木村拓哉が歩み出した次のかっこ良さ—『PRICELESS 〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』論

ライターの木俣冬さんが、2012年9月から月9の枠で放送中の話題ドラマ『PRICELESS 〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』を論じます。さまざまなかっこ良い職業の役を演じてきた主演の木村拓哉は、このドラマでどのような姿を見せているのでしょうか? そして、今作の見所はどこにあるのでしょうか?

無職の木村拓哉、登場!?

朝ドラ、大河、月9、これらがテレビドラマの三大ブランドです。その中で、フジテレビの月9ドラマ『PRICELESS 〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜』が、好調。初回が16.6%、2話が18.8%と上昇、3話で15.2%とやや落ち込んだものの4話で18.4%に上昇しました。そして、5話では15.7%。ジグザグですが概ね高視聴率です。

11月上旬の時点で、2012年10月期の連続ドラマの中で『相棒』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(いずれもテレビ朝日)と視聴率の上位を争っています。近年のテレビドラマの視聴率は、15%を超えることもなかなか難しく、10%以下の作品も多数、13%で及第といったところとなっています。その中で、この数字を出せたのは、主演の木村拓哉の功績によるところが大きい。多くの期待に応えて、主演としての仕事をきっちり行っています。

今回の木村拓哉は、金田一二三男(きんだいち・ふみお)という無職の男役。身に覚えのないことで突然会社を解雇され、住む家も事故でなくしてしまい、お金を稼ぐために悪戦苦闘していく姿を軽快に描いています。この役どころが新鮮と話題です。なにしろ、今まで主演した月9を振り返っても華やかな仕事をする役ばかりやってきた彼が、無職(の役)ですから。

今まで彼の演じた職業(月9主演作のみ)を、列挙しますと、『ロングバケーション』(96)でピアニスト、『ラブジェネレーション』(97)で広告代理店の社員、『HERO』(01)で敏腕検事、『空から降る一億の星』(02、明石家さんまとのW主演)でコック見習い、『プライド』(04)でアイスホッケーのスター選手、『エンジン』(05)でレーシングドライバー、『CHANGE』(08)で内閣総理大臣、『月の恋人〜Moon Lovers〜』(10)でインテリアメーカーの社長と、96年からずっと錚々たる職業ばかり。『空から降る一億の星』だけは、コックの見習いという若干下っ端の役どころではありますが、料理人の卵と思えば悪くはありません。月9以外のドラマでも美容師、パイロット、元ホストの脳学者、大財閥の専務、南極越冬隊副隊長と、実にかっこいい経歴を歩んで来ているのです。

男子のあこがれの職業を、ドラマで総なめしてきたかのような木村拓哉が、2012年晩秋、ついに無職(の役)。この11月でとうとう40歳となり、もう夢の職業シリーズは卒業、地に足をつけた生活者の役を、ということでしょうか。いや、この不況下、まさにスターは時代を映す鏡と言えましょう。どちらにしても、感慨深いです。

不幸の連鎖から始まるストーリー

木村拓哉演じる金田一二三男は、第1話で、散々な目に遭います。勤めていたミラクル魔法瓶から解雇されてしまった理由が、企業の重要機密を漏洩したという嫌疑によるもので、二三男にはまったく身に覚えがないものです。さらに不幸なことに、自宅マンションが謎のガス爆発を起こし住む家を失い、携帯電話まで川に落として水没させてしまうという不幸の連鎖に見舞われます。

突然の解雇はともかく、自宅爆破とは「あるわけねぇだろ、んなもん!」とツッコみを入れてくれと言わんばかりの展開ですが、ソフトな「逃亡者」といった趣とも言え、ミステリアスな雰囲気があって、後を引きます。

二三男は、たまたま出会った、幼く貧しい兄弟・鞠丘貫太(まえだまえだの前田旺志郎)と両太(田中奏夫)の案内で「幸福荘」というアパートに転がり込みます。そこには、占い師、路上アイドルなど、生活が不安定な人たちがたくさん暮らしています。

そして、公園の炊き出し、空き缶拾い、街頭アンケートに回答してもらった図書カードを換金、つぶれそうなラーメン屋でバイト、屋台で商売など、様々なことをして日銭を稼いでいきます。

バラエティー番組で行われる番組対抗アーチェリーではど真ん中に命中させる、そんな“持ってる”木村拓哉が、家無し文無しで、一本の缶ビールに目を輝かせたり、炊き出しに並んだり、ホストクラブの面接で落とされたり、衣裳がいつも野球のユニフォームだったりと踏んだり蹴ったりの哀れな様が、演出のコミカルさも手伝って、なんだか面白い。

かっこいい役ばっかりやって……と思ってきたアンチの溜飲も下がりました。野球(草野球チームに所属し、元広島の北別府のファンという設定)、ビール、タバコ、魔法瓶……昭和へのノスタルジーを喚起する要素が、男性視聴者の心もつかみます。木村拓哉の所属するアイドルグループSMAPは88年という昭和の終わりに結成されていますから、これからの木村拓哉は、昭和を演じられる最後の世代としての期待を背負うことになりそうです。

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