後編】本当の勝負って、もうちょっと入り組んでいて、重いもの

「バッテリー」シリーズで知られ、全身全霊でスポーツに打ち込む若者を描けば右に出るもののいないあさのあつこさんが、新たに挑んだテーマは「敗者」。冒頭から急展開をしつつ、敗北をくぐりぬける野球少年たちの勝負を中心に、親や監督、新聞記者まで大人たちが描かれます。それぞれの敗北を描いた先に、あさのさんが見出した「敗者」とはなんだったのでしょうか。後編は、子供だからこその「敗北」のリアルさや勝ち負けの先で真摯に野球に向かい合うことについてお話を伺いました。


『敗者たちの季節』
あさのあつこ
KADOKAWA/1404円/7月25日発売

【あらすじ】
夏の甲子園。初出場をかけた地区予選決勝で敗れ、海藤高校野球部の夏は終わった。だがそこへ、優勝校の東祥学園が不祥事によって出場を辞退したという報せが届き—。エースや補欠、敵チーム、そして両親から監督、新聞記者まで、さまざまな視点から「敗者」が描かれる鮮烈な青春小説!


担当編集者の太鼓判!
編集作業上、何度かゲラに目を通す機会があるのですが、そのたびに涙と鳥肌が止まりませんでした。私自身は野球経験は全くありませんが、甲子園中継を見るとなぜか泣いてしまいます。高校野球にしかない熱さがあるように、あさのさんにしか書けない野球小説があります。そして今までのあさのさんの野球小説の中でも、ここまで真正面から深く踏み込んだ青春作品は他にないでしょう。あらゆる人にオススメしたい、熱い作品です!(角川書店 森亜矢子)

敗北をくぐり抜けて大人になった先まで

— 『敗者たちの季節』は高校球児だけでなく、親や監督、新聞記者まで、さまざまな大人たちが出てきますよね。

あさのあつこ(以下、あさの) 物語のキーワードは「敗者」ということは決めていて、野球のことだけを書こうと思ったわけではなかったんです。だから、大人たちの敗北の仕方や、敗北をくぐり抜けた野球少年たちが大人になった先に何があるかっていうのも書きたかったんですよね。

— 遠い過去に大敗北を喫したエピソードも。

あさの やっぱり生きていく上でいつまでも敗北にこだわっているわけにはいかない。大人になるにつれ、どこかで自分をごまかすなりいなすなり、なんとか乗り越えていくわけですよね。単に大人の目線も入れたいなってことじゃなくて、大人を書くことでも「負ける」ってどういうことだろうってことがわかってくるかなと思って。

— 確かにいつまでも大一番でのエラーをひきずってはいられません。

あさの いま、「勝ち組」「負け組」とかすごく簡単に言われてしまうじゃないですか。でも、そんなもんじゃないですよね。本当の勝負って、もうちょっと入り組んでいて、重いものだろうと。

— 大人でも高校球児でもなく、テレビで甲子園を見ている小6の少年がでてきますよね。「スポーツで一流になれっこない」と自分の才能を見限って、少年野球のチームを辞めることに決める。

あさの こういう経験は9割5分の人がしますよね。

— はい。すごく親近感を持って読みました。

あさの やっぱり幼い少年には、幼いなりの敗北があるっていう。大人になると、「若い」っていうのは未来があることで、これから未来の可能性がひらけているものだって、くくりがちなんですけど、やっぱり抜き差しならない敗北っていうのを少年たちもちゃんと味わうんですよね。大人たちと同等の。

— たしかに、スポーツだけでなく、勉強でもテストでも、勝負ごとは大人より多いかもしれないですね。

あさの それを子供だから余計に生々しく受け取ってしまう部分はあると思います。大人なら「まあこんなもんだ」とか、うまくいなすことってできると思うんですけど、自分の負け、力のなさっていうのは子供だからリアルに感じ取れるところもあると思うんです。

— なるほど。

あさの 学校や部活、その世界がすべてみたいなところがあるので、その敗北がときに深い。それを若いからとか、世間を知らないからとか、そういうことで軽んじたくないという思いがあったので。

— その少年野球のコーチの「上手くても下手でもいい。一人一人の野球がある」というセリフがありました。甲子園にすべてを懸ける球児たちとコントラストがあってハッとしました。

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いまスゴイ一冊『敗者たちの季節』あさのあつこインタビュー

あさのあつこ

「バッテリー」シリーズで知られ、全身全霊でスポーツに打ち込む若者を描けば右に出るもののいないあさのあつこさんが、新たに挑んだテーマは「敗者」。冒頭から急展開をしつつ、敗北をくぐりぬける野球少年たちの勝負を中心に、親や監督、新聞記者まで...もっと読む

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コメント

safcoA 「バッテリー」もいい作品だったな〜子どもであっても、その深刻さは軽んじられるものではないよね。是非読みたい https://t.co/hVxawzAZi0 3年以上前 replyretweetfavorite

nkg_13 バッテリーで知られるあさのさんの新たな青春小説の傑作。テーマは「敗者」です。勝負にかける一瞬に呑まれました。 [無料]|『敗者たちの季節』あさのあつこインタビュー https://t.co/CBEELBZVUg #fb 3年以上前 replyretweetfavorite

consaba 本当の勝負って、もうちょっと入り組んでいて、重いもの|いまスゴイ一冊『敗者たちの季節』(KADOKAWA)あさのあつこインタビュー 3年以上前 replyretweetfavorite