プロの土俵を降りても勝負はできる?

あらゆる敵をたった一撃で倒してしまう累計350万部を超える大人気ヒーローコミック『ワンパンマン』(集英社)。もとになったのは、原作者のONEさんが個人のHPでコツコツと発表し続けてきたネット漫画でした。今では『となりのヤングジャンプ』『裏サンデー』など大手出版社のコミックサイトで活躍するONEさんですが、アマチュア時代には商業漫画に対するコンプレックスにも似た感情があったとか。彼のオリジナリティに富んだ作風は、どのように形作られてきたのでしょうか?

『ワンパンマン』87話より。

出版社がダメなら、ネットに投稿すればいい

— 僕は『となりのヤングジャンプ』で連載され、単行本化された『ワンパンマン』を最初に読んだのですが……。

ワンパンマン 1 (ジャンプコミックス)

ワンパンマン 1 (ジャンプコミックス)

ONE 村田雄介先生に作画していただいたリメイク版ですね。


©ONE・村田雄介/となりのヤングジャンプ・集英社

— 実は、失礼を承知でいうと、ONEさんが描いたオリジナル版『ワンパンマン』を初めて見た時は「雑な絵だな」という印象を受けました。

ONE そうですね、否定はできません(笑)。


『ワンパンマン』第1話より。

— それなのに、読み始めると一気読みしちゃうくらいおもしろいんです。この絵って、わざと崩して描いているんですか?

ONE 僕の絵は、ラフなのが標準なんです。本当は漫画家なら丁寧に描くのが当たり前なのに、僕にとっては丁寧に描くことが特別になっちゃっていて。『ワンパンマン』も手抜きして描いていたわけではなくて、我流で自分の漫画を描いたらこうなりました。商業漫画のクオリティには達していない気もするんですけど、仕事じゃないから好きに描けばいいやと思って。

— ONEさんはいつ頃から漫画家を目指していたんですか?

ONE 小2くらいからノートに漫画を描くようになって、その頃から漫画家になりたいっていう思いはありました。現実的に漫画家を目指すとなると、やっぱり投稿か持ち込みしかないので、大学1年生の時に集英社の『週刊少年ジャンプ』にギャグ漫画を持ち込んだんです。

— 少年漫画誌の代表格ですね。

ONE そこで、現実を思い知らされましたね。描いた漫画がつまらなすぎて、キツい言葉さえ言われない。見てくれた編集さんに、「もうちょっとがんばれば?」ってやさしく励まされるくらいヤバくって。諦めようと思ったわけではないんですけど、「今は無理だな」と。

— まだ商業誌デビューは早かった、と?

ONE 18歳の今じゃ実力的に無理だし、自分がこれから努力する量を見積もっても、多分1年や2年じゃ無理だろうって。
 当時僕はケータイ用のHPを作って漫画をアップしていたんですが、そのサイトに集まってペンネームで呼び合っていた人たちが立て続けにジャンプで受賞したんです。みんなから「次はONEさんでしょう」なんて言われていたんだけど、持ち込み作品がダメすぎて、この人たちと競走しちゃいけないと思いました。

— 漫画家を目指す道から降りてしまったんですか?

ONE 将来的になれればいいやって楽観的に……まあ、問題を先送りしていたんでしょうね。本気で漫画家を目指す人たちが僕のHPに来ていたのに、僕だけが持ち込みも投稿もせず、遊びみたいになっていて。自分のHPに趣味の漫画をアップしながら、ほかの人たちを観察するような感じでした。

— でも、漫画は描き続けていたんですよね。

ONE 描いていたといっても、ケータイサイトに載せるものなので、普通の漫画の描き方とは全然違うんです。1~2コマくらいの小さい絵をバラバラに描いて、それを携帯カメラで接写してアップする。画質が悪くて細かい文字はつぶれて読めなくなるから、1ページにフキダシはせいぜい2つ。そういう漫画を1500ページくらい描きました。小さい絵なら早く、簡単に描けますから。

清書すると、つまらなくなってしまう

『ワンパンマン』第42話より。背景の建物がかなりラフ

— そうか、それが『ワンパンマン』のラフな絵柄につながっているんですね。

ONE そうなのかもしれません。僕はそういう特殊な漫画ばかり描いていて、実はちゃんと清書してペン入れまで仕上げたのは少年ジャンプに持ち込んだ作品しかありませんでしたから。持ち込み用に描いた時に、初めて清書したんです。
 新宿の世界堂へ行って、投稿用原稿とつけペン(Gペンなど、ペン先にインクをつけて使うペン)、インク、トーン、あと定規なんかを買ってきて。それまで落書き帳に描いていたのと同じ作業をプロの道具でやればいいだけだと思っていたんですけど、全然うまくいかなくて。

— 道具が変わるとそんなに違うものなんですか?

ONE そもそもやり方を知らないから、定規で線を引くとインクがビャーッとついてしまうし、トーンを切ったら原稿まで切れちゃうし。商業漫画が当たり前にやっていることがことごとくできませんでした。
 何より、鉛筆でラフに描いていた時点では自分で読んでもおもしろくて、編集者が笑う姿が目に浮かぶくらい自信があったギャグ漫画が、清書するにつれてどんどんつまらなくなっていくんです。

— それはなぜ? 荒削りの良さが失われるんでしょうか。

ONE というより、それまでの僕のラフな漫画って、商業誌に載るようなキレイな漫画とはうまく比べられなかったんです。片方がぼやぼやしていて、片方はくっきりとしているから、比較ができない。それをくっきりさせたらひどかったっていうのは、すごいショックでしたね。コマ割りの線などを定規で引くことで体裁だけは商業漫画の土俵にあがるんですけど、同じ土俵にあがるからこそ良し悪しがわかるようになってしまった。

— その後、『ワンパンマン』を描き始めたきっかけは?

ONE そうやって自分のHPやケータイ漫画の投稿サイトで人気を集めることで自我を保っていたんですけど、大学を卒業する時になって「あ、いよいよ漫画家じゃなくなる」って実感したんです。
 うちはそんなに裕福ではないし、大学を出てまで漫画家を目指すとは親にも言えなかったので、まずは1年間だけ就職してお金を貯めよう。その次の1年は一人暮らしをして、人生最後の正念場として漫画に打ち込んでみようと決めました。1年間本気で漫画を描いて、持ち込みも投稿もやって、それでも可能性が感じられなかったらあきらめようと。

— 期限を決めたわけですね。

ONE はい。そしてたまたま就職したのが、内定から入社までに10カ月くらい空きがある会社だったんです。持ち込みをするにしてもその後就職が決まっているわけだし、中途半端な空き時間だなと思って、『ワンパンマン』を描き始めました。就職するまでの10カ月間で、65話くらいまで描いたのかな?

— 清書した漫画ではなく、自分のやり方で描いたのはなぜですか?

ONE そうですね……あとには就職が決まっていて、その後は投稿用の漫画に専念しようと思っていました。『ワンパンマン』が生まれたのは、僕にとって好きなように漫画を書く最後の自由時間だったんです。結果的にはその作品がきっかけでプロになれたので、商業漫画の土俵で勝負するよりもよかったのかなと思っています。


さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
「『今から本気で漫画家を目指す』とつぶやいたら」ONE
ぜひこちらからお楽しみください。

執筆:宇野浩志


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イマ輝いているひと、ONE「中身が普通の人だから、僕らはヒーローに共感できる」

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otuka_T ワンパンマン今度読んてみよう 4年以上前 replyretweetfavorite