第54回】西ヨーロッパ諸国の不安をよそに着々とロシアを追い詰める"人権と平和の擁護者"アメリカ

NATO首脳会合、G7、ノルマンディー上陸70周年の祝典出席で欧州を訪れたオバマ大統領。最初の訪問地のポーランドでオバマ大統領は、東欧の安定のために米国は10億ドルを投入するつもりと表明。ロシアのクリミア併合以来、震えの止まらないポーランドは大喜びだ。一方NATO軍のポーランド常駐をなるべく避けたい欧州もNATOの経費の70%を負担している米国の手間、何もしないではすまされない場面に立たされている


〔PHOTO〕gettyimages

東欧諸国の安定は米国の安全保障の大切な柱

6月3日、オバマ大統領がポーランドを訪れた。4日間のヨーロッパ外遊の第1日目だ。4日はNATOの首脳会合で、それからG7サミット。そのあとはノルマンディー上陸70周年の祝典のためにフランスへ。

ノルマンディー上陸作戦大成功の祝典など、もういい加減にやめればいいと思うのだが、かつての連合国は自分たちの勝利を祝うことには永久に倦まない。彼らにとって、これが最後の戦争であったわけでもないのに。

さて、最初の訪問地ポーランドで、オバマ大統領がビックリ箱を開けた。東欧の安定のために、アメリカは10億ドルを投入するつもりだという。この資金が融通されるかどうかは議会の承認待ちだが、大統領が言っているのだから、おそらく確保の見込みはあるのだろう。ようやくアフガニスタンから引き揚げるのかと思ったら、今度はロシア方面進出? アメリカは戦争が好きな国だ。

ポーランドは、ロシアがクリミアを併合して以来、震えが止まらない。この国の指導者たちは、ロシアに対する恐怖が骨の髄まで浸み込んでおり、ここのところ、しきりにNATO軍のポーランド常駐を迫っていた。

その請願に対して歩み寄るというポーズなのか、「ポーランドおよび他の東欧諸国の安全保障に参加することは、米国自身の安全保障の大切な柱である」とオバマ氏。コモロフスキー大統領は大喜びだ。

なるべくロシアを刺激したくないNATO加盟国

ちょうど同じころ、ブリュッセルではNATO28ヵ国の国防大臣が集まっていたのだが、アメリカのチャック・ヘーゲル国防長官も、その場でこの10億ドル案を披露。しかし、それを聞いた多くのNATOの国防大臣たちは、ポーランドの国防大臣ほどは感動しなかったと思われる。

とはいえ、アメリカがその気になっているのに、自分たちが何もしないわけにはいかない。そもそも、NATOの経費の70%を負担しているのはアメリカなのだ。では、何をするべきか?

ドイツもフランスも、そしてイギリスも、ロシアを刺激することは、なるべくなら避けたいというのが本音だ。会合の様子を尋ねられたラスムセンNATO事務総長は、「各々が皆のために、皆が各々のために」と禅問答のような回答をしていたが、アメリカのスタンドプレーに困っているのかもしれない。

オバマ氏は、この10億ドルで、まず陸軍と空軍の人員を増強し、NATOの東の境界地域に一時的に駐屯させることを考えているらしい。海軍は、地中海と黒海での艦隊を増強。もう一つは、NATOの軍事演習の強化だ。

東欧の国々に米国の軍事顧問を差し向けて、不測の事態が起こった場合に、敏速かつ的確に行動できるよう訓練をする。そのためには、もちろん軍備も補てん、拡張しなければならない。そのためには、もちろんお金がいる。10億ドルで足りるのだろうか。

また、現在、西ヨーロッパに駐留している6万7000人のアメリカ兵も増やすそうだ。我がシュトゥットガルトには、アメリカ空軍のヨーロッパ最大の基地がある。そもそも、ヨーロッパにいるアメリカ兵の約80%はドイツに駐留している。ドイツの納税者がそのために負担している額は、年間約1億ユーロという。

西ヨーロッパ諸国は、ウクライナ東部を攪乱したとして、今もロシアを批難している。オバマ大統領は、ポーランド大統領との共同記者会見で、「ロシアのプーチン大統領とのあいだに信頼を取り戻すことはあり得るが、それには少し時間がかかるだろう。まず、ロシアはウクライナの国境から軍を撤退させ、ウクライナ東部の混乱を収束させるため、彼らの影響力を行使しなければならない」と述べた。

すべて自分のせいにされたプーチン氏は、もちろん怒っている。ウクライナ東部の混乱に、プーチン大統領が影響力を持っているかどうかは、すでに疑問だ。最初は持っていたかもしれないが、現在の状況は、とっくに彼の手を離れているのではないか。だとすれば、反ウクライナ政府の武装兵たちに装甲車やら資金を提供しているのは、いったい誰なのだろう。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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