私がこの本で送りたいメッセージは経営戦略に似ている。「限られた資源を無駄使いするな」ということだ。
時間もエネルギーもタイミングも、たった一度の人生を思い切り謳歌するための、限られた財産である。それを「アホと戦う」というマイナスにしかならない使い方で浪費するなと言いたいのだ。ナイーブ(英語の本来の意味である子供っぽいという意味)で純粋でまっすぐであるがゆえに、アホな連中と無駄に戦ってしまい、心がすり切れてしまった人たちに、前向きな成果を何も生み出さない行為に時間やエネルギーを費やすことをやめてほしいのだ。そして、その限られた時間とエネルギーを一度しかない大切な人生を輝かせることに使ってほしいのだ。
そういう意味で、この本は「非戦の書」である。私が世界最高の非戦の書だと思う『孫子の兵法』が、2500年の時を超え、現代実社会版になったのがこの本だと自負している。その孫子の兵法で一番有名な一節として、「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり(百戦百勝といっても最高の優れた戦い方ではない。敵兵と戦わないで屈服させることこそ最高の戦い方である)」というのがある。私は、この孫子の一節をさらに進化させ「敵と戦わず屈服させるだけでなく、その力を自分の目的を達成させることに利用する」ことをこの本で説いている。 『孫子の兵法』が世界中の経営者に今でも愛読されているのは、「限られた資源を無駄使いするな」というメッセージが経営戦略そのものであるからだ。
「アホ」というと、ある程度心当たりがあるだろう。要は、むやみやたらとあなたの足を引っ張る人だ。会議でなぜかあなたの発言だけにいちゃもんをつけたり、チームメイトなのに明らかに敵意を見せつけて協力的な態度をとらなかったり、明らかにこちらの意見のほうが正しいのに、権力を振りかざしてそれをつぶそうとしたり……。
そんなとき、悔しさで仕事が手に着かなかった経験はないか? なぜ自分にばかり厳しく当たるのだろうと、くよくよしたことはないか? はらわたが煮えくり返り、家に帰ってもなかなか怒りがおさまらなかったことはないか?
しかし、間違っても「やり返してやろう」などと思っていないことを祈る。
実は、あなたのそうした思考が最も危険なのだ。
2013年一世を風靡した流行語「倍返し」、松坂大輔がプロ入り直後に流行語にした「リベンジ」、さすが仇討ち文化のある我が国ならではの国民的支持である。かくいう私もどっぷり日本人なので、これらに共感する部分もしっかりある。
しかし同時に「この言葉が受けてしまう日本は危ないなあ」とも思う。怒りとか憤り、ましてや仕返しなど無駄で後ろ向きなことなのだ。終わったことにこだわってさらに悪循環に陥る可能性がある。
アホが許せないという責任感や正義感はある意味素晴らしいが、やはりナイーブだともいえる。 正義感や責任感の裏には、日本のテレビや教育、その底辺に流れる勧善懲悪という甘えがある。“最後に水戸黄門や大岡越前が出てきて助けてくれる。悪い奴はやっつけられる”という信仰だ。残念ながら、勧善懲悪などなかなか起こらない。いい悪いではなく、それが人生、現実世界だ。
悪い奴ほど出世する。どうやら真理と善悪とは別である。私が知る限り、少なくとも成功する人は善悪ではなく真理を追求しているようだ。いい人生を送りたかったら、善悪の判断はできたほうがいいが、善悪、もっといえば勧善懲悪にこだわってはいけない。追求すべきは「真理」だ。一つの真理は、勧善懲悪を人生に期待してはいけないということだと思う。
悔しい過去にこだわり、未来を犠牲にするか、それとも、成功するための真理に集中するのか。過去を引きずるより、もう終わったことにしたほうが傷は浅いのに、悔しさを晴らそうと、さらに過去に時間とエネルギーを投資してしまう。
残念ながら、日本のような嫉妬社会ではアホが出世しやすい。能力がある人格者は、出世する途中で多数のアホに足を引っ張られてつぶされる可能性が高いからだ。そんな事例を政界やビジネス界でたくさん見てきた。アホはアホを気持ちよく支持するのだ。
このように、権力を持っている連中の中にアホが多い。つまりアホは厄介な敵なのだ。そんな敵を増やした代償が、気分が晴れるということだけなんて、全く釣り合わない。一度しかない人生の貴重な時をそんなことで無駄使いしてほしくない。
日本社会では冷静にやるべき議論が成立せず、議論は個人の人格攻撃と捉えられがちなので、失うものが時間やエネルギーですまなくなることもある。成功者は無駄に戦わない。戦うべき時と相手を選ぶ。アホと戦う無駄を知り尽くしているから成功するのだともいえる。
戦うべき相手は人間関係で「くよくよ悩む自分」「腹を立てる自分」だと思ってほしい。そして、神経をすり減らさないための第一のポイントは、自分にもっと関心を持つことだ。
そもそも、日本人は他人に関心がありすぎる。お互いが他人に関心を持っていて相互監視社会のように感じるときさえある。他人ばかり気にしていたら自分と向き合う時間がなくなってしまう。
これからは、自分が本当に何がしたいのか? そのために何が必要なのか? そっちに専念したほうがいい。それがわかれば、他者のことを気にする暇なんてないことがわかる。
戦うべきなのは、“アホと戦う”なんてアホなことを考えてしまう自分のみ。彼らと戦って時間とエネルギーを無駄にしてきた最高のアホである私だからこそ、こう言い切れる。
アホと戦わない生き方こそ、あなたがあなたらしくあることができ、あなたが目指す目標により近づけることになるのだ。大切な人生をより輝くものにするためにも彼らと戦ってはならない。そんな人間は放っておけばいいのだ。無駄に戦えば、あなたのほうが人生を大事にしない最低のアホになってしまう。
さあ、これから無駄な諍いなんて放り出し、人生を謳歌する旅に一緒に出かけよう!
頭に来てもアホとは戦うな!
人間関係を思い通りにし、最高のパフォーマンスを実現する方法