【ハーレクイン豆知識:ボス秘書もの】
オフィスが舞台のいわゆる“オフィスラブもの”ですが、ハーレクインでは“ボス秘書もの”と呼ばれています。というのもオフィスが舞台の場合、ヒーローが社長でヒロインが秘書の場合ばかりだから。そう、ここで言うボスとは、ただの上司ではなく社長のことなのです。 日本のオフィスラブものでよく見られる同僚同士でのラブストーリーがない点はさすがハーレクイン!といったところでしょうか。
【作品紹介】
ベスは双子の妹の頼みに驚愕した。妹は実業家マーコスの秘書として高給を得ているが、社内不倫のあげく妊娠したうえ、 出産が終わるまでベスに身代わりを務めてほしいというのだ。 話を聞くかぎり、マーコスは社内恋愛すら許さないワンマンな社長だ。 とはいえ、ただ一人の妹のためにできるだけのことはしてあげたい。 妹になりすましたベスは、緊張しながら出勤した。 そして初めてボスであるマーコスと対面し、息が止まりそうになった。 傲慢さをにじませながらも、荒削りさがセクシーな男性。 ぼうっと立ちつくすベスは、そのときは想像すらしなかった—— マーコスと恋に落ち、運命の皮肉さを思い知らされることになるとは。
マーコスは肉食動物のようなほほえみをゆったりと浮かべた。
「そんなに眠そうには見えないが」
「そうですか?」
もちろん、そうよね。顔が真っ赤なんだもの。どんなふうに見えるかは自分でもわかっている。興奮しているように見えるのよ。 そしてたしかに、ベスは興奮していた。心臓が早鐘を打ち、たとえ指一本でもまた触れられたら、欲望が暴走してしまう。 デイヴィッドと一緒にいるとき、ローラもこんなふうに感じたのかしら、とベスは思った。たとえ会社の規則を破ってもローラが彼と結ばれずにいられなかった理由が、いま初めて理解できた気がする。
ベスはふいに自分を見失い、パニックの波に襲われた。マーコスに感じているものが単なる欲望ではないと気づいたからだ。それはもっと深いもの……私は彼に恋している。すべての信条、理性の忠告を無視して、彼に恋をしてしまった! ベスは目を大きく見開き、マーコスを見つめた。まるで激流に運ばれていく流木のように、なすすべもなく身を任せるしかないのだろうか。
「お願い」
ベスはささやいた。
「もう行って」
「行かなかったら、どうする?」
マーコスはベスに近づき、片手で彼女のうなじをゆっくりとなでた。
「恋愛に関する会社の規則を忘れたんですか?」
しかし、マーコスはまったく動じない。
「会社は僕のものだ。ルールは僕が決める」
かすれた声でそう言うと、もう一方の手でベスの顔を上に向け、まぶたにそっとキスをした。ただそれだけで、ベスの体に電流のような甘い衝撃が走る。
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