超入門 資本論」【第5回】成果を生み出しても、労働者の給料は上がらない~剰余価値の構造~

「超入門 資本論」では、現代のビジネスパーソンにとって必要な『資本論』のエッセンスを、使い方・活用方法と共に解説していきます。これを読み終わった時、世の中の見方が変わり、自分が踏み出すべき第一歩が見えているはずです。じつは、ぼくらが長らく悩んでいた疑問は、150年前に既にマルクスが解決していたのです!


〔PHOTO〕gettyimages

労働者がしんどいのは資本主義の運命

日本は「豊かな国」のはずなのに、そこで生きているぼくらは「豊かさ」を実感していません。日々、苦しい思いをしています。そして人によっては、「企業」をその原因と考えています。

労働者が苦しんでいるのは、企業がブラックだからだ、企業が労働者を搾取して、その恩恵をひとり占めしているからだ、ということです。果たして本当にそうでしょか?

もちろん、一部には「ブラック企業」と揶揄されるような企業もあります。ですが、それはほんの一部です。一方、日々「しんどい」と思っている労働者は、一部ではありません。全体的にそのような雰囲気を感じます。つまり、一部のブラック企業に勤めている人以外にも「しんどい」と感じている人は大勢いるのです。

労働者がしんどい生活を送っている背景にあるのは、個別の企業の事情ではなさそうです。マルクスの理論に基づいて考えると、労働者がしんどいのは、その企業の経営者が悪いのではなく、資本主義全体がそのような運命にあることが分かります。

つまり、労働者をしんどい状況に追い込まなければ企業としても生き残っていかれない。だから、企業が生き残っていくために労働状況を悪くする、ということなのです。

一体どういうことでしょうか?

そこで資本主義の中で生きる企業がどのような宿命を背負っているのかを、説明していきます。その構造を知るために、まずは「企業の利益」がどのように生み出されるかをお伝えします。

会社の利益はどうして生まれるのか?

会社の利益とは何か? そもそも会社はどうやって利益を出しているのか?

このように聞かれたら、おそらくみなさんは「ものを仕入れて、販売する。その差額が利益になる」というようなことを答えるでしょう。

では、なぜものを仕入れて販売すると利益が生まれるのでしょうか?

この利益が生まれる仕組みを理解することは、資本主義の構造を理解することと同じです。そして同時に、利益を生み出す過程で、労働者である私たちがどのように「貢献」しているのかがわかり、わたしたちの行動がどれくらい「企業(資本家)」のものになっているのかを理解することができます。

資本主義経済の中では、企業は利益を追い求めていく宿命にあります。利益を得られなければ存続できません。同時に、常に現れるライバルに打ち勝ち、消費者に認めてもらわなければいけません。そのために、日々「もっと効率よく」「よりよいものを」を目指しているのです。

しかし、まさにその利益を求める行為自体が企業を苦しめることになります。逆説的に聞こえますが、利益を求める行為自体が、企業を苦しめるのです。

企業が利益を求めれば求めるほど、長期的にみて利益率を下げていくことになります。企業が利益を求めれば求めるほど、自分たちの商品が「コモディティ」になるスピードを速めてしまいます。企業が利益を求めれば求めるほど、自らを倒産しやすい環境に追い込んでしまいます。

にわかには、信じられないかもしれません。しかし現代の日本経済・世界経済を見渡すと、まさに同じ現象が起こっていることに気が付きます。そしてじつは、いま現在、世界経済・日本経済が陥っている現象も、150年前、既に『資本論』で語られていたのです。

これを解説するために、資本主義経済における利益の生まれ方から説明していきます。

利益の源泉とは

ビジネスをすると、利益が生まれます。しかしビジネスによって利益が生まれるのは、「100の価値があるものを、95で仕入れ、105で売っているから」ではありません。正常の取引であれば、価値が100あるものは、100として交換されます。取引相手を「叩いて」もしくは、騙して利益をもぎとっているわけではないのです(もちろん、一部に例外があり、詐欺や力関係により不当な取引が存在しています)。

一般的に考えると、商品はその価値通りに取引されています。つまり、単なる取引では利益は生まれていないのです。

ですが、商品や労働力が「価値通り」に取引されるのであれば、いくら取引をしても、同じ価値のものを交換しているだけで、利益は生まれないことになります。ただ、現実には利益が生まれています。

では、利益はどうやって生まれているのでしょうか?

マルクスは、ビジネスから利益が生まれるのは、商品を生産する工程で「剰余価値」が生まれるからだとしていました。この「剰余価値」というのは、「付加価値」と似た概念です。商品を作る時に、商品に新たな価値を付け加え、商品の価値を上げます。そしてその商品を売ることで、利益が生まれるのです。

つまり、95の価値があるものを仕入れて、商品を生産・加工します。ここで10の剰余価値が生まれて、原材料に付け加わることで105にして売れるのです。それがビジネスです。

「剰余価値」が生まれる課程

「商品を生産する過程で、付加価値が生まれてそれが利益になる」

そう言われると、何だかわかったつもりになり、それですべて話が完結したように思えます。でも、大事な話はここからです。この剰余価値の意味と剰余価値が生まれる過程を知ることで、「企業の利益はどのように生まれるのか? 企業が利益を出すためには、どんな要素が必要なのか?」がわかります。

そして、そのうえで現代の社会を見た時に、これから日本経済・世界経済がどうなっていくかもわかってくるのです。

ここで、『資本論』での例にしたがって、綿花から綿糸を生産する過程で分析をしてみます。

10㎏の綿花から10㎏の綿糸を生産します。その時にかかる費用は、

 1.綿花10㎏: 12,000円
 2.使用する機械設備の減価償却分: 4,000円
 3.労働者の日給: 4,000円

とします。つまり合計で20,000円の費用がかかります。

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