(第80回の続き)
$ \newcommand{\ABS}[1]{|#1|} \newcommand{\BIGABS}[1]{\bigl|#1\bigr|} $
図書室にて
テトラ「それにしても不思議です」
僕「何が?」
テトラ「これ、先日の《数学基礎力確認テスト》の問題なんですが」
以下のグラフを表す方程式を答えよ。
僕「そのテストって何?」
テトラ「はい、先日から教生の先生がいらしていて、みなさんの力を教えてくださいって……」
僕「へえ……それでこういうテストをしたの?」
テトラ「そうですけど……」
僕「テトラちゃんは、答えられたよね?」
テトラ「いえ、実は、その……いちおう答えたんですが……」
僕「これって絶対値でしょ? $y = \ABS{x}$ だよね」
$ y = \ABS{x} $
テトラ「ああ……やっぱり、そうお答えになりますよねえ……」
僕「うん、基本的な問題だよね。テトラちゃんの答えはどうだったの?」
テトラ「あたし、難しく考え過ぎちゃうんでしょうか。こんな答えをしてしまいました。 $y = \sqrt{x^2}$ です」
$ y = \sqrt{x^2} $
僕「なるほど、 $y = \sqrt{x^2}$ か! 確かにこれでも立派な正解だね」
テトラ「そうなんでしょうか」
僕「もちろんだよ。教生の先生が期待した答えは絶対値を使った $y = \ABS{x}$ だと思うけど、出された問題に対してはテトラちゃんの答えで何も恥ずかしくないよ。 むしろおもしろいかも」
テトラ「あ、あたし、そうは思えませんでした。絶対値が答えだと聞いたとき、とてもショックでした。 絶対値のことは、以前先輩にていねいに教えていただいたのに、気付かなかったなんて……ほんとに不思議です」
僕「そういうことはあるよ。ところでテトラちゃんはどうやって $y = \sqrt{x^2}$ という方程式を思いついたの? 僕はそっちの方が気になるんだけど」
テトラ「あ、あの……あたしは、先輩から教えていただいた《ポリアさんの問いかけ》を思い出したんです。問いかけ上手なポリアさん」
僕「うんうん」
テトラ「あたしは、このグラフを見て《似ているものを知らないか》という問いかけをしてみました。そして、 $y = x^2$ のグラフと似てる! って気付いたんです」
僕「なるほど、なるほど」
テトラ「だってそうですよね。どちらも原点に向かってすうううっと下がってきて、原点からはすうううっと上がっていきます」
僕「そうだね、その通り」
テトラ「この二つのグラフは似ています。ですから、 $y = x^2$ という方程式を少し変えればいいのでは、って思ったんです」
僕「いいねえ」
テトラ「 $y = x^2$ のグラフはぎゅうんと曲がっています。これをまっすぐにしたいと思って、そして、ええと、そもそもどうして曲がっているんだろうと思いました。 $x^2$ は $2$ 乗しているのでまっすぐじゃない。だったら戻してやればいい……そんなふうに考えました。 $2$ 乗を元に戻すにはルートを取ればいいですよね。それで $y = \sqrt{x^2}$ という式を作ったんです」
僕「すごいすごい」
テトラ「でも、それだけ考えたのに、絶対値を思い出せなかったということにショックを受けました……」
僕「まあ、それはそうなんだけど。テトラちゃんはちゃんとポリアの《似ているものを知らないか》を生かせたんだね。それに、曲がったグラフをまっすぐにするために、 $2$ 乗したもののルートを取ったというのもすごいと思うよ。 だって、それは、自分の目的のために式変形を使いこなしたってことだからね」
テトラ「そ、それはそうですが……先輩ってすごいですね……あたし、なんだか、元気になります。そうですよね、確かにあたしは数式の式変形を使って問題を解きました。 もっとも、あまり、そうは意識していなかったんですが」
グラフを観察する
僕「ついでに、もう少しこのグラフを観察して考えてみようか」
テトラ「はい?」
僕「テトラちゃんは、絶対値のグラフがどうしてこんなふうに下がって、上がるか、説明できるよね?」
テトラ「それは、ええと、絶対値は……あ、そうか《定義にかえれ》ですね。 $\ABS{x}$ の定義はこうです」
$$ \ABS{x} = \left\{\begin{array}{llll} x & \text{ $x \geqq 0$ の場合} \\ -x & \text{ $x < 0$ の場合} \\ \end{array}\right. $$
僕「うん」
テトラ「 $x < 0$ のときは、 $\ABS{x} = -x$ ですから、 $x$ が大きくなればなるほど $\ABS{x}$ は小さくなります。でも、 $x \geqq 0$ のときは、 $\ABS{x} = x$ ですから、 $x$ が大きくなればなるほど $\ABS{x}$ も大きくなります。 ……ですよね?」
僕「そうそう、それで説明になっているよ。減っていく(つまり、グラフは下がる)のと、増えていく(つまり、グラフは上がる)というのが $0$ を境目にして切り替わっている」
テトラ「はい、そうです」
僕「だから、 $y = \ABS{x}$ という関数の増減表はこう書ける」
テトラ「ははあ……増減表」
僕「同じように、 $y = x^2$ も考えることができる。 $2$ 乗しているので、 $x$ が $0$ でも正でも負でも $x^2$ は $0$ 以上。そして、 $0$ を境目にして、 $x < 0$ のときは $x^2$ は減少関数になってて、 $x \geqq 0$ のときは $x^2$ は増加関数になっている。 こちらも増減表を書ける」
テトラ「はいはい。 $y = \ABS{x}$ と $y = x^2$ の増減表は同じになるということですね!」
僕「そうだね。グラフは関数をとらえるいい道具だけど、増減表もいい道具の一つだよね」
テトラ「はい……グラフと増減表」
グラフの練習
僕「グラフを与えられて方程式を求めるというのは意外に難しいよね」
テトラ「そうですね。方程式からグラフを描くのなら《根気よく試す》という手が使えるんですが……」
僕「具体的な数を代入してみるってこと?」
テトラ「そうです。 $x = 0$ のときはどうか、 $x = 1$ のときはどうか……」
僕「グラフから方程式を求めるのは少し練習が必要かも。たとえばこんな問題はどう?」
以下のグラフを表す方程式を答えよ。
テトラ「あ、これは簡単です」
僕「そう?」
テトラ「え、簡単……ですよね?」
僕「じゃあ答えてみて」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)