斎藤環×海猫沢めろん vol.1「死ぬ気」で生きるより「殺す気」で生きる

若くして自ら命を絶った友人K君を思い返しつつ、新刊『頑張って生きるのが嫌な人のための本』を綴ったという海猫沢めろんさん。西加奈子さん、末井昭さんと続いてきた対談企画の第三弾では、精神医療の第一人者である斎藤環さんに専門家としての見解を伺いつつ、「ゆるく自由に生きるための方法」を探求していきます。同時掲載中の本書の内容とあわせてお読みください。


「ニートって言葉に救われた」K君

海猫沢めろん(以下、めろん) 今日はよろしくお願いします。僕が出した新刊『頑張って生きるのが嫌な人のための本』の対談イベントをいろいろな方をお呼びして開催しているのですが、今回はぜひ専門家の意見をいろいろとお聞きしたいなと思い、斎藤さんをお招きしました。

斎藤環(以下、斎藤) よろしくお願いします。海猫沢さんには2012年に私が『世界が土曜の夜の夢なら~ヤンキーと精神分析』という本を出したときにトークイベントのゲストとしてご登壇いただいた恩義もありますので、今日は頑張ってゲストを務めたいと思います。(対談内容はこちら→ヤンキー化する日本 斎藤環×海猫沢めろん

めろん 先に少しだけ説明すると、僕がこの本を書いたのは友達であったK君が自殺をしてしまったことがきっかけなんです。サブタイトルに「ゆるく自由に生きるレッスン」とつけたように、僕は彼に対して「もうちょっと自由になれる方法があったんじゃないかな」って気持ちがずっとあって。それで、彼のことを思い返しつつ書いてみたんです。

斎藤 彼は出会った当初の時点で、すでにダウンな感じになっちゃってたんですか?

めろん 初めて出会った時はまだ16歳くらいで、僕にとってもすごく若い友達だったんですけど、その頃からそんな感じでしたね。東京に出て来たのも、地元で閉塞感を感じていたのがきっかけらしくて。

斎藤 16歳でしょ?! どういう名目で東京にいたんですか、それは? 学生?

めろん いや、中学もあまり行ってなかったけど義務教育だから一応卒業して、フラフラしてたんだけど、彼の兄貴が東京にいたから「ここにいてもしょうがないから東京行くわ」みたいな感じで出てきて。それで、兄貴の近所で生活してましたね。

斎藤 でも親御さんはちゃんとした人だったんですよね。

めろん 親御さんも心配だったみたいだけど地方にいても何も変わらないし、東京なら兄貴もいて安心だったから。だから仕送りももらってたみたいです。でもやっぱりお金をもらっているわけだから 、プレッシャーはあったと思いますよ。他にもいろんな精神的な葛藤があって、いつも「自由になりたい」って言ってましたね。

斎藤 相当自由に見えますけどね。K君は海猫沢さん以外に友達とか、あと彼女はいたんですか?

めろん いました。でも何につけてとにかく悩むんですよね。本当、何が起こっても悩む。2006年の『ユリイカ』で「ニート特集」というものがあったんですが、そこでの対談相手である「リアルニートのK君」が、彼なんですよ。

斎藤 そうなんですか!

めろん その時はまさかこんなことになると思ってなかったから、普通に話してるのが収録されてるんです。でも、その時もやっぱり「死にたい」って言ってました。そのほかにも「やる気ねぇよ。もう無気力、無気力」みたいなことばっかり言ってるんですけどね。

斎藤 そうだったんですね。

めろん その対談の時に印象的だったのが、「ニートって言葉に救われた」という言葉です。Kくんは肩書きが何もないから、他人に自分のことを説明できなかったそうなんですよ。でも「ニート」って言葉ができて説明できるようになった。「肩書きがあるってことですごく楽になった」って言ってました。

斎藤 肩書きですか、なるほど。

めろん そう言ってたんだけど、結局その後ずっと経ってから自殺してしまい。……今回の本の1章は「力を抜いて『平凡な自由』を考える」っていうタイトルなんですけど、「平凡」って普通のことのようで、実はすごく難しいんですよね。たしかに「平凡な自由」なんて言われると僕自身も嫌なんですよ、なんかヌルい感じがして。

斎藤 たしかに、ちょっと男としては嫌だなって思っちゃうかもしれない(笑)。

めろん そう、特に男はね。自意識があるから平凡さを受け入れられないわけですよ。それはもちろん彼も同じで、「何かで成功したい」みたいな思いを強く持っていて。

斎藤 何者かでありたかったんだ。

知らない人に自分を見せるのが嫌

めろん だから「平凡になる方法」を第1章で考えてみたけど、彼のことを思い返すと「平凡になるには自意識の問題っていうのが難しいよね」って結論に至って。そこから第2章の「人とのつながりという『檻』から自由になる」を考えていきました。

斎藤 ここでの「人とのつながり」っていうのは、つまり絆みたいなこと?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
頑張って生きるのが嫌な人のためのはなし

海猫沢めろん

年間3万人前後もの人が自ら死を選ぶ自殺大国・日本。ゆたかな国にも関わらず、根強くはびこっている閉塞感と生きにくさ。海猫沢めろんさんの友人・K君は、そんな閉塞感から自由になるために自殺を選択しました。めろんさんが、K君と、おなじ悩みをか...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

uminekozawa ◆頑張らなくても生きるにはどうしたらいいのか? 2日前 replyretweetfavorite

uminekozawa ◆頑張らなくても生きるにはどうしたらいいのか? 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

murasaki402 昔から「死ぬ気で頑張る」って言葉が嫌いで「殺す気で頑張る」って言ってたんですが、似たようなタイトルの記事が......https://t.co/6rCOBDvd6l 1年以上前 replyretweetfavorite

ryu22e 本当にこれ大事では、と最近よく考える/NowBrowsing: 4年弱前 replyretweetfavorite