第58回】地球はサッカーで回っている!? きな臭い世界で唯一の平和イベント・W杯を見て感じたこと

サッカーのワールドカップ開催の影で、ナイジェリアの爆弾テロやアルゼンチンの二度にわたるデフォルトの危機など、深刻な問題が現在進行形で起こっている。華やかなお祭りのムードとは裏腹にこういった状況が頭をよぎり、平和的ムードであるイベントとうまくつながらず、消化もできない・・・・・・。筆者ならではの視点でのワールドカップをレポートします。


ベスト8をかけた戦いに挑む、フランスとナイジェリアの選手たち〔PHOTO〕gettyimages

フランス対ナイジェリア、激闘の裏で

久しぶりに日本からドイツに戻った翌日、ふと思い立って、ワールドカップを見ることにした。よく日本で、「ドイツに住んでいると、本場のサッカーが 見られるのでいいですね」と言われるが、実は、サッカーにはトンと興味がない。30年も住んでいて、スタジアムに足を運んだこともない。

それでも、大きな試合はたいてい家で観戦する。日本代表の試合も、ドイツで放送してくれれば必ず見る。そんなわけで、この日見たのは16強同士の2試合。1試合目がフランス対ナイジェリア、2試合目がドイツ対アルジェリア。

うちの次女のボーイフレンドDは、ナイジェリアとドイツのハーフだ。うちは娘ばかりなので、私はDを息子代わりに可愛がっている。すでに家族の一員のような感じだ。

ワールドカップが始まる前夜、そのDから家族全員宛でメールが来た。「Japanファンの皆さん。ワールドカップが始まります。日本とドイツとナイジェリアを応援しましょう!」。一番の日本ファンは、実はD自身だ。

さて、それからすでに20日が経過し、日本は敗退。ところが、ドイツとナイジェリアは、無事にグループ戦を勝ち抜き、ベスト16に入っていた。その両国が月曜日に、それぞれ8強をかけて試合に臨んだわけだった。

結果は私がここで言うまでもないが、第1試合のフランス対ナイジェリアでは、フランスの勝ち。試合後、Dにメールを出す。「残念、実に惜しかった」。すると、すぐにガッカリ顔の絵文字が1個、戻ってきた。

負けたとはいえ、ナイジェリアは強かった。ただ、このチームを見ていると、スポーツ観戦というよりも、他のさまざまな思いが脳裏を交錯する。


ボコ・ハラムのテロに抗議するナイジェリアサポーター 〔PHOTO〕gettyimages

現在進行形の無差別テロと華やかなサッカー

まずは、ナイジェリアの内紛。ここ1年ぐらい、ナイジェリアはとても頻繁にニュースに出てくる。それも恐ろしいテロのニュースばかりだ。この国には、昔から、イスラム教の北部とキリスト教の南部とのあいだに深刻な対立がある。

中でも、現在、勢力を伸ばしているのが、イスラム原理主義の武装グループ"ボコ・ハラム"で、彼らが今年4月に、12歳から17歳の女子学生を 300人も拉致した事件は、何と言ってよいかわからないほど痛ましい。そのうちの230人ほどが、今もまだ戻ってこない。彼女たちが囚われ、声を揃えて コーランを謡っている衝撃的なビデオがインターネットに流されたので、覚えている人も多いだろう。

ボコ・ハラムというのは、「西洋の教育は罪」という意味だそうだ。ボコ・ハラムは女性を人間扱いしない上、西洋の教育を罪と見做しているので、西洋の教育を受ける女性は何よりも悪いということになる。

ビデオの中でボコ・ハラムのメンバーが、拉致した女子学生はイスラム教徒に改宗させて結婚させるか、奴隷として売り払うと言っていた。とても21世紀の話とは思えない。すでにナイジェリアの北部からは、ボコ・ハラムの支配を恐れて、50万人もの人々が逃走しているという。

ボコ・ハラムのテロは、しかし、これだけではない。5月には車に仕掛けられた爆弾がさく裂し、118人が死亡。6月23日には医科大学が爆破され、8人が死亡。

暴力は、サッカーのワールドカップが始まってからも止まない。先週は、パブリック・ビューイングの行われていた広場で自爆テロが起こり、14人が死亡した。多くの人は家にテレビがないので、パブリック・ビューイングを楽しみにしていたのだ。

また、25日には、ショッピングモールが爆破されて21人が死亡。さらに先週は、また北部で、90人の女子学生が拉致されたという話も伝わってきている。これまでテロで犠牲になった人数は、1000人とも4000人とも言われている。

つまり、この国の無差別テロは、偶発的な一過性のできごとではなく、現在進行形なのだ。なのに、テレビを観ると、華やかなサッカー! 私の頭の中では、テロの状況と、この平和なお祭り騒ぎが、うまくつながらないし、消化もできない。

ナイジェリアの選手は確かに強い。この選手たちは、キリスト教徒なのだろうか。それとも、イスラム教の選手もいるのだろうか。試合を観ながら、そう いう余計なことばかりが頭をよぎる。試合の後でDに訊いてみたら、出身地から鑑みると、ほとんどはキリスト教徒だろうと言った。南部の出身者ということ だ。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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