ベンチャーに政府が関与する意味
第1回で見たように、最先端の市場メカニズムである「ベンチャー」と、政府が行う「政策」は相容れないものであるようにも思えますが、大きく以下のような2つの場合には、政府が関与する意味があると思います。
①規制緩和
ベンチャーや既存企業が新しくビジネスを組成するためのプロセス(ヒト、モノ、カネ等のやりとり)が制度的に阻害されている場合には、その規制の緩和が必要です。
後述するような「ステークを持たない人」がベンチャーの成長過程に関わらないようにすることとも言えます。
②より良い均衡への移行の補助
現状がある状態で均衡していて、一段高いところにより望ましい均衡があるが、市場メカニズムだけではその段階に進めない、または進むのに時間がかかるという、いわゆる「複数均衡」になっていることがあります。
この場合、「現状の均衡」から「望ましい均衡」への移行を補助してやる政策が必要になります。
図表2 複数均衡のイメージ
「規制緩和」は、それぞれの産業・領域等の各論の色彩が濃くなってしまいますので、本連載では以下、主として「より良い均衡への移行を促すための政策」について考えていきます。
ベンチャーの生態系は、人と人とが結び付いてできる高度に有機的(オーガニック)なものなので、ゆっくりしたスピードでしか発展していきません。
図表3のとおり、現在の米国におけるベンチャーのexitはM&Aがほとんどですが、この図を見ると、米国といえども、建国以来ずっとM&Aでのexitの比率が高かったわけではなくて、M&Aでのexitの比率は、30年をかけて高まってきたことが読み取れます。※8
なぜ、米国でもジリジリとしかM&Aの比率が増えなかったかというと、「会社を買う」ことは、単に金さえあればできるわけではなく、実際に事例を体験してみて、社会にM&Aに関する知識やノウハウが蓄積されることが必要だからだと考えられます。
※8 「日本人は農耕民族で、企業を“家”と考えているからM&Aが少ない」「アングロサクソンは狩猟民族だから平気で会社を売る」といったことを言う人がいますが、この図を見ると、それらは何の根拠もないことがわかると思います。
図表3 米国におけるベンチャー企業exit件数の推移
さらに、日本のベンチャー投資というのは年間の投資額が1,000億円程度しかなく、金融の領域にしては非常に小さいのです。※9
そのわりに、日本独自の法律や税務がからみ、ベンチャー生態系の中で人間関係も培っていく必要があるので手間もかかります。国債や為替、上場株式のような、何百兆円が取引される市場では、儲かる領域や市場の歪みがあれば、すぐに新たな参入者も現れて裁定が行われますが、ベンチャー投資の世界は、仮にビジネスになるとわかっていても、米国で行われていることが、日本やその他の国ですぐ取り入れられることにはならないわけです。
このため、ベンチャーの生態系では、昔の日本のITビジネスで成立していた、米国の歴史をなぞる「タイムマシン経営」が良くも悪くも、まだあとしばらくは続くことになると考えられます(逆に考えれば、非常に大きく確実なビジネスチャンスがあるということになります!)。
※9 1つのベンチャーファンドの投資期間は5年程度なので、ファンドサイズが5倍の5,000億円規模だと仮定し、マネジメントフィーが平均2%としても、100億円程度の市場規模しかありません。ちょっとした中堅企業の売上程度の産業規模しかないわけです(もちろん、このマネジメントフィー以外にキャピタルゲインから得られるキャリーもあります)。
10年後の日本のベンチャー投資のビジョン
では、日本のベンチャーの未来像として、どういう姿をイメージすればいいでしょうか?
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