追悼・春一番—誰にでも出来るモノマネをやり続けるということ

7月3日、肝硬変で亡くなったお笑い芸人の春一番。アントニオ猪木のものまねで知られたの彼の訃報に、プライベートでも交流があったアントニオ猪木や、師匠の片岡鶴太郎などが死を悼みコメントを寄せました。今回の「ワダアキ考」は、近年あまりメディアで見かけることのなかった芸人・春一番とはいったいどんな芸人だったのかを振り返ります。

猪木モノマネの「基礎」「上級」「応用」

アゴを出す、あるいは既に出ている、というだけでモノマネがほとんど完了しているのだから、アントニオ猪木のモノマネで生計を立てるというのは、あらゆる職業のなかで極めてチャレンジングな選択肢だと思う。ルパンの声マネをしていたらルパンの声を継ぐことになった栗田貫一のようなことは起き得ないし、モノマネにしては歌唱力がありすぎるから歌手としてデビューというような階層のチェンジを期待できるわけでもない。それなのに猪木のモノマネは、春一番だけではなく、アントニオ小猪木、アントキの猪木と、ひとつの職業として継がれてきた。ポーズや掛け声、詩集の朗読など基本的な仕草と声をマネる先駆者が春一番。「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に引っ張りだこだった猪木のディテール物真似(「ディック・マードックにインディアンデスロックをきめるアントニオ猪木」など)を見せるのがアントニオ小猪木。「猪木がドライブに行くと……カーナビが、この道を行けばどうなるものか、と言う」などのシチュエーションコントを得意とするアントキの猪木。モノマネの仕方として、基礎・上級・応用のそれぞれに芸人が存在しているのは猪木だけだろう。

本物を目指さない、近付きすぎない、春一番の功績

上級・アントニオ小猪木と応用・アントキの猪木のモノマネを知ってしまうと、基礎・春一番の才気はやっぱり疑われてしまう。つまり、大して上手くはない。モノマネはいつからか、荒牧陽子や青木隆治のように本人にどれくらい似ているかが真剣に問われるパターンか、くりぃむしちゅーの有田哲平のようにトークのアレンジとして挟み込まれるものに二分されてしまった。「なんとなく似ているのでやってみました」というヌルいハードルが許されにくくなった。昨年、一瞬だけ光を放った石田純一をマネる小石田純一のように、まさしく瞬間風速で忘れ去られていくパターンにのみヌルめのハードルが用意されるが、その消費の早さったら残酷だ。

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

hanami_pipi テレビネタ全然分からないけど読んでしまう武田砂鉄コラム。 約4年前 replyretweetfavorite

cigarchang テレビに関わらず、わけ分からないことができない説明社会な日本。 約4年前 replyretweetfavorite

kusanagikenta UFOを始めとして、なんだかよくわからない、がテレビから消えつつあり、淋しい。 約4年前 replyretweetfavorite

manta_birostris 答えが出ない状態が恐いんじゃないかな、みんな。→“「この人はこういう人だ」という確定を急ぐから、たとえば小石田純一は瞬間風速で咀嚼され消化されてしまった” 約4年前 replyretweetfavorite