起業を活性化させる政策とは

cakesの著者でもある磯崎哲也さんが、『起業のエクイティ・ファイナンス』という本を出されました。2010年に出版されてすぐにベンチャーでバイブルのようになった『起業のファイナンス』の続編的な本です。
この連載は同書の最終章を再構成したものです。ファイナンス的な観点からベンチャー生態系の未来像を提示し、そこに到達するためのスピードを加速するために、どのような方策を取ればいいのかを教えてくれます。

 前回に続いて、起業やベンチャーを増やすには、具体的にどんな政策があるのかを見ていきましょう。

起業を活性化させる政策②
企業からベンチャーへの資金の流れを増やす

 エンジェルは急には増えないとすると、その層の薄さを補うために、法人のパワーを活用することが考えられます。  
 全国に300万事業所ある企業(前項の金融機関や一般事業会社)から、ベンチャーへの資金を流す方策、すなわち「法人版エンジェル税制」を考えるべきです。

 企業は、一般の個人と違って、ビジネスや法務、財務、税務などについての内部スタッフや外部の専門家との繋がりがあるので、投資経験がなくリスク負担力の乏しい人に無理な投資を勧めてしまうという「適合性の問題」も起きにくいはずです。
 また日本ではexitをせずに自分が設立した会社で働き続けるオーナー社長が多いので、望ましいエンジェルの要件である「起業の経験がある」とも重なります。※14

※14 それなりに個人資産を持っているオーナー経営者も多いはずですが、個人では上述のような専門スタッフがいない、経営者自身は忙しいのでベンチャーの面倒を見られない、といったことに加えて、日本では奥さんが個人資産を管理していることも多いので、個人資産から投資しようとすると、「そんなわけのわからん会社に1,000万円も出そうだなんて、何考えてるのよあなた!」といったことにもなりかねません(すばやい意思決定でスピーディーに資金供給できるのが、エンジェルのいいところなのです)。

 ベンチャーキャピタルだけでは「多様性」を増やすには限界があります。
 米国でも、ベンチャーキャピタルの投資は、シリコンバレーやボストンなど一部の地域に大きく偏っていますし、業種もホットなものに集中する傾向があります。日本でもベンチャーキャピタルは、東京の渋谷にある将来上場しそうなネット系企業といったものには興味を持ちがちで、たとえば、「東京から遠く離れた地方都市に本社があって、漁船向けの特殊機器を作って将来の売上目標が4億円」といった企業にベンチャーキャピタルが興味を示すとは考えにくいです。
 しかし、そうした多様な「すそ野」に資金供給がなされる土壌があってこそ、将来10兆円の時価総額になるようなベンチャーが生まれてくる可能性も高くなりますので、エンジェルの補完として、法人を大いに活用すべきではないかと思います。

•大企業をベンチャー界に引き込む
 オーナー企業だけでなく、大企業に当事者としてベンチャーのことを知ってもらうことも重要です。実際にベンチャーに投資をしてみればベンチャーへの感心も湧くでしょうし、ベンチャーの仕事の仕方や課題などの情報も入ってきます。またテクニカルには、ベンチャー関係の契約に詳しい弁護士や、ファンドの会計が詳しい会計士等の専門家とのネットワークもできますし、そうした専門家の市場のパイも膨らみます。

•人材の供給源になる
 また、(ベンチャーに実際に接したことがない人は、ベンチャーを怪しんでいる人が多いのですが)ベンチャーに実際に接した人は、ベンチャーのスピード感やキラキラ感に魅かれたり、ベンチャー経営者に口説かれたりして、ベンチャーに転職することも多いです。
 投資を通じて、金融機関や大企業等とベンチャーとの交流が広がれば、既存企業は優秀な人材のベンチャーへの供給元にもなりえます。

•M&Aのexit候補先に
 また、ベンチャーとの接触が多くなった事業会社は、そのベンチャーをよく知ることになるので、ベンチャーのM&Aでの有力なexit候補先にもなってくるでしょう。

 以上のように、事業会社や金融機関をベンチャーの「生態系」の中に招き入れ、実際に人と人とのネットワークができあがることが重要だと考えます。

起業を活性化させる政策③
ベンチャーのexitを促進する

 ベンチャーのexitを促進する方法の1つに、「ベンチャーM&A税制」といったものを導入することが考えられます。

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磯崎哲也の「ベンチャーの未来ビジョン」

磯崎哲也

このたび、『起業のエクイティ・ファイナンス』という本を出すことになりました。ベンチャーの皆さまにご好評をいただいた『起業のファイナンス』の続編的な本になります。 この連載は同書の最終章を再構成したものです。ファイナンス的な観点か...もっと読む

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resourceful0320 企業からベンチャーへの資金の流れを増やす。M&A税制の導入でexitを促進。LLCパススルー税制で、起業しやすい環境を作る。VPのGPとしてLLCを活用する。会社法の柔軟化> 3年弱前 replyretweetfavorite