそういうことになってしまうのかを。
スキマ あはははは!
能町 私はBL妄想はしないんですけど、男の人が仲良くしていること自体に、ときめくというか萌えるという気持ちはすごくわかるんですよ。コンビ芸人さんは全体的にそれを感じることが多いんですが、やっぱり二人が仕事と関係ないところからずっと仲良くないと感じづらいものなんです。
スキマ そうですよね。
能町 だから、よくご本人も「『たりないふたり』※3 の若林・山里コンビがなぜBLにされないのか」と言ってますが、それは結成時点で二人ともプロだから、同じ苦労を共有し合ってないし、仕事なしで仲良くしているところが想像つかないからなんですよ。それがないと妄想しづらい。
※3 たりないふたり:人見知りで社交性・恋愛・社会性の”たりない”若林と山里亮太(南海キャンディーズ)が、コンプレックスを生かした漫才やコントを披露する番組。2012年4〜6月に日本テレビにて放送。続編として『もっとたりないふたり』が2014年4~6月に放送された。
スキマ なるほど!
能町 女視点でのこういう妄想は、男がグラビアアイドルを抱くのを妄想するのとある意味で近いものはあって、どちらも異性にはわかりづらいごく勝手な欲望なんです。仲いい男二人がずっと同じ苦労を重ねたりとか、同じ思い出を分かち合ったりしている状態自体が、萌えとして消費するものとなっている。なので、山里さんと若林さんでは無理。
スキマ ふふふ。確かに山里さんと若林さんではそういう意味での関係性が見えづらいですよね。
能町 だけど、若林さんと佐藤さんはアリなんですよ。
スキマ ああー。それは僕が男子校憧れで二人の仲いい感じを楽しむのと、ある意味似ている部分はあるのかもしれません。
能町 それから、オードリーの二人の場合は、本当にくだらない話がいいんですよね。
スキマ そうそう。男子校の部室みたいに。
能町 パンツ脱がせ合ったりするような。
スキマ (笑)。
能町 学生時代から一緒というコンビが多いなかで、なぜオードリーが好きなのかっていうのは不思議ではあるんですけど……。いろんな条件が奇跡的にいちばんいいのかもしれない。まず、容姿も含めてゴツすぎない。いまだに素人感があるんですよね。あんなにテレビに出てるのに。
スキマ ふふふ。
能町 芸能人感が少ない。若林さんがよく言っていた、「まだ売れていない頃にファンが普通に告白してきた」っていうエピソードがありますけど、そういうものを想起させるような素人感がある。あと、二人のキャラわけが絶妙で。
スキマ そうですね! タレントになりきれないで葛藤してる若林さんと、タレントである自分に距離を置きつつも楽しんでいる春日さん。
能町 ガタイがよくて、変人っぽいけど実は真面目で小心者な人と、一見あんまり目立たないし地味そうなんだけど、すごく内心が複雑な考え込む人と。芸人さんって基本的にこんな感じで、神経質で内向的な人と、おおざっぱで社交的な人の組み合わせじゃないとうまくいかないって私勝手に思ってるんです。
スキマ うん。
能町 ダウンタウンからして絶対そういうコンビですよね。関係性と、外見の「ゴツくなさ」と、ずっと仲が良い、っていうところでいうと、ある意味ダウンタウンのコンビ性と似てるところもありますよね。ダウンタウンもアイドル的に騒がれてたときに同人誌が出てましたからね。
スキマ 僕が思うのは、若林さんって、わかりにくいんだけど、そのわかりにくさがわかりやすいじゃないですか。春日さんの方が実はけっこうわかりにくくて。
能町 あー、なるほどー。
スキマ そのあたりの関係性がどんどん深みを増していく感じはします。春日さんは本当に「春日」というキャラを守ることが強くて、自分の素を見せない。逆に若林さんは、自分のことをわかってほしいという人。「こういう複雑なものだということをわかって!」という感じじゃないですか。その二人の違いが本当に絶妙なんですよね。
能町 うん。
スキマ 春日さんって徹底的にキャラを追求する。ピンクのベストもあの髪型も、むつみ荘っていう六畳一間に住み続けるのも。でも、そこで素の部分がちょっと揺れて見えたりもする。それがいいなあって思うんです。
(次回、7/30更新予定)
構成:釣木文恵、編集協力:小島研一
cakesで同時公開のてれびのスキマさんの気鋭の芸人評
「絶望を笑いに変える芸人たちの生き方」も併せてお楽しみください!