『ワンパンマン』92話より。
ONEがいま輝いている3つの理由
ネット発の漫画家として大人気!
自身のHPで連載している漫画『ワンパンマン』が、累計4000万回以上読まれる大ヒット! 現在は『となりのヤングジャンプ』(集英社)や『裏サンデー』(小学館)で連載を持っています。
強すぎるヒーローがなぜかおもしろい!
次々に強敵が現れるというヒーロー漫画の王道を踏まえつつ、いつもパンチ一発で敵を倒してしまうという異色作。その独自性がウケて、リメイク版『ワンパンマン』は累計350万部を突破!
大人も子供も楽しめる普遍的なおもしろさ!
ヒーロー、モンスター、超能力など、子供向けかと思いきや、共感を誘うキャラクターたちのギャグとシリアスのギャップに、大人が読んでもつい引き込まれてしまいます!
シリアスな話を、ギャグでひっくり返すおもしろさ
—— ONEさんのHPに無料で公開されている『ワンパンマン』、読み始めたら止まらなくなって、第95話まで一気に読みました。
『ワンパンマン』第1話より。“適当な設定”のワンパンマン登場
ONE ありがとうございます。
—— 『ワンパンマン』はどんどん強そうな敵が現れて対決していくという、ヒーロー漫画の王道を踏まえつつも、主人公が一撃<ワンパンチ>で敵を倒してしまうという設定が特徴ですよね。
ONE そうですね。局地的に見るとシリアスなバトル漫画なんですけど、主人公が強すぎるから、全体を見るとギャグ漫画になるという。だいたいヒーロー漫画って主人公より強い敵とかライバルみたいなのが出てくるんですけど、『ワンパンマン』では、毎回主人公を脅かしそうな敵が現れては一撃でやられてしまうんです。
—— 今度こそ危ないかと思ったら「やっぱり一撃かよ!」ってツッコみたくなるような。
ONE ええ。その設定をどんな風に描けるかを試したくて、描き進めていきました。
—— ところどころで主人公が、自分が強すぎて熱くなれないことに悩んだりするじゃないですか。ああいうシリアスな顔が見られるのもおもしろいんですよね。
ONE 僕はシリアスとギャグの摩擦というか、ギャップが好きなんです。それに、ギャグ漫画のキャラクターだとしても何にも考えていなさすぎると感情移入できないので、ちょっと共感できるヤツの方がいいのかなと思って。
—— “共感”ですか?
ONE 主人公のサイタマみたいな圧倒的な強さを手に入れたときに、普通だったらどうなるんだろう? すごく調子に乗るか、あるいは敵がいなくて本気になれないことを悲しむか? そのうえで読者に好かれ、応援されるのはどういうパターンだろう? そういったことは、わりと考えましたね。
『ワンパンマン』第5話より。強くなりすぎたヒーローはマンネリに悩む
—— たしかに、不器用で欲のない主人公を見て、応援したくなりました。
ONE 私生活が充実しているよりも、実力はすごいのに周囲から認められない方が応援されやすいと思ったんです。読者の方には、読んでいる自分だけが主人公のすごさをわかっているような印象を持ってもらえるんじゃないかなって。
—— なるほど。そういうことを考えられているから、大人が読んでもハマるんですね。この漫画ってストーリーは少年漫画っぽいんですけど、どんな世代の読者を想定して描いているんですか?
ONE 特定の世代の読者っていうよりは、“おもしろさの普遍性”みたいなものを意識しています。漫画やエンタメにはおもしろさの種類がたくさんあるけど、普遍的なおもしろさっていうのは確実にあるみたいで。なんか、うまく定義はできないんですけど……。
—— 老若男女、万人に受け入れられるおもしろさ……みたいな?
ONE そういうことです。漫画を読んで、僕はおもしろいけど自分のおじいちゃんおばあちゃんには見せられないっていうものは、つまり若者向けなんだと思うんです。そのなかに暴力シーンがあったら、若者のなかでも女性には受け入れられず、男性向けになる。
おもしろさの普遍性から外れると、どんどん対象が狭く、小さくなっていきますよね。その対象をなるべく大きく維持したまま展開を考えると、誰にでも楽しめる漫画になるのかなって。
—— 話としてはわかるんですけど、実際にそういう漫画をつくるのはすごく難しくないですか? 対象が広くなるほど、おもしろさが薄まってしまう危険もありそうですし。
ONE たとえば、僕は『クレヨンしんちゃん』がそうだと思っているんです。あの漫画に不快感はないし、子供が読んでも大人が読んでも、ツッパってるヤンキーが読んでもおもしろく読めますよね。
—— たしかに。
ONE そういう普遍性があるからこそ、映画で本格的なアクションシーンを入れてもみんなが熱くなれるし、感動的なシーンがより多くの人の心を打つ。まあ、常に意識しているわけでもないんですが、僕もそんなふうに幅広く読まれる漫画づくりがしたいと思っています。
頭のなかのイメージを、そのまま描く
—— 『ワンパンマン』は現在95話まで公開されていますが、最初はどれくらい続けるつもりだったんですか?
ONE 最初になんとなく最後の話を考えて、そこにつながるように描き始めたんですが、長く続いても50話くらいだろうと考えていました。でも、描いているうちに楽しくなって、勝手に話が広がっていっちゃって。まさかこんなに続くとは思っていませんでしたけど。
—— とくに思い入れの強いエピソードは?
ONE そうですね……『ワンパンマン』って基本的にネーム(コマ割りや構図、セリフなどを大まかに記した漫画の下書き)を描いていなくて、頭で話を考えて、イメージが固まったら描き始めるんです。
—— えっ、下書きなしでいきなり描き始めるんですか!?
ONE 基本的にはそうです。最初は1回あたり15ページと決めて描いていたので、最後の方のページは、書道で最後の字が小さくなってしまうみたいにコマが小さくなっちゃったりして……。それでもなんとかストーリーを整えてやってこられたし、描きたいことは頭に浮かぶからあまり困ることもなかったんです。
—— それはすごい。
ONE ただ、30話目で深海王(地上侵略を目論む、海の生物の王様のような敵)との決着をいつもどおりに描いたときに、なんかもうちょっと良くできそうだなと思って。そのとき初めて、ちゃんとネームを描いてセリフを推敲してみたんです。すると、その回だけコメント数がものすごく伸びて、今までで一番反響が大きかった。なんか手応えみたいなのを感じましたね。
『ワンパンマン』第30話より。最後のページも余裕のあるコマ割り
—— その後はネームを描くようになったんでしょうか?
ONE 毎回やり方が微妙に違いますが、今はだいたいセリフのト書きみたいな脚本を先につくっています。コマ割りや構図は、相変わらずあまり下書きしませんね。
(次回は、6月24日更新予定)
執筆:宇野浩志