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給料の額を決める「労働力の価値」とは
給料は、労働者が出した成果で決まっているのではなく、労働力の価値、つまり「その労働者が明日も仕事をするために必要なコスト」で決まっています。
この「必要なコスト」には、体力を維持・回復するために必要な食事・住居などの費用だけでなく、その仕事をするために必要な知識・経験・技術を揃えるためにかかるコストも含まれます。医者や弁護士など、専門的な知識や長年の経験が必要な仕事は、そのために必要な知力を身につけるのに膨大なコストと労力がかかります。だから医者や弁護士の給料は高い、という話をしました。
そして厚生労働省の統計データからも、マルクスの理論が現代にも当てはまっていることを確認しました。つまり、給料を高くするためには「労働力の再生コスト」を引き上げることがポイントなのです。
商品の原材料に、その商品を作るためのスキル習得費が含まれるのと同様に、労働力としての商品にも、「その仕事をするために必要なスキル」を身につけるためにかかった勉強量(労働量)や費用が考慮されます。食費、家賃、洋服代、ストレス発散のための飲み代のほかに、技術習得費が「労働力の価値」として考慮されるのです。
レストランのシェフになるためには、調理師免許をとり、ある程度の期間修業しなければいけません。その修業経験があって初めてシェフとして働くことができます。つまり、その修業期間が「シェフとして働く」という労働力の「原材料」になっているわけです。だから、シェフの労働力の価値には、日々のシェフの労働だけでなく、この修業期間にかけた過去の労力も含まれるのです。
同じように、大学の先生になるためには、専門分野の知識を身につけるために勉強し、論文を書かなければいけません。この勉強期間や論文を書くのに費やした労力も「大学の先生の労働力の価値」に加算されます。
また、免許がなければできない職業があります。もし、その免許をとるのに100万円かかったとしたら、かかったお金の分は、その仕事をする労働力の価値に加算されます。
ただし、100万円かかって資格・免許を取得しても、初回の仕事でいきなり100万円全額を「労働力の価値」として上乗せられるわけではありません。この資格・免許の有効期間を考慮し、その期間内で「100万円」を均等割りして労働力の価値に上乗せされるようなイメージです。
いずれにしても、その仕事をできるようになるために必要な準備期間、その準備に費やした労力も「労働力の価値」として加算されるということです。
なぜ医者の給料は高いのか?
労働力の価値には、その仕事をするのに必要なスキルを身につける労力も含めて考えられていると説明しました。ということは、そのスキルを身につける労力が大きい仕事は、労働力の価値が高くなり、それだけ給料が高くなるのです。
たとえば、医者の時給は1万円といわれます。一方、一般企業では時給1000~3000円程度です。
なぜ医者の時給は高いのか? それを「医者の仕事の方が、一般的な仕事よりも難しいから」「ひとが生きていくための重要な仕事しているから」と考えてはいけません。実際に医者の仕事は大変ですし、難しい業務だと思います。内科、皮膚科、小児科、眼科、どれをとっても人が健康に生きていくための重大な仕事です。
しかし、「高度だから、重大な仕事だから給料が高い」のではありません。もし「難しい仕事」にお金が支払われるのであれば、サーカスの団員はもっと高給取りであっていいはずです。「ひとが生きていくための重大な仕事」に高いお金が払われるのであれば、介護士の給料も同程度に高くなるはずです。しかし、医者の平均月収が約88万円なのに対して、介護士の平均月収は約21万円です。医者も介護士も同じように「ひとが生きていくために必要な仕事」です。それでも給料が大きく違うのです。
医者の給料が高いのは、医者の仕事をこなすために、膨大な知識を身につけなければならず、そのために長期間準備をしてきたからです。医者になるまでの準備は大変なもので、みんながそれを理解しています。だから給料が高いのです。
介護士は非常に重労働で、社会的意義も高い仕事です。しかし、介護士になるための準備は、医者になるための準備よりも少なくて済みます。この差が給料の差になっているのです。
「資格手当」というものも、同じように考えると納得できます。労働力の価値に、準備にかかった労力も含まれると考えると、不思議ではありません。資格手当があるのは、その資格をとるのに労力がかかったから、その労力を考慮しているから、なのです。
逆に、誰にでも簡単に始められる仕事は、「身につけるべきスキル」がないので、その分給料が安くなります。いくらがんばっても、いくら成果を上げても、「また明日同じ仕事を簡単にできてしまう」のであれば、当然、必要経費は少なくなります。
そう考えると、単純作業者の給料が少ないのは「必然」だといえます。「体力的にキツイ」とか「毎日長時間労働」とかいったことは関係がないのです。その「労働力」をつくるための原材料費が少ないため、給料が少ないのです。
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