小林麻耶が自分を嫌う意外な「目的」とは?

cakes連載が書籍化し、35万部のベストセラーになった『嫌われる勇気』。フロイト、ユングと並んで「心理学の三大巨頭」と称され、自己啓発の源流とも呼ばれるアドラーの思想を紹介した同著の反響は大きく、著名人のなかにもファンがたくさんいます。その一人が、フリーアナウンサーの小林麻耶さん。付箋をぎっしり貼った同著を持参した小林さんは、いったいアドラー思想のどのような部分に惹かれたのか。著者である岸見氏、古賀氏との鼎談を、2回に分けてお届けします。(構成:宮崎智之、写真:田口沙織)

転校先で嫌われるのが怖かった幼少時代の記憶

小林麻耶(以下、小林) 先日、偶然ダイヤモンド社の編集者さんとお会いしたときに、「私、『嫌われる勇気』のファンなんです」とそれこそ勇気を出して手を上げさせていただいたことがきっかけで本日の鼎談をセッティングしていただくことになりました。

古賀史健(以下、古賀) とても光栄です。

岸見一郎(以下、岸見) 小林さんとお会いできてうれしいです。

小林 しっかりお話しできるか心配なのですが、まずはお二人に「本当にありがとうございます」ということをお伝えしたいです。この本に出会って、アドラーの考え方を知ることができたことで、自分の人生に光が見えてきたような気がします。大学生のときにカーネギーの『道は開ける』や『人を動かす』に出会って以来、自己啓発書を読むようになり、ビジネス書などもすごく好きでした。社会人になってからは本を開いた瞬間に違う世界に連れて行ってくれる小説を好んで読んでいました。

古賀 なるほど、本がお好きなんですね。

小林 TBSに入社し、本当にありがたいことにたくさんの仕事をさせていただきました。その一方でプライベートの時間はほとんどありませんでした。『嫌われる勇気』のなかの言葉を借りると「他者の人生を生きていた」ような状態だったのかもしれません。退社し、自分の時間がゆっくり取れるようになったことで、「自分の人生ってなんだろう」「幸せってなんだろう」とか深く考えるようになり、再びたくさんの自己啓発書を手に取るようになって。その都度、そこに書かれていることを実践してみるのですが、「あれ? この方法は、この人には当てはまっても、あの人には当てはまらないぞ」みたいな疑問が浮かんでくるようになってしまったんですね。

岸見 本著を手に取ったきっかけは、なんだったんですか?

小林 そんな折、書店でふと『嫌われる勇気』を見つけたんです。私は「嫌われる」ということに関して、幼い頃から悩んできました。というのも親が転勤族だったので、6回転校を経験しているんです。そのたびに早く仲間に入れてもらいたいがために、嫌われない自分を作り出そうとするのですが、なぜか嫌われる(笑)。転校生というだけで、転校初日に呼び出され「あなた、嫌いなんだけど」と、女子から嫌われてしまうということもありました。

古賀 僕の親も転勤族で、小学校だけで4つも変わりましたので、おっしゃることがよくわかります。どこにいても最初は外部の人で、ただそれだけで否定されてしまう。だから、自分がどういう風に立ち回ればいいのか考えるわけですよね。「あの小学校ではこんなキャラだったけど、こっちでは違う」なんてこともすごくあって。そのせいで本当の自分ってどんな人間なんだろうということを小さな頃からずっと考えるようになりました。

小林 一緒ですね! 私はその後、メディアに出ることで不特定多数の方々に見ていただくことが多くなり、嫌われる量もさらに多くなっていった気がします。嫌われることは怖かったですが、万人から好かれるのが不可能に近いことも理解できるようになりました。だから書店で本を見つけても、「嫌われる勇気でしょ。知ってるよ。私はもう持ってるもん!」と思っていました。でも、書店に行くたびに毎回毎回このタイトルが目に飛び込んでくるし、あまりに売れているので、これはなにかあると思ってようやく購入したんです。そうしたら、あれよあれよという間に読み進め、最後にはとても感動していました。

岸見 すぐに手にするよりも、そういう期間があってよかったのかもしれないですね。助走期間や準備期間があったからこそ、深く受け入れることができたのかもしれません。

小林 そうですね。哲人と青年の対話形式も読みやすく、私自身が青年になり切って哲人に問いかけることによって感情移入ができました。すごくわかりやすかったです。

人に合わせてしまうのは責任を取りたくないから?

小林 『嫌われる勇気』には、印象的な言葉がいろいろ出てくると思うのですが、なぜこの題名だったのでしょうか?


小林さんの『嫌われる勇気』には付箋がぎっしり

古賀 もともとアドラー心理学が「勇気の心理学」と呼ばれていたので、「勇気」という言葉はタイトルで使いたいと思っていたんです。さらに読者にとって一番難しい勇気、書店で見たときにドキッとする勇気ってなんだろうと考えた末に、「嫌われる」というフレーズが頭に浮かんできました。現代は、FacebookやTwitterで少しでも不用意な発言をすると攻撃されてしまう時代です。「嫌われることについて、一般の読者の方たちも過敏になっている状況が広がっている」と思ったので、あえてこの題名を選びました。

小林 お二人はもう「嫌われる勇気」は完璧にお持ちなのですか?

岸見 嫌われるのがイヤだと感じることは今でもありますよ。できれば嫌われたくないとは思っています。けれど、嫌われることを恐れては駄目だと思いますし、そのように思えたのはアドラーのおかげです。あるとき、息子から「君はそんなに嫌われるのが怖いのか?」と聞かれたことがありました。なぜ憶えているかというと、当たっていたからですね。その頃から嫌われるということが僕の中で一つのキーワードになっています。

古賀 僕は先程も言ったとおり、転校生だったので「嫌われる勇気」については、昔からずっと考え続けているといった感じです。だからこそ、初めて岸見先生のご著書『アドラー心理学入門』を通してアドラーの思想に触れたとき、深く心に突き刺さる部分があったのかもしれません。

小林 転校の経験は、もちろん悪いことばかりではありませんよね。転校のおかげで新しい環境に慣れるスピードがとても速くなりました。アナウンサーの仕事ではインタビューなどで初めての方にお会いすることが多いのですが、転校の経験が生きています。一方で、相手に合わせて自分を作り出してしまう癖がついてしまったという問題はありますが……。

古賀 なるほど。

小林 だから、その癖は「転校が多かった」という過去が原因だとずっと思っていたんです。でも、『嫌われる勇気』を読んだら、「原因」は現在の「目的」を達成するために捏造されたものだと書かれている。なら私はどんな目的で相手に合わせてしまうのか。今の自分のままでいたほうが安全だから、自らの手で今の自分を選んでいると本では指摘されているけれど、なんの目的でそんなことをしているのかまったくわからないんです。

岸見 もう少し先を見なければいけないですね。なぜ人に合わせようとするのか。それには目的があるはずです。発想を逆にして「人に合わせないとなにが起こるか」を考えれば答えが見えてくるかもしれません。人に合わせなければどうなるんですか?

小林 嫌われる?

岸見 結果的にはそうかもしれませんが……。

小林 あと、相手から受け入れられない。

岸見 小林さんは受け入れられたいのですね?

小林 受け入れられたいです。

岸見 なぜですか?

小林 ひとりぼっちが嫌だから?

岸見 そうではなくて、人に合わせたほうが、きっと何らかのメリットがあるのですよ。

小林 えっ? なんだろう?

岸見 人に合わせれば自分で責任を取らなくていいのです。相手の責任にできるから。

小林 ああ、そうか。なるほど。

岸見 でも、合わせなければ自分のほうに責任が生じる。人に合わせている限りは、「自分は本当はそんなことしたくなかったんだ」という言い訳を、いくらでも言えますよね。

小林 言えます。そうですね……。

岸見 たとえばフランス料理を食べたいと思っていたけれど、友人が中華料理を食べたいと言ったとする。友人の意見に合わせれば、たとえ料理が美味しくなくても自分の責任ではありません。本来は嫌われようがなんだろうが自分がこの料理を食べたいと言うべきです。でも、そうしたくないから、人に合わせる癖がついてしまった可能性がある。

小林 私自身がそれを選んだということですか?

岸見 そうです。

小林 なるほど。私は青年と一緒で、実は自分のことが好きではないんです。でも、それも怖いからなのかなと今話していて思いました。自分のことを好きと言った時点で、すべて自分の責任を自分で取らなければいけなくなるから、自分を好きじゃないことにしているだけなのかもしれないと。

「ほめること」に秘められた下心

小林 『嫌われる勇気』を読んで驚いたことは、まだまだあります。私は人をほめるのは素晴らしいことだと思っていましたし、私自身もほめられたいです。でも、『嫌われる勇気』には、ほめることは叱ることと同様、相手を縦の関係の下に置く行為だと書かれています。ほめることによって、相手を操作しようとしているのだと。

岸見 大切なのは「横の関係」になることです。

小林 でも、相手が上司の場合はどうすればいいのでしょうか。横の関係になるのは難しいような気もします。対等なつもりで、思わず失礼なことを言っちゃうなんてことも……。

岸見 普通にしていればいいんですよ。人間関係に計算が入ってはいけない。縦関係だと常に計算が入ってしまいますし、その裏には相手を操作したいという下心があります。

古賀 部下としては、上司にお世辞を言わなければいけないと思ってしまいますよね。でも僕が岸見先生と話しているなかですごく納得したのが、上司がなぜ威張っているのかを考えてみると、上司自身も不安だったり、自信がなかったりして、縦の関係を築いていないと自分の威厳が保てないと思っている可能性があるということです。

小林 なるほど。そうかも!

古賀 上司も威張りたくて威張っているのではなくて、不安だから威張っているんだなと思えれば横の関係が築けるし、役職が違っても人として対等に付き合えると思います。

岸見 自分に本当に自信がある人は、自分の力を誇示したりしません。だから、相手が怒鳴ってきても、自信がないからだと思えば、なんとも思わなくなりますよ。大切なのは、「そうしなくても、私はあなたのことを認めているし、尊敬していますよ」と伝えることです。そうすれば、相手も変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。それはこちらの課題ではなく、「相手の課題」なので、絶対に変わるかどうかまではわかりません。しかし、ポイントはまずは自分が変わらなければいけないということなのです。

小林 まず自分が一歩踏み出すのが大切だということですね。

岸見 そうです。一度でも自分から変わろうとした経験を持つ人は、あらゆる対人関係できっと同じことができるようになると思います。

古賀 さらに言えば、部下としても縦の関係に身を置いているほうが楽ということもあると思うんですよね。お世辞を言って、機嫌を取っていればいいわけですから。転校生みたいなもので、その都度、臨機応変に対応していれば、とりあえず皆から嫌われることはないですから。でも、それだといつまでたっても横の関係になることはできません。

小林 なるほど。やはりアドラーは面白いですね。アドラーの考えをすべて理解して習得するためには、それまで生きてきた年月の半分くらいかかると書かれていました。まだまだ先は長いですが、これからも勉強してどんどん実践に移していきたいです。

(後編に続く)

一歩踏み出したいあなたへ「嫌われる勇気」を伝えるベストセラー!

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

--- - "岸見 一郎" - "古賀 史健"
ダイヤモンド社
2013-12-13

この連載について

衝撃のアドラー心理学—小林麻耶×岸見一郎×古賀史健『嫌われる勇気』鼎談

小林麻耶 /岸見一郎 /古賀史健

35万部のベストセラーになった『嫌われる勇気』。フロイト、ユングと並んで「心理学の三大巨頭」と称され、自己啓発の源流とも呼ばれるアドラーの思想を紹介した同著の反響は大きく、著名人のなかにもファンがたくさんいます。その一人が、フリーアナ...もっと読む

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コメント

uma_klpe 『自分のことを好きと言った時点で、すべて自分の責任を自分で取らなければいけなくなる』 それでも自分が好きと言えるか、だなあ。アドラー心理学。> 2年弱前 replyretweetfavorite

fujinejima 「書店に行くたびに毎回毎回このタイトルが目に飛び込んでくるし」…みんな悩んでるんですねー。ほんと目に入る。→ 約2年前 replyretweetfavorite

shanty_coco 『嫌われる勇気』鼎談|岸見一郎 3年以上前 replyretweetfavorite

chrhsmt 「嫌われる勇気」って自己啓発本になるのか、そうなのか..... http://t.co/4L61fyghP6 3年以上前 replyretweetfavorite