ベンチャーが生み出す社会の変化

cakesの著者でもある磯崎哲也さんが、『起業のエクイティ・ファイナンス』という本を出されました。2010年に出版されてすぐにベンチャーでバイブルのようになった『起業のファイナンス』の続編的な本です。
この連載は同書の最終章を再構成したものです。ファイナンス的な観点からベンチャー生態系の未来像を提示し、そこに到達するためのスピードを加速するために、どのような方策を取ればいいのかを教えてくれます。

 ここまで見てきたように、日本のいろいろな問題は、市場メカニズムがうまく機能しないことによる問題につながっていることが多いと思います。ベンチャーが日本のすべての問題を解決できるわけではないですが、主要な問題のかなりの部分は、ベンチャーにより解決する可能性があると考えています。

 たとえば、社外取締役の導入などのコーポレート・ガバナンスの向上についての問題です。
 日本では「法律で社外取締役を強制すべきだ」「社外取締役がいないと、海外の投資家に対しても恥ずかしい」といった議論が行われていますが、資本主義の中の資本主義の話であるはずのコーポレート・ガバナンスの話が、市場メカニズム(競争)以外の法律や規制で決まるということには違和感を感じます。本当に社外取締役を入れたほうが会社がよくなるのなら、社外取締役を入れた企業が勝ち残るのではないでしょうか。※20

※20 もちろん、欧州のように、従業員代表が役員になるといった、企業の業績をよくする以外の目的にコーポレート・ガバナンスが使われることもあります。

 今後、ベンチャー1社あたりへの投資額が、数千万円ではなく、数億円、数十億円と増大していくと、投資したベンチャーがちゃんと経営をしているかのモニタリングの必要性が増し、そのためにベンチャーキャピタルが社外取締役を指名するのが普通になっていくはずです。前述のとおり、ベンチャーキャピタルの活動費用(マネジメント・フィー)は、ファンドサイズの2%前後ですので、投資した金額が1,000万円であれば、年間20万円しか活動費用が充てられませんが、投資が10億円であれば、そのベンチャー1社に対して年間2,000万円の活動費用がモニタリングやハンズオンに充てられることになります。 
 ベンチャーどうしの競争が激しくなれば、より巨額の資金を調達する必要が増え、ラウンドごとに社外取締役を受け入れるようになると、米国同様に社外取締役が取締役会の過半を占めることも普通になってくるはずです。
 つまり、競争が少なく企業の変化や成長のスピードが遅いと、社外取締役が意味を持ちにくかったのです。 「アメリカ人のほうがエラいからコーポレート・ガバナンスをちゃんとやっている」とか「アングロサクソンは狩猟民族だから大昔から社外取締役が大好きだった」というわけではなく、ベンチャーキャピタルが徐々に巨額の投資を行うようになった結果、社外取締役が増え、そうしたベンチャーが上場して、既存の企業を代替していった結果、上場企業に占める社外取締役の割合が増えていったという理由もあるのではないでしょうか。※21
 ベンチャーを育成して社外取締役を増やすというのは10年単位の時間がかかるので、規制で目先の成果を追いたくなる気持ちはわかりますが、現場で必要性を感じていないのに社外取締役が規制で導入され、毒にも薬にもならない人が社外取締役になっても、何も変わるはずがありません。必要なのは、成長分野での激烈な競争です。

※21 FacebookやTwitterなど米国のベンチャーの未上場時の定款を見ると、経営陣(普通株主)が選任できる取締役は1、2名(へたすると0名)で、あとは全員、各調達ラウンドごとのベンチャーキャピタルなどの投資家が選ぶ社外取締役で占められていることがほとんどです。

 デフレ問題もそうです。前述のとおり、起業は雇用を増やし、投資を受けた資金をどんどん経費や設備投資に使います。もっと起業が増えて競争が激しくなれば、他社に先駆けてシェアを取るために人員を増やしたり、設備を増強したりしなければならなくなります。そしてそれによる人手不足が発生したり、物品の需給が逼迫したりしてはじめて、現場に価格を上げられる雰囲気が出てくるわけです。「日銀がお札を刷ればデフレは止まる」といった即効性をうたう方策に頼りたくなる気持ちはわかりますが、起業や雇用を増やさないと、実態としての経済がよくなるはずがありません。

 また、未来の政治を変えるのも、ベンチャー(のexit)ではないかと思います。

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磯崎哲也の「ベンチャーの未来ビジョン」

磯崎哲也

このたび、『起業のエクイティ・ファイナンス』という本を出すことになりました。ベンチャーの皆さまにご好評をいただいた『起業のファイナンス』の続編的な本になります。 この連載は同書の最終章を再構成したものです。ファイナンス的な観点か...もっと読む

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resourceful0320 社外取締役が意味を持ちにくかったのは、競争が少なく企業の変化や成長のスピードが遅かったから。 4年弱前 replyretweetfavorite