魔法から醒めた「栗尾美恵子さん」

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代、当時の女の子達に与えた影響を分析します。今回は、1984年の街角スナップ初登場から『オリーブ』を象徴する存在となった栗尾美恵子さん(当時)について、後の栗尾さんの生き様ともあわせて考察します。
この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間」全4回も収録! オリーブの罠、とは何だったのでしょうか?

1994年6月2日、大関若ノ花(当時)と栗尾美恵子さん(旧姓)の結婚披露宴/日本雑誌協会代表取材

街角スナップで発見された「解決策」

 一九八四年当時の『オリーブ』には、「パリの、リセエンヌ」と、「東京の、付属校に通う恵まれた娘」が混在していました。ヤンキーという共通の仮想敵を持っていたとはいえ、両者の違いは決して小さいものではありません。
 しかし『オリーブ』はその時、両者間のギャップを埋める、見事な解決策を発見したのです。してその策とは何かといえば、「栗尾美恵子さん」その人。
 栗尾美恵子さん(現花田美恵子さん。離婚後も花田姓で活動)というと、元横綱若乃花関、現花田虎上さんの元妻ということで知られる方ですが、高校生時代は『オリーブ』のモデルをされていました。さらに遡れば、彼女がモデルとなったきっかけは、街角スナップだったのです。

  その、栗尾美恵子さんが『オリーブ』に初めて登場した街角スナップのページこそ、一九八四年四月の第四十二号に載った、『オリーブ』初の街角スナップページである「通学に、どんなおしゃれしてるのかな、スナップ」。
 この見開きページにおいて「栗尾美恵子さん(14歳)」は、見出しのすぐ横という最も目立つ位置に、最も大きな写真で掲載されています。彼女は成城学園に通う中学生だったのであり、膝上丈のグレーのボックスプリーツスカート+紺のハイソックス+茶色のローファーというコーディネートは、付属校カルチャーの中にいることを示していますが、上半身は模様つきのトレーナーにカーディガンという、中学生らしいもの。学生らしい格好にあどけない顔立ちが、とても可愛らしいのです。

 『オリーブ』編集部の大人は、この一枚の写真によって「この子は、可愛い!」と目をつけたのでしょう。幸いにして成城学園は、自由な校風。第四十三号では早速、「オリーブ少女大好きブランドの服で、わたしだって、変身!」という特集のモデルとして登場しています。
 ここでは四人の高校生が登場しているのですが(栗尾さんは中学生から高校生になっている)、そのトップを飾るのが、「15歳・成城学園高校」の栗尾さん。D.グレースの服をまとった栗尾さんは、プロのヘアメイクさんによって、その可愛らしさがさらに強調されています。

 栗尾さんはこの後、八〇年代の『オリーブ』を象徴するモデルとなり、大学卒業後はスチュワーデス(当時)になるわけですが、そんな将来を予感させるような文も、写真には添えられていました。撮影当日は雪が舞う寒さだったそうなのですが、
「なのに美恵子さん、寒さなんかまるで気にならないって感じで、ジーッとカメラを見つめます。これにはカメラマンもさすがにびっくり。『まいったなぁ。将来、何になるのか楽しみだね』とうなってしまったほどです」
 とのこと。そんな栗尾さんの将来の夢は、
「スチュワーデスになることなんです」
 とあった。
「美恵子さんって、少女漫画に登場する女の子みたい、ネッ」
 という一文で栗尾さんの紹介文は終わっているのですが、そんなふわりとした印象の栗尾さんは『オリーブ』のイメージにぴったりだったのであり、その後もしばしばファッションページに登場するようになりました。

伝説の「ショートカット生中継。」

 たとえば第五十四号は「オリーブ少女の髪型はショート・カットにきめた!」という大特集なのですが、ここでは栗尾さんがバッサリと髪を切ってショートにする様子が五ページにわたって載っています。それは元オリーブ少女達が、
「栗尾ちゃんが髪を切ったあのページ、覚えてる!」
 と三十年経った今も言うほど、インパクトの強いページでした。

  「髪を切ったのは、そう、栗尾美恵子さん。『オリーブ』をいつも読んでくれてる人には、もうおなじみ。肩までストレートにのびた髪は、彼女の魅力のひとつでした」
 という栗尾さんは 最初は、私服姿で長い髪、ちょっとO脚気味に無防備に立っています。そこから「とまどい顔、ショートカット生中継。」と題し、南青山の「CLIP」において長い髪にハサミを入れて切り落としていく様が、コマ撮りにされている。それはまるで生娘が蹂躙されていく様子の生中継かのようで、大人の濁った目にはエロくすら映るのですが、オリーブ少女にとってはわくわくする「みもの」でした。

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オリーブ』の罠

酒井順子

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代を振り返ります。この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間...もっと読む

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コメント

gonsu4014 栗尾美恵子が若乃花と結婚した時、「ああ、オリーブ終わったなあ」と思った。https://t.co/pMXkEN1xcB 約1年前 replyretweetfavorite

banbi12 @kiyonko @rouge_1116 会員でないと途中までしか読めないけど、マーガレット酒井先生のこの文が本当に、まさに!そう!そう!って感じでした^ ^ https://t.co/ptBC0I26YH 3年弱前 replyretweetfavorite

surumeno13 「ジュリエットの卵」の髪を切るエピソードってひょっとしてこれが元ネタ?「伝説の「ショートカット生中継。」」 3年以上前 replyretweetfavorite