僕の手元に、自分自身の幼稚園の卒園アルバムがある。その最後の数ページは名簿になっていて、園児全員の氏名住所、そしてそのすぐ横には「将来の夢」とが記載されている。幼稚園児の描く将来の夢だから、なかなか微笑ましい。「飛行機の運転手」「バスの運転手」「蒸気機関車の運転手」「タクシーの運転手」「オートバイの運転手」……なんだか乗り物の運転手が多い。それから警察官。大工さん。仮面ライダーになりたい子も多い。
将来の夢にはなりたい理由も書いてあるのだ。男の子はなかなかいい味を出してる。たとえば乗り物の運転手になりたい子たちの理由がふるっていて「世界中行けるから」「ぶらぶらできるから」「給料が倍になるから」……などなどと並んでいる。いったいどこをどうすると給料が倍になるんだろう? まだ6歳なのにぶらぶたしたいのか? どこからそんなアイデアを仕入れたんだ? 現実にはサラリーマン家庭の子が多かったと思うのだが、子どもたちが大人たちの働く姿をどんなふうにイメージしていたか、うかがい知れて興味深い。なかには「うんちやさん」という強者がいるのだが、これはバキュームカーの運転手のことなのだと思いたい。
女の子たちは「お花屋さん」「婦人警官」「ウェートレス」「スチュワーデス」「看護婦さん」「お花屋さん」「幼稚園の先生」「お母さん」といったあたりが多い。男の子のようにテレビ番組と現実の世界を混同させておらず、実際に存在する職業が並ぶのもおかしい。サリーちゃんとかプリンセスがいたっていいのに。意外なところに男女差を感じてしまう。
僕が面白いと思ったのは、乗り物の運転手になりたい子供たちの多さだ。さまざまな乗り物を運転するという夢は、まさしく「昭和」の夢そのものじゃないだろうか? まだスマホもコンピュータもPASMOもなかったこの頃、誰しもが1日でも早くバイクや車に早く乗りたがったっけ。そして高校生や大学生になると、せっせとアルバイトをして中古のバイクや車を買った。マニュアルの車に乗り、道に詳しいことがカッコ良かった。卒園アルバムのページをめくりながら、ふと思った。今の幼児たちは、いったい何になりたいんだろうか? やっぱり乗り物の運転手? それともアプリの開発者? スマホを作る人?