オリーブ』と1983年の女子大生

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが雑誌『オリーブ』とその時代、女の子たちに与えた影響を分析します。今回は、初期の『オリーブ』が読者ターゲットとしていた当時の女子大生像に迫ります。 
この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間」全4回も収録! オリーブの罠、とは何だったのでしょうか?

東京の女子高分類でデビュー

 一九八三年、昭和五十八年の、夏。私の文章が、『オリーブ』第二十八号となる合併号に掲載されました。 
 「ミナモト教授」の名前で泉麻人さんが書いておられた「愛のキャンパス構造学」という連載において、「ミナモト教授がアムステルダムでの学会の準備で忙しいことを理由に、逃げてしまった」ということで、「助手のアシカガ」がピンチヒッターとして登場、ということになったのです。「愛のキャンパス構造学」とは、女子大生向けだった『オリーブ』において、今時の大学生事情、のようなものを面白くまとめたコラムでした。

 そしてこの時、「助手のアシカガ」こと私が書いたのは、「カレッジ鑑定 高校編」というもの。この連載の第一回目には、ミナモト教授が大学別生態分析を行ったのですが、その女子高校生バージョンをアシカガが記した、という態です。

 『ポパイ』『オリーブ』を愛読する女子高生だった私は、ある時、田中康夫さんと泉麻人さんが『ポパイ』に書いておられた“ライフスタイル&ファッションによる東京の大学分類”的コラムをふんふんと面白く読んでいました。ハタと「この女子高バージョンなら、私にも書ける?」と思って授業中にレポート用紙に書き、友達に見せると、
「面白いじゃん、これ雑誌に送ったら載るよ!」
 ということで、「でも『ポパイ』は男の子の雑誌だから」と彼女が送ってくれたのが『オリーブ』の編集部。するとしばらく後に『オリーブ』編集部から連絡があって……というのが、私が物書きの世界に入る最初のきっかけなのです。

 まるでアイドルが、
「友達が勝手にオーディションに応募してしまったんですぅ」
 などと言い張っているかのようですが、実際、友達の力は有難い。彼女とは今も、仲良くしております。
 「カレッジ鑑定 高校編」は、友達が『オリーブ』編集部に送ってくれた「東京女子高分類」と、ほぼ同じ内容なのでした。誌面に載せるべく少し書き直したのです。

 私はここで、都内の女子高生を「青学系」「聖心系」「慶応系」「大妻系」「トキワ松系」と分類し、そのファッションや放課後出没地点、行動などを記しました。本当のことを言えば、トキワ松の女子高生とは話したこともないし学校がどこにあるのかも知らなかったのだけれど、その行動を勝手に妄想したのです。

 ちなみに、このページの対向ページに載っているのは、「『週刊平凡』が『週刊Heibon』に変わりました」、という広告。三年前にデビューして人気絶頂の、松田聖子の写真が載っています。添えられているのは「クロスオーバーした社会のセレブリティ(有名人間)情報誌」という文言です。
 「有名人間」という解説がなされているところを見ると、当時「セレブリティ」という言葉はまだ人口に膾炙していなかったことを物語る、このコピー。しかし今から三十年前に「セレブリティ」という言葉を使用し、流行らせようとしていたとはさすが、平凡出版と言えましょう。

謎の片仮名言葉に憧れた若者

 『オリーブ』における「サヴィ」とか「バレイガール」といった言葉にしてもそうでしたが、平凡出版の雑誌では、若者達の目標となるような新しい言葉やコンセプトを提示することが得意でした。中には先端的にすぎて我々をポカンとさせるだけのものもありましたが、平凡出版が選ぶわけのわからない片仮名言葉は、未だ見ぬ世界の未だ見ぬ現象や人々の姿を垣間見せ、「こちらへおいで」と手招きをしたのです。そう、あの頃の若者には、まだ「憧れる」という力があった。

 私も含め当時の若者達は、その手招きにふらふらとついていきました。そちらの方に行ったら、もっと明るくてお洒落で楽しい世界がありそうで、自分の人生の少し先にも、眩しい光が降り注ぎそうで。

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オリーブ』の罠

酒井順子

『ユーミンの罪』が好評の酒井順子さんが、雑誌『オリーブ』とその時代を振り返ります。この連載に、新たな書き下ろしを加えた『オリーブの罠』 (講談社現代新書)が発売されました。マーガレット酒井先生が復活する「元オリーブ少女&少年の面接時間...もっと読む

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コメント

suisenteikyohji 面白い。「青学系」「聖心系」「慶応系」「大妻系」「トキワ松系」> 9ヶ月前 replyretweetfavorite

wbisken 高校から大学生の頃読んでた*あとは「世界」「噂の真相」「LaLa」「花とゆめ」「ALAN」「ぱふ」平凡社の男性向雑誌等々。 約4年前 replyretweetfavorite

mozqs オリーブ好きな子ももう結構なお年に。 約4年前 replyretweetfavorite

motoji_etoile もちろん廃れた後の結果論ではあるが、アンチテーゼであり、読者からみても迷いがあったという指摘は、その廃れた事実も含めて、平家物語における平家のような物悲しさを強く感じさせる。 >  約4年前 replyretweetfavorite