【ハーレクイン豆知識:ハーレクインの歴史】
日本で初めてハーレクイン・ロマンスが出版されたのは1979年。今回の試し読み作品ヴァイオレット・ウィンズピアの『サルド家の兄妹』は、創刊から間もない80年代初頭に刊行されたものです。本作のヒロインは個人付きの看護師ですが、これは初期の作品でよく見られる職業。病院勤めではなく、個人の屋敷に住み込みで働く看護師で、ベティ・ニールズ作品にもよく登場します。一つ屋根の下で暮らすうちに急接近するんですね!
【作品紹介】
看護師のアンジーは6年ぶりにバヤルター島へ向かっていた。 身寄りのない彼女は10代のころ、 よく親友に招待されて、この美しい島で休暇を過ごしたものだ。 だが、温かく迎えてくれたサルド一家との楽しい思い出は、 先週親友からもたらされた知らせで輝きを失った。 親友の兄リックが爆弾の破片をあび、視力を失ったのだ! スペイン名家の跡継ぎで、自信にあふれていたリック—— ひそかに愛していた彼の苦悩を思うと、アンジーの胸は痛んだ。 わたしがそばにいるわ。この想いが報われなくても。
「きみがそう言うのは簡単だ! 何がわかる? 父に義理があるから多少のおかえしをしようと思って、この島に帰ってきた小娘のくせに」
「そんなことないわ、リック!」
アンジーはベッドの支柱を握りしめる。そうでもしていないと、リックにすがりついてしまいそうだった。そんなことをすれば、木を火に近づけるのと同じになってしまう。でも、そこから生まれるのは、愛の炎ではない。
いまのリックは誰も愛する気分にはなれないだろう。皆を憎みたいと願っているのだから。そして、リックに憎まれることにも、苦痛をやわらげる道具に使われることにも、アンジーはとうてい耐えられなかった。
「それじゃ、なぜなんだ? 父は総督で、しかもハンサムだ。父にあこがれてでもいるのか?」
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