オリーブ少女」と「ツッパリ少女」

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが雑誌『オリーブ』とその時代、女の子達に与えた影響を分析します。今回は、当時のヤンキーカルチャーを具現した少女雑誌『ギャルズライフ』の存在意義についても言及します。
この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間」全4回も収録! オリーブの罠、とは何だったのでしょうか?

少女であることの価値

 一九八三年に発行された第二十九号から、「Magazine for Romantic Girls」へと大転換を遂げた、『オリーブ』。リニューアルされたばかりのこの号では、読者のことを「ロマンチック少女」と称していましたが(「秋いちばん、ロマンチック少女と呼ばれたい」)、次の号からは、
「オリーブ少女の初秋は『もめん』が似合います」
 というように、あの「オリーブ少女」という単語が登場するようになります。

 オリーブ少女とはすなわち、『オリーブ』を読んでいる少女のこと。この後、『オリーブ』が大人気雑誌になるにつれ、「オリーブ少女」という言葉は人口に膾炙するようになりました。そして私達は今も、
「私って元オリーブ少女だから」
 とか、
「かつてのオリーブ少女も、今や立派なオリーブ中年に」
 などと、その言葉を口にしているのです。

 もともと「ポパイ」では、その読者のことを「ポパイ少年」と称しておりました。雑誌名+「少年」「少女」と呼ぶことで、読者の中に雑誌に対するロイヤリティーを醸成するというのは、平凡出版(まだマガジンハウスにはなっていない)の得意な手法であったと言うことができましょう。
 「ポパイ少年」という名称は、当時の大学生に、「僕たち、まだまだ大人ではありません」という感覚を植え付けることにも役立ったように思います。昔だったらとっくに元服を済ませている年齢のポパイ読者ですが、「ポパイ少年」と言われると「まだまだ軽く生きて大丈夫」という感覚を、ひいては、「一生軽く生きても大丈夫」という感覚を得ることができたのではないか。

 オリーブ読者の場合は、ポパイ少年よりも多少、年齢層は下です。ですから彼女達は本当に「オリーブ少女」であったわけですが、この「オリーブ少女」という言葉が当の少女達に与えた影響は少なくなかったものと、私は思います。
 すなわち「オリーブ少女」という言葉を頻出させることによって、「オリーブ」は“少女であることの価値”を、読者に教えたのです。少女性とはすなわち処女性と言うこともできるかと思いますが、その処女性と少女性を自身で味わいつつ、かつ外に対するアピールポイントにもするという楽しみを少女達に開眼させたのは『オリーブ』でした。

 当時の日本には、「ツッパリ少女」がたくさん存在していました。「3年B組金八先生」の第一シリーズで、現参議院議員の三原じゅん子さんがツッパリ少女役として登場していたのは、一九七九〜八〇年のこと。そして八〇年代前半には、猫がツッパリの格好をしているキャラクター「なめ猫」や、ツッパリ達のロックグループである横浜銀蝿が流行る等、世はツッパリブーム(ヤンキーという言葉は、当時の東京ではまだ使用されていなかった)だったのです。

 ツッパリ少女とは、制服のスカートを長くして学生カバンをつぶして持ち、シンナーを吸って指にはカミソリを挟んでいるイメージ。学校帰りは駅のトイレで着替えて制服をコインロッカーに入れて繁華街へ……という感じか。
 彼女達は、大人の“ハクいスケ”に憧れていました。大人に管理される少女であるということに我慢がならず、早く大人になりたいと思っていたのです。ツッパリ達は先生や大人に対していつも反抗していたのであり、だからこそ「金八先生」のようなドラマも成立しました。

 普通の少女達も、ツッパリのように表立った反抗はしなくとも、大人になることには憧れを持っていました。楽しいことは全て、大人になったらできるようになるということで、この頃の少女達は、頑張って背伸びをしたのです。
 そんな時、
「少女であることを、もっと楽しみましょう」
 という提案をしたのが、新生オリーブです。処女の少女にこそ、希少価値がある。大人に憧れるなんて勿体ない、と。

ヤンキー臭が充満した世界の中で

 『オリーブ』は、ツッパリ、今風に言うならヤンキーのファッションがダサすぎるから、それに業を煮やして登場したファッション誌です。同時に、少女性、処女性という、その時しか持ち得ないものを無駄遣いしている日本の少女達に、「少女であることに自覚的であれ」と語りかける雑誌でもありました。
 様々な部分において、ヤンキー文化とは対極的な存在となった『オリーブ』。もともと平凡出版、後のマガジンハウスのファッション雑誌には、ヤンキー文化との親和性がありませんが、『オリーブ』もその道を歩んだのです。

 我が国においてマスの人気を得るには、それが何であっても多少のヤンキーテイストすなわち「ダサさ」を混ぜ込まなくてはならないということは、ヤンキー研究が進んだ今となってはよく知られているセオリーです。
 が、この時代はまだ、世の中全体が、ヤンキーテイストに染まっておりました。そして「なんで日本ってこんなダサいものばかりなのだ」と、そのことに不満を抱いている若者が、たくさんいた。ヤンキー臭が充満した世界の中で、夢の「非ヤンキー的世界」を見せてくれたのが、平凡出版のファッション誌でした。

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オリーブ』の罠

酒井順子

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代を振り返ります。この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間...もっと読む

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コメント

ichirobby ”少女の思い出は、お嫁さんになる日のための玉手箱”と”ドキュメント覚醒剤”。どっちのフレーズに惹かれるかって言うと、、、  4年以上前 replyretweetfavorite

SchwarzKatz なるほど「少女であることの価値」ねー。ほんっとこの連載おもしろいわ 4年以上前 replyretweetfavorite

harudexi 「『 オリーブ』の罠」 https://t.co/orCBhyab8J 「オリーブ」に長年親しんできた彼女のオリーブ少女(元少女)論。 4年以上前 replyretweetfavorite

mijiyooon 『「少女であることを、もっと楽しみましょう」 という提案をしたのが、新生オリーブです』。酒井さんて昔、制服の持つ魅力に初めて自覚的になった世代だってなんかで書いてたな。コギャルよりはるか前に。https://t.co/p294kSh74D 4年以上前 replyretweetfavorite