先週の7月8日〜9日、デジタルマーケティングのカンファレンス「ad:Tech Kyushu(アドテック九州)2014」が、福岡で開かれました。私も「バイラルメディアの活用戦略」というテーマで、ハフィントンポスト日本版の松浦編集長と、電通PRの阿部ストラテジックプランナーと一緒にお話をしに行ってきました。
私にとって、今回のアドテック九州が東京以外の地方でのデジタルマーケティングに関する初めての講演でしたが、東京と地方のギャップを痛烈に思い知らされる経験となりました。
東京ですと、Facebookなどのソーシャルメディアがかなり普及していることもあり、「ソーシャルから集客するには、これからはバイラルメディア」と言えば、その具体的な方策は分からないにしてもだいたいうなずいてもらえます。「で、どうすれば良いのでしょうか?」という質問が、次に続きます。
しかし、福岡では違いました。200人ほど集まった私たちのセッションの聴衆に対して「バイラルメディアという言葉を、これまでに聞いたことがある方?」と挙手を求めたところ、何とわずか数人しか手が挙がらなかったのです。
単純に言葉が知られていない、というのではなく、そもそも九州におけるインターネットビジネスのあり方と、それによるマーケティングへのネット活用のベクトルが、東京とはかなり異なるようだ、というのが、カンファレンスに参加しての感想でした。
集客で押しまくる、「通販王国」九州のインターネット
九州のネットビジネスを一言で形容するのが、「単品通販」という言葉だと言われています。一つのブランド・ウェブサイトの中に複数の商品をラインナップするのではなく、とにかくたった1種類の商品をひたすら押しまくる、そういう通販が多いのです。その典型例が、健康食品の「やずや」です。
私も今回のアドテック九州で初めて知ったのですが、同社はもともと結婚式場の運営会社でした。しかし、80年代に事業転換を図って青汁を売り始めたのが、通販ビジネス参入のきっかけです。その後、90年代にお茶や雑穀米、にんにくエキス、香醋、ケフィア(ヨーグルトきのこ)などへと取り扱い商品を広げていき、最近は書籍出版や商業施設の運営なども始めています。
やずやが通販で成功したのは、東京の企業が売らないような商品を、東京の企業がやらないような売り方で売ったからです。美容やダイエット、精力増強といった効能をもつという(やや怪しげな)健康食品を、赤や黄色のマーカーで文章を派手に目立たせた長大なウェブページで訴求する、といった販売手法は、ある意味でその時々の"常識"を覆すマーケティング手法でした。
やずやをはじめ、キューサイ、エバーライフ、アスカ、悠香、新日本製薬、アサヒ緑健、ちゅら花、再春館製薬、健康家族といった通販主体の健康食品企業は、どこも九州に本社を置いています。おのずと、九州のネットビジネスを語る時、これらの企業を「ロールモデル」としたEC(電子商取引)の話題が多くなるのは当然のことです。
しかし、こうした通販ビジネスは、まだまだ顧客との接点を紙(カタログ)や電話、テレビなどに頼る部分も多く、ネットはそうした「集客のための情報チャネルの一つ」に過ぎないという捉え方が強いのも事実です。
実際、キーノートセッションに登壇した人気の高いスピーカーは、「テレビCMにもネットで定量的な効果検証を行ったのと同じものを放映すべき」と説いていました。その主張はまさにネット=顧客の反応の検証実験が可能なミニ・テレビ(集客チャネル)という考えに基づくものであり、「ネットならではのユニークなコミュニケーション」を日々考え続けている東京のマーケティング業界との世界観の断絶を感じさせるものでした
集客におけるバイラルメディアとソーシャルメディアの違いとは?
私が登壇した「バイラルメディア」のセッションも、テーマの言葉そのものを聞いたこともないという初心者が多かったこともありますが(そこは私もかなり丁寧に説明したつもりでしたが)、ネットを集客のためのツールとしか考えていない人たちにとっては、非常に分かりづらい議論になってしまったなあと、反省しています。
セッション終了後、最前列で聞いていたネット業界完全初心者の女性からいろいろと質問を受け、彼女に説明する中で私自身も初めて気づいたことがいろいろありました。