宗教というセーフティネット
斎藤 「信じる自由」って、海猫沢さんはどういうものだと考えているんですか?
めろん 僕、1975年生まれなんですけど、思春期の時に『ムー』がすごく流行って。
斎藤 流行りましたね〜! 学研の『ムー』ですね。
めろん 『ムー』の文通コーナーを見たら、みんな「私はムー大陸の時代に神官だったものです、記憶がある人求む」みたいなことを書いてるんですよ。いわゆる前世症候群ってやつです。
斎藤 最高に陽気ですね(笑)。素晴らしい。
めろん 僕はそういう時代に思春期を過ごした人間なので、前世とか未知の大陸みたいなものをすごく信じてたんですよね。実は当時、文通コーナーにハガキを出したりもしましたし。そしたらね、来たんですよ、宗教団体から勧誘が。
斎藤 『ムー』を見て?!
めろん ムー大陸やアトランティスを信じてるのって、教祖がいないファンタジーを信じているようなものですからね。宗教の世界観と親和性は高いんですよ。それに、実際そういうものって本人は超楽しいと思いますよ。新しい名前をもらったり、違う自分になるっていう、ごっこ遊びみたいな要素もあるから。
斎藤 ものすごいですよ、宗教は。
めろん うちのばあちゃんもとある新興宗教に入信してるんですよ。でもさっき言った「彼に何か信じられるものがあれば」っていう観点から見ると、宗教ってコミュニティもあるし、信じる軸みたいなものもあるし……なんていうか、セーフティネットとして役立っているんだなって感じたんですよね。
斎藤 なるほど。
めろん 傍から見てると、おばあちゃんとかその周辺の人って揺らがないんですよ。何か問題があったり、病んでもおかしくないような状況でもすごくポジティブ。だから、彼にもおばあちゃんにとっての宗教に代わるものというか、信じられる何かがあればよかったんだけどなって。
「獄中生活」を強いられた全寮制高校
斎藤 海猫沢さんは勧誘されて会合とかに行ったことはないんですか?
めろん 僕の高校、全寮制だったんで。僕の通ってた高校ってすごく特殊なんですよ。まず全員が丸坊主で、寮では1部屋に36人くらいが一緒に寝起きしていて。で、朝は毎日4時起き。3秒以内に起きなきゃいけなくて、起きてからまず何をやるかと言うと、掃除なんです。床を磨くんですけど、本気の全力でやってないと殴られるんですよね。
斎藤 本気の全力かどうかって、どこで見分けるんですか(笑)?
めろん それは声の出方で(笑)。そのあと毎日10キロ走るんですけど、ここで隊列の足を乱しても殴られる。たまに体が弱くて倒れる奴も出るんですけど、それに対して先輩は「どうして体が弱いか分かるか? それは全力じゃないからだ」と。
斎藤 すさまじいですね。
めろん ただね、本を読めたのは良かった。
斎藤 本は読んでいいんだ。
めろん 自習時間に読めますね。昼は完全スケジュールで、朝4時に起きて全力で掃除して、ヘトヘトになった後にご飯食べる。そして授業があって、それが終わったら、点呼があって……。
斎藤 点呼?
めろん 脱走者がいないか確認するための点呼がいちいちあるんです。授業後は全員部活必須で、部活が終わったら晩ご飯。晩ご飯食べたら隊列を組んで10キロ超えの山道を走って寮に戻って。それで寮に帰ったら、寝るまで3~4時間は自習なんですけど、勉強の仕方がわからなかったんですね、僕(笑)。
斎藤 それで本を読んでいたわけですね。
めろん そうなんです。自習時間は音を立てちゃいけなくて、それこそトイレに行きたい時も足音をたてないように裸足で行くレベルだったから。でも本って言ってもラノベとかですよ。それさえ、当時の僕は頭が悪すぎて読めなかったから、まず辞書で漢字をしらべるところから始めました(笑)。
斎藤 (笑)。でもそこで活字を大量に吸収したことが今につながっているわけで。
めろん そう、そこでの蓄積です。学校はきつかったけど、そこで本を読むようになったんで、それだけは良かったかもしれないですね。
斎藤 ほとんどもう「獄中で読みました」みたいな話ですね(笑)。ちなみにこの生活って、休日はないんですか?
めろん 日曜日はとりあえず休みなんですけど、食堂に行くには山を越えて走って行かなきゃいけないから、全然休みじゃない。
斎藤 里帰りは?
めろん 里帰りは2ヶ月に1回くらい帰れるんです。バスが迎えに来てそれで帰省する。
斎藤 そのまま帰って来ないのはOKなんですか?
めろん それがあると、帰ってきた僕らが反省会をさせられるんですよ。班ごとに分けられて、「帰って来ないやつは何が起こったんだ?」みたいな。
斎藤 おかしいでしょ(笑)。なんで残った人に聞くんですか?
めろん 「お前らが悪いんじゃないか?」みたいな。それでみんなで話し合って、結局寮の部屋単位でライトバンに乗りこんで、帰ってこない奴の家に行って。