後編】追求したいのは純度100%の「へたうま」

ピン芸人・タナカダファミリアとして活動している田中光さんが、自身のTwitter上で発表して、話題になっていたシュールな一コママンガ『サラリーマン山崎シゲル』。お笑い芸人と漫画家。ともに笑いを極める職業で二足のわらじをはくことになった田中さんの現在の心境について、お伺いしました。

サラリーマン山崎シゲル (ポニーキャニオン)
『サラリーマン山崎シゲル』
田中光/ポニーキャニオン/1296円
あらすじ:上司の机の引き出しにご飯とおかずをぎっしり詰め、食パンに乗って通勤、疲れた部長にコーヒー缶ならぬサバ缶の差し入れ。そして、時にはキャッチャーや2塁ランナー、UFOを拾ってくる……。そんなサラリーマン・山崎シゲルが部長相手に繰り広げる異常な日常を描いたシュール系一コマ漫画!

オリジナル書きおろし漫画!


dmenu読者へのプレゼントのためにオリジナル漫画を書いていただきました

担当編集者の太鼓判!
ただニヤニヤと笑ってしまいます。とんでもなくくだらない名作。驚くほど力の抜けた作品ですので、何も考えずに読んで下さい。ひたすら無邪気(?)な山崎シゲルの言動に笑っているうちに、部長の愛すべき包容力にハマってくるはずです。書籍では、世界観をより深めるために特別描きおろしの他、隅々まで全力で無駄な工夫もしていますので、そういった部分も楽しんで頂ければと思います。また、決して山崎シゲルのマネはしないでください。(ポニーキャニオン 清水 陽)

「カッコイイもの」は照れてしまう

— この『サラリーマン山崎シゲル』といえば、シュールな世界観もさることながら、この力抜けた「へたうま」な感じのタッチの魅力も大きいですよね。

田中 あぁ……そう言っていただけると。高い授業料を払って、美大に行かしていただいた甲斐がようやくありましたね。親には、ずっと美大を中退してしまったことが申し訳ないなぁと思っていたので。

— もちろん美大出身という経歴もあると思うんですが、実はかなり絵にこだわりをお持ちなんじゃないかと思いました。文字もご自分で描かれたり、線もフリーハンドで描かれたりしていますし。

田中 照れくささなんですよね。キッチリ描かないで、いつまでも「へたうま」のラインをキープしておきたいんです。僕、昔から常にふざけていないと恥ずかしいんです。それは、絵でも同じことで、カッコイイ絵が描けないんですよ。

— 基本的に田中さんは照れ屋なんですね。

田中 そうなんです。『ルパン三世』のモンキー・パンチさんが描くようなカッコイイ絵は大好きで、「ああいうのは描けたらいいなぁ」って憧れるんですけれども、やっぱり照れてしまいますね。かっこいいスポーツカーに憧れは持っているんだけれども、自分が乗るのは恥ずかしいんです。

— じゃあ、文具もGペンとか本格的なものは使わないんですか?

田中 Gペンは扱いが難しいということもありますが、使わないですね。筆圧だけで太さが変わってしまうので。僕がもっぱら使っているのはボールペンの「SARASA 1.0mm」ですから。

— 本格を目指すというよりは、あくまで「へたうま」の領域にいたいんですね。

田中 そうですね。脱力感がない絵はキツいですね。自分で読む分にはシャーッとした絵も好きなんですけど、いざ自分で描こうとしたら「いや、俺はそんなんちゃうやろ。そんなシュッとした絵なんて似合わへん」と思っちゃうんです。

— 手を抜こうとか雑に描こうというのではなく。

田中 そうですね、ちょっと雑に見える感じの絵を再現するのに、100%の力を投入している感じです。まっすぐ過ぎる線を描いてしまった場合、「これじゃ、キレイ過ぎる!」ってあえて線を引き直したりします。

— え! そんなことまで(笑)。でも、絵を崩すのって、逆に難しくないですか?

田中 難しいですね。基本的には、和田ラヂヲさんの絵とかに憧れています。その雑さ加減が、和田ラヂヲさんとか蛭子能収さんの漫画から学んだ部分かもしれません。いや、もちろん全然僕なんか及びませんけれども!でも、あんな感じのタッチに近づけたいなぁと思いながら、描いています。


ギャグ漫画でも、デッサンだけはきっちりと

— 「へたうま」な絵を描かれている一方で、キャラクターの身体の動きとかモノとモノの遠近感とかをすごく大事にしている感じがします。

田中 なんせ、美大時代に高い授業料払って叩きこまれましたから(笑)。この『山崎シゲル』を書き始めた時も久しぶりに絵を描いたので、人物デッサンとかもすごく狂っちゃっていました。でもデッサンが狂っていたりすると、すごく気持ち悪くなっちゃうんですよ。

— トーンを貼るわけでもなく、定規を使うわけでもないけれども、デッサンは気になるんですね。

田中 そうなんです! 特に人物の動きとかは本当に気になります。「こんな腕の曲がり方は、しないだろう」とか「この背中はおかしいな」とかね。背骨の位置がおかしいと、とにかく気持ち悪いです。

— 今回の本でも、ウェブにアップされているものから、ちょこちょこ手直したりとかしていらっしゃいますよね。

田中 後で見直すと結構デッサンが狂っているシーンがあったりするので、人体図鑑を見ながら直したりしています。ギャグ漫画だったら本当はそんなに気にしなくてもよいんだろうな、とも思うんですけれどもデッサンに関してはどうも気持ち悪くって。

— 昔から絵はお好きだったんですか?

田中 もともとうちの父が漫画好きで。家に、手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんの漫画や、「ガロ」とかも置いてあったんです。そこでつげ義春さんの『ねじ式』とかも小学校ぐらいに読んでいて、意味は全然わからなかったけれども、すごくおもしろかったんですよ。そんなわけで、実は小学校の頃は漫画家を目指していたんです。

— そうなんですね! どんな漫画を描かれていたんですか?

田中 処女作は「ロボコップ」をパロディにして、「ボロコップ」っていう漫画でしたね。基本ボロボロで全然ダメなヤツで、ちょっと活動するとすぐ部品とかがとれて壊れちゃうっていう。

— あはは。処女作からギャグ漫画だったんですね。

田中 まぁ、全部鉛筆で描いていたようなやつなんですけども、近所の友達と一緒に「いも虫コミックス」っていうレーベルを勝手に立ち上げていました。

— てんとう虫コミックスならぬ、いも虫コミックス!

田中 そうなんです。小学校ぐらいのときまでは本当に漫画家になりたかったんですけれども、中学生になったら「お笑いにいきたいな」ってぼんやり思うようになったんです。その頃から「自分は大きくなったら、お笑い芸人か芸術家になるんだろうな」って思っていました。

— でも、処女作の「ボロコップ」もそうですが、芸人と漫画家になろうっていうのは、「笑い」という部分で共通していますね。

田中 そうですね。昔から、自分の発想やおもしろがっているものは全然変わっていないんですよね。


美大受験生時代にも一コマ漫画を描いていた

田中 ただ、中学校時代からお笑いを目指していたんですけれども、よくよく考えると昔から一コマ漫画みたいなものを、描いていたこともあったんですよね。

— それはいつ頃ですか?

田中 高校生のときですね。美大に行くことを決めた後、入試前の半年間ぐらい学校の美術の先生に教えてもらってデッサンの勉強をしていたんです。でも、僕は落書きとか描くのは好きだったんですが、デッサンをするのが本当に嫌いで……。すごく適当に勉強をしていたら「やる気がないなら、お前は明日からもうくるな!」と先生に怒られちゃったんですよね。

— なるほど、それは怒られますね。

田中 その日はそのまま帰らされたんですけれども、その代わりにと宿題を出されたんです。スケッチブックを5冊渡されて、「これ全部に落書きをしてこい」っていうものだったんです。それは得意分野だから、すぐに描き上げて先生に持って行ったんですけれども、そのなかにもやっぱりいま僕が描いているような一コマ漫画があったんですよね。

— 先生の反応はいかがでしたか?

田中 それがすごく気に入ってくれて、「これもらってもいい」って言ってくれるほどだったんです。

— そうなんですか! どんな絵だったんですか?

田中 お母さんと子どもが手をつないで歩いていると、近くにダンボールが置いてあって、その中に『キテレツ大百科』のコロ助が入っているんです。そして、捨て猫みたいに「ニャーニャー」って鳴くかわりに、か「ナリーナリー」って鳴いてるんです。女の子が「お母さん、あれ飼いたいよ!」って言うんだけど、お母さんが「うちはマンションだから飼えないのよ」って言っている一コマみたいな漫画でしたね。

— もはや一コマ漫画として成立してますね! 「山崎シゲル」ワールドを彷彿とさせるというか。昔から世界観がしっかりしていたんですね。

田中 そうですね。世界観は、本当に昔から変わっていないんだと思います。


漫画家と芸人の二足のわらじはおいしい?

— この単行本では、一コマではない数ページものの描きおろし漫画がついているんですよね。これは、ちょっと山崎シゲルファンにはたまらないです。

田中 基本は全部Twitter上に公開しているので、なにかやっぱりお得な感じにしたかったんです。これは読んでもらえばわかるんですが、「なんて無駄にページを使うんだ」っていうボケなんですよ。漫☆画太郎先生級にコピーばっかり使ってますから。読んだ人が「ひでぇな!」って笑ってくれるような漫画を入れたかったんです。

— ちなみに一コマ漫画以外の作品を描かれるおつもりはないんですか?

田中 そうですねぇ。いまは別のお仕事で4コマ漫画を描かせていただくようになったんですが、やっぱり一コマとは勝手が違って、難しいですね(笑)。

— 一コマ漫画のほうが、描きやすいですか?

田中 パッと思いつくこともあるんですけれども、たいていお題が大事なんですよね。たとえば、「オカリナ」を使おうと思いますよね。サラリーマンとオカリナという要素をどう組み合わせたらおもしろいか。それをいつも考えるんです。でも、いつもこのお題である「オカリナ」の部分をなににすればいいかでよく悩んでしまうんですよね。

— 大喜利が得意なんですね。

田中 そうですね。むしろそこばっかり鍛えてきたので。自分が上手い下手かは、置いといて、お題が出たときの瞬発力は負けたくない!といつも思っています。

— 芸人の筋肉が漫画を書くのにすごく役に立っているんですね! 今後、お笑い芸人と漫画家を両立させていくのは大変じゃないですか?

田中 大変ですけれども、続けていきます。それに、この漫画が話題になってくれたのも、僕が「芸人だから」評価されているんだと思うんです。

— といいますと?

田中 これで、僕がただの絵かきだったら、ここまで漫画も評価されていないんじゃないかと……。「お笑い芸人にしては、絵がうまいな」というところでおもしろがられているのかな、と思っています。二足のわらじって、ある意味、ずるいポジションというか。

— でも、それっておいしいポジションですよね。

田中 そうですね(笑)。お笑いも漫画もずっと昔から大好きなんです。漫画のほうは、お笑い事務所に所属しようと思った時に「二足のわらじは無理だな」と、美大も辞めて、絵の道も辞めました。でも、結局、また二足のわらじに逆戻りしてしまったわけです。

— おもしろがる部分の根っこはつながってますし。

田中 やっぱりどっちもとても楽しいんですよね。だからこそ、続けられる限り、二足のわらじをずっとはき続けていきたいですね。

(おわり)

インタビュー・執筆 藤村はるな、 撮影 喜多村みか

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この連載について

初回を読む
​いまスゴイ一冊『サラリーマン山崎シゲル』田中光インタビュー

田中光

ピン芸人・タナカダファミリアとして活動している田中光さんが、自身のTwitter上で発表して、話題になっていたシュールな一コママンガ『サラリーマン山崎シゲル』。万を持して単行本化された本作ですが、芸人である田中さんがどうして一コマ漫画...もっと読む

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コメント

yamadanoima シュールでへたうま感!面白い!好きだな〜〉 4年以上前 replyretweetfavorite

grapecom 【タナカダファミリア/田中光】書き下ろしイラストも☆ 4年以上前 replyretweetfavorite