糸井重里 vol.4 論争と暴力ではない道を、死ぬまで示し続ける。

糸井重里さんと藤野英人さんの対談、最終回はずばり「言葉」について。糸井さんにとって、言葉への向き合い方を真剣に考えるきっかけになったのは「新しい母親」と「学生運動」でした。言葉が人を不幸にしないため、なにができるのか。そして、これからの社会の言葉のあり方とは。

「言葉にトゲのある子」と言われて

藤野英人(以下、藤野) 最後に、絶対にこの取材でお聞きしようと思っていたことを聞きます。それは、「糸井さんにとって、言葉とはなんですか?」という質問です。

糸井重里(以下、糸井) それは大変な質問ですねえ(笑)。どうしようかな。まずはこの話からしましょうか。ぼくは生まれてすぐ親が離婚して、おばあちゃんに育てられました。で、小学3年のときに、新しい母親が来たんです。いなかったものが来るっていうのは、やっぱりいいものですよね。ぼくは新しいお母さんが来たことがすっごくうれしくて、できるだけ仲良くしたいと思ってました。

藤野 うん、うん。

糸井 でも、そううまくはいかなかった。何かの折に、ぼくはおなかが空いたことをおもしろおかしく表現したくて、「腹がへったー!」って言いながらのたうちまわったんです。そうしたらね、ぼくのいないところで家族会議がおこなわれて、母親がばあちゃんと父さんに「あんな大げさに言うなんて、まるで私がいじめているみたいじゃない」と泣いて訴えたんですよ。

藤野 うーん。

糸井 ぼくは陰でその話し合いを聞いていたんです。そのうち、「あの子は言葉にトゲがあるから」っていう声が聞こえてきて。

藤野 ああ……。

糸井 3人とも一致してぼくのことをそう言っていました。9歳のぼくはすごくびっくりしたんです。ショックを直に受け取っちゃったというか。その衝撃は、ぼくのなかで通奏低音のようにずっと流れています。この一件で、違う意味をもって伝わってしまう言葉に対して、すごく過敏になりました。

藤野 その出来事は大きいですね。

糸井 そのあとが、学生運動です。学生運動って思想や革命の意図を論じるために、仲間内で特殊な言葉の使い方をするんです。その言葉を使っている限りはみんな、「明日は革命だ!」という信念に基づいて動かなければいけない。独自の論理がきちきち組み立てられていて、がんじがらめになってしまうんです。このへんは、山本直樹さん『レッド』というマンガによく描かれています。1巻からまあ、おもしろくなくて見事なんですよ(笑)。

藤野 おもしろくなくて見事、ってどういうことですか(笑)。

糸井 ドラマを排除してるんです。登場人物の生い立ちの部分を話させたら、もっとおもしろくなるはずなんです。無垢だった一人の少年が、こんな経緯があって学生運動にのめり込んでしまったのかと、同情もできるし。生い立ちがあれば文学になるんです。でも、そうはしない。ただ事実だけを描く。

藤野 それって、逆に大変そうですね。

糸井 そうなんです。きっと山本さんも、もっと登場人物に肩入れしたい、という気持ちと戦っていると思います。ある人が、リンチにあって縛られてるシーンがあるんです。それって、かわいそうじゃないですか。なのに、その人が縛られたまま、別の人を糾弾する論争に加わったりするんです。すると、こちらの同情する気持ちが薄れるんですよね。でも、そういうことが本当におこなわれていたんだと思います。もうね、そのリアルを追求する描写に、作者の魂の強さを感じます。

藤野 読者は、観察している立場に立たされるんですね。

糸井 ぼく自身は、連合赤軍と関わるところまではいっていないんです。でも、そのひな形みたいな組織の近くにいた。「お前は間違っている」と、人を追い詰めるやり方。論争だけでその人の行く末が決まってしまう瞬間。そういうのを山ほど見てきました。

藤野 おそろしいことですね……。

糸井 論争のさらに後ろには、暴力がある。力と言葉が一緒になって人の生死が決められていく。その世界にいたことに対する整理が、ずっとついていなかった。ぼくが第2回で話したようなフラットであることの「自由」を人以上に感じるのは、言葉が人を不幸にしていくところを見てきたからかもしれません。そして、「そうじゃなくて、こういう道もあるよ」って、死ぬまで示し続けることが、自分の仕事になるんじゃないかなって。

藤野 うーん、なるほど。

糸井 ぼくはきっと、たった1年の学生運動で見たものと、どうやったら違う答えを出せるのか、考えて続けているんです。「それは間違ってる」って本気で笑って言えるように、理論じゃなくて、やってみせようとしている。個人的に傷ついた経験と、社会的に人が言葉に追い詰められていくところを見たこと。このふたつがぼくと言葉の関係に影響してると思います。

ミーティングで、発言しなくたっていい

藤野 それでも、コピーライターという言葉の仕事を選ばれた。

糸井 広告屋になったのは、言葉を武器として使いたかったのではなく、言葉がある種の豊かさを広げてくれると思っていたからです。ぼくがドラッカーをおもしろいと思ったのも、同じことで、「市場の創造」とか「顧客の創造」って、言葉の鍵をきっかけにして「ここでも遊べるぞ」って提示することでしょ?

藤野 ああ、ほんとにそうですね。

糸井 売る側は市場をつくれて自分たちの糧ができるし、買う側は「ありがとう」って言えるようなものがそこにやってくるわけだから。ぼくの言葉との格闘……格闘って言うとおおげさかな、言葉との関係のなかでドラッカーはぼくに合っているな、と思ったんです。

藤野 近年、SNSなどで発信者として多くの人が出てきましたよね。言葉との向き合い方について、新しい時代に入ってきているのかなと思うんです。糸井さんは、このSNS時代の言葉ってどういうふうに見ていらっしゃいますか?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
イケてる経営者が日本を救う

藤野英人

日本株ファンドの「ひふみ投信」で抜群の成績を残しているファンドマネージャー藤野英人氏がイケてる日本企業の経営者にインタビューし、投資家の目線で成長の秘密をひもといていく対談連載。50歳未満の「アニキ編」と50歳以上の「オヤジ編」の2編...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

munaken 「なんでやるんだっけ、っていう根っこがなくなってるミーティングはダメ…根底をくつがえして、「やめたっていいんだよ」と言うのがミーティング…答えを知らないままに話し合いがはじまる…「やめていいんじゃないか」の先が見えてくる」https://t.co/Sb8TZuVea2 #耳と聲 2年弱前 replyretweetfavorite

KZYONE 「ぼくはきっと、たった1年の学生運動で見たものと、どうやったら違う答えを出せるのか、考えて続けているんです。「それは間違ってる」って本気で笑って言えるように、理論じゃなくて、やってみせようとしている。」 3年弱前 replyretweetfavorite

satoruishido 論争は大事なんだけど、抜きどころを間違えると「言葉が人を不幸にする」状況に陥る。これをどう回避するか。今だからこそ、読んでほしいなぁ→ 3年弱前 replyretweetfavorite

yaiask (続き)藤野さんと糸井さんとの対談の際も、シェイクスピアを読み込みまくった伝説の投資家のお話が出ていた(https://t.co/DDQUdliPt5)ので、つながるなあと思いました→投資のベースにあるのは、人間を理解すること http://t.co/ElPnZXsP2w 3年以上前 replyretweetfavorite