キービジュアルが本当の鍵となるタイミング—デザイン

デザインとテクノロジーの知識を兼ね備える、次世代型クリエイターの育成を目指す学校BAPA(バパ)。今回は「デザイン・プログラミング」の講義です。前半のデザインについては、バスキュールのアートディレクター春日恵さんが、ビジュアルデザインを手がけたテレビ番組を例に、デザインでプロジェクトを主導することができるという可能性について語りました。

頼まれなくてもキービジュアルをつくる理由


春日恵(かすが・めぐむ/バスキュール アートディレクター)
東京学芸大学卒業後、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学院へ留学。帰国後、印刷会社、グラフィックの制作会社を経て、2007年バスキュールに入社。ユニリーバのAXE、トヨタ IMAGINEエコドライブ、キシリッシュUNIQLO PARKA STYLE 1000、OLYMPUS PENau PASS or GUNなどのさまざまなプロジェクトで、グラフィックや映像、デジタルメディアにまたがる幅広いアートディレクションに携わる。

 今日は、フジテレビの「THE LAST AWARD」という番組で、どうビジュアルデザインをしていったかという話をします。「THE LAST AWARD」は、昨年の9月に放送されて、今年の4月には2回目が放送されました。次世代の映像クリエイターを発掘するというコンセプトで、お題を出して映像作品を募集し、それを審査員と視聴者が審査するという内容です。

 クライアントからのオリエン内容は、「次世代の天才映像クリエイターを発掘、育成するプロジェクトである」「予選を勝ち抜いた作品を、著名クリエイターと視聴者が審査し、グランプリを決定する」というものでした。バスキュールは、ユーザーがスマートフォンから作品に投票し、それが番組内でビジュアライズされる部分の体験をつくることを依頼されていました。

 そこで僕はまず、キービジュアルをつくることにしました。

「体験の部分を依頼されているのに?」と疑問に思うかもしれません。実際、フジテレビからはキービジュアルをつくってくださいと言われてないんです。でも、実はこの段階こそキービジュアルというのはとても重要なんです。

 まだ企画が大枠しか決まっていなくても、キービジュアルがあれば「こういうトーンの番組なんだ」「こういうアワードなんだ」というイメージを共有でき、プロジェクトがスムーズに進みます。クライアントからキービジュアルやロゴが来るのを待つ、という選択肢もあるのですが、そうしていると後の制作に使う時間がどんどんなくなっていくんですね。

 決められたキービジュアルやロゴを使うより、自分で考えたものを使ったほうが、その先のデザインが楽しいという面もあります。というわけで僕は基本的に、必要とされていなくてもキービジュアルをつくることにしています。

 キービジュアルを考える際に、気をつけたことは3つです。

 ひとつは、世の中にたくさんあるアワードに埋もれないこと。検索などでサムネイル表示された時にも、他と差別化できるような、世界観を端的に示すビジュアルにしようと思いました。2つ目は、そのときの体制で実現可能なものをつくること。予算的に無理なものは最初からつくらないと思いますが、時間的に厳しい案も危険です。時間がないと、クオリティが上がりきらない状態のものを、妥協して出さざるを得なくなったりします。また、3つ目は当たり前の話ですが、デザイナーとして世の中に出して恥ずかしくない、イカしたビジュアルでなければならないということです。

 まずキービジュアルをつくるために、世の中にあるアワードのビジュアルを集めました。そしてそれを、「権威が高い・低い」「デザインが古い・新しい」の2軸でつくったマトリクスにプロットしました。

 権威が高い・低いというのは、映像を応募してくれる人をイメージするために役立ちます。このアワードは、アカデミー賞に携わるような第一線で活躍しているプロフェッショナルのためのものでもなく、学生コンペのようなものでもない。

 また、デザインが古い・新しいというのは、主観も入っているのですが、右のほうがカッコいいなと思ったデザインになっています。そう考えていくと、赤い丸のついたあたりにこのアワードが位置するのではないかとわかりました。世の中のアワード内での位置づけが決まったわけです。これを整理することによって、赤い丸以外の部分は探らなくてよくなり、作業が効率的に進められます。

10年後にも話題にしたくなるようなビジュアルを目指す

 次は、キービジュアルをつくる手がかりとして、お題を考えることにしました。やっぱり、みんなに「つくりたい!」と思ってもらえるようなお題じゃないと、番組が盛り上がりませんからね。コンセプトが「次世代のクリエイターを発掘する」のなら、未来を想像するようなお題がいいという話になり、「デジタル放送が終了するときのジングル」というお題を考えました。2011年にアナログ放送からデジタル放送に切り替わりましたが、さらに2030年にデジタル放送が次の放送技術に切り替わるとしたら? という少しSFっぽい設定をつくったんです。実際は、クライアントとのやりとりのなかで「フジテレビの1日の終わりに流す1分の映像」というお題になったのですが、もともとはこんな案でした。

 このお題から、「THE LAST AWARD」というタイトルが生まれました。そして、SFや世紀末的な世界観というモチーフが出てきました。SFといっても、映画『オブリビオン』みたいな洗練された近未来ではなく、どこか不安で欠落したような世界観です。

 それをどうビジュアライズするか考えたとき、パッと浮かんだのがロシア・アバンギャルドでした。構図がダイナミックで、グラデーションとベタ面、あとはノイズが走っているようなデザイン。ロシア・アバンギャルドは、実際に抑圧された環境から生まれた芸術運動です。そういう表現を取り入れることによって、他とは違う異質な印象を持つビジュアルがつくれると思いました。

※ロシア・アバンギャルド:1910年代から1930年代初頭にかけて興隆したロシア帝国・ソビエト連邦における前衛芸術運動のこと。グラフィックの分野では、大胆な色遣いや、タイポグラフィーなどの前衛的手法をつかった表現が特徴。当時のソビエト連邦における文化政策の影響で、プロパガンダ色の強い作品が多くつくられた。

 また、クリエイターを探し出すことから「目」のモチーフ、クリエイターが物をつくりだすときに使うことから「手」のモチーフを取り入れてキービジュアルをつくろうと決めました。

 いつも考えているのは、印象に残る作品をつくりたいということです。この「THE LAST AWARD」も、観た人が10年後にも「そういえばフジテレビで、昔、変わった深夜番組やってたよね」と言いたくなるような、異質な世界観をつくりたいと考えていました。

 このとき並行して考えていたことが、3つあります。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
教えて、バパ。

BAPA

デザインとプログラミング。両方のスキルを兼ね備える、次世代型スーパークリエイターの育成を目指す学校ができました。“Both Art and Programming Academy”、その名もBAPA(バパ)! デザインや広告などのクリ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

tomidonari https://t.co/pdZODPqheq 約4年前 replyretweetfavorite

yaiask BAPA、今回の講義はデザイン。 約4年前 replyretweetfavorite