どんなジャンルにも、「伝説の」という言葉が冠せられる存在はありますよね。バレエの世界でいえば、20世紀初期に現れた「バレエ・リュス」がそれにあたります。
「リュス」とは、ロシアのこと。つまりはロシア・バレエ団というわけです。1909年、ロシア人のセルゲイ・ディアギレフが創始した一座です。ディアギレフが主宰する公演は、あらゆる面で斬新でした。バレエの舞台はさまざまな芸術的要素が組み合わされてできていますが、ディエギレフはその一つひとつに、当時の最先端を行く前衛的な感覚の持ち主を抜擢していきました。そうして、だれも見たことのなかった舞台を客の眼前に現したのです。
たとえば、1916年初演の《パラード》では、ジャン・コクトーが脚本、エリック・サティが音楽、衣装・舞台美術はパブロ・ピカソという当世一流のアーティストがそろい踏みして、ひとつの舞台をつくり上げました。
ほかにもディアギレフのもとで制作に携わった芸術家の名を挙げれば、音楽ではイーゴリ・ストラヴィンスキーやエリック・サティ、ダンサーのニジンスキー、舞台美術や衣装にはアンリ・マティス、ジョルジョ・デ・キリコ、ココ・シャネル……。まさに時代の才能を集結させていました。
ディアギレフは、総合芸術たるバレエに新風を吹き込んだだけではありません。20世紀初頭の芸術表現全体に、強烈な影響を与えたのです。なんともスケールの大きい人物。こうした広い視野を持つ総合的な人物、昨今ではなかなかお目にかかれないではないですか。
ディアギレフとバレエ・リュスが成し遂げたことの全体像を描き出すのは、どんな手段や方法をとったとしても、なかなか難しいこと。そこで、その一端でも照らし出せたらという考えのもと、バレエ・リュスにかんする展覧会がはじまりました。東京六本木、国立新美術館での「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」です。
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