明治時代には「富国強兵」があった。ではいまは?
北川 日本の教育を変革するような新しい教育機関をつくるなら、前提として「この国がどういう人材を必要としているか」という考えを決めておくべきだと思うんですよね。
茂木 なるほど、国としての人材観か。明治期には「富国強兵」という、非常に明確なミッションステートメントがあったよね。それにそって人材を育成したら、国力はぐんぐん上がり、列強と肩を並べるようになった。これは、近代まれに見る成功物語だったと思う。でも今は、そういう明確な国家ビジョンがないんだよなあ。
北川 国家としてのビジョンがないから、経済的な観点が最優先になって、言われたことを言われたとおりにやる「工場労働者」を養成するための教育が主流になっているんだと思います。
茂木 暗記重視の詰め込み型教育ね。しかもそれって、いま必要とされる産業には合ってないよね。日本では、いまだにメーカー的な発想から抜けだせずに、人間を代替可能なリソースだと思っているふしがある。
北川 それでは、知的生産性の高い人を育成することはできないですよね。
茂木 新しい日本のビジョンを考えるとなると、かなり大きな話になってくるので、いったん教育に絞って考えようか。どういう人材を育てたらいいというアイデアはある?
北川 そうですね、やっぱり自分の人生のコンテクストをデザインできる人が、もっと増えたらいいと思います。これまでの日本では、社会が自分のコンテクストをつくってくれていたと思うんです。それにそって生きていけば、まあまあ幸せになれた。でも、だんだんそれは変わってきています。
茂木 たしかに、昔はいい大学に行って、いい会社に入って、結婚して、家を買ってという、決まったルートがあったけど、いまはそんなのないからね。選択肢が多様化して、こうすれば幸せというルートがなくなってきた。
北川 そこで、「自分はこれをしていたらすごく幸せ、だからこういう人生を生きる」という、欲求に基づいたコンテクストを、子どもの頃からデザインしていく力が必要になると思うんです。
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