いいもの見た!」はナニでできてる?—ユーザーエクスペリエンス【後編】

バスキュールPARTYが主催する学校「BAPA(バパ)」。デザインとテクノロジーの知識を兼ね備える、次世代型クリエイターの育成を目指す学校です。今回は、ユーザーエクスペリエンス編の後編。バスキュールのクリエイティブディレクターとして活躍する2人の講師が、現場で学んだ知識や考え方を、生徒たちに伝えていきます。後半は、生徒たちが考えてきたアイデアに対する、「ダメ出し」も。さまざまな仕事の企画づくりに役立つアドバイスが満載です。

企画における「技術」と「姿勢」の側面を考える


馬場鑑平(ばば・かんぺい/バスキュール クリエイティブ・ディレクター)
1976年、大分生まれ。2002年、バスキュールに入社。ウェブの技術力を活かし、インタラクティブコンテンツを中心に、教育、アート、広告などさまざまなジャンルで作品を生み出している。
【主な作品】TOKYO CITY SYMPHONY(森ビル株式会社)Space Balloon Project (日本サムスン株式会社)最新事例 TOYOTA DRIVE GO ROUND

 僕は、企画を考えるための「技術」と「姿勢」、2つの側面からお話したいと思います。

 まずは「技術」の話から。「武器を見つける」ということについて、説明していきます。僕らがいつもやっているのは、新しくて、誰も見たことがないものをつくり、「どうですか、みなさん」と世の中に提示する仕事です。

 だからこそ、やってみなければわからないことが多く、何がおもしろいのか言語化しづらいこともよくあります。そうしたとき、企画の中心に誰もが知っている有名なものや、誰が見てもすごいと思える「武器」があると、おもしろさや価値が伝わりやすくなります。ここから例をお見せします。


Volvo Trucks - The Epic Split feat. Van Damme

 ジャン・クロード・バンダムが2台のトラックに左足と右足をそれぞれ乗せ、180度開脚していきます。それを、めちゃくちゃ美しく撮ったCM。バカバカしいけど、「すごい!」って思いますよね(笑)。

 これはやはり、ジャン・クロード・バンダムの存在が大きい。ボルボは以前から、ボルボ車の技術を証明する実験動画を撮ってるんです。でもどれも、この動画みたいに話題になりませんでした。往年のハリウッド・スターのようなアイコンが入ってくることによって、企画がぐっと良くなった例です。


Sound of Honda - Ayrton Senna 1089

 こちらは有名ですね。亡くなったF1ドライバー、アイルトン・セナが残した走行データから、24年前のエンジン音を蘇らせたという企画です。ホンダがずっと培ってきたテレメトリー(遠隔測定法)の技術について伝えるCMではあるのですが、これも、アイルトン・セナというところがすごく大事です。


TOKYO CITY SYNPHONY(森ビル株式会社)

 これは六本木ヒルズ10週年にあたり、「東京を世界で一番の都市にしよう」という森ビルの都市開発への想いを表現したコンテンツで、僕もクリエイティブディレクターとして関わりました。

 みなさんが取り組んでいる渋谷の課題に近いですよね。この企画で「すごいところ」、つまり武器になったのは、森ビルが所有している千分の一の精巧な都市模型です。プロジェクションマッピング自体は、もう一般的になりつつある技法ですが、この精巧な模型に投影するから全体のクオリティが格段に上がっています。僕らが一から模型をつくっていたら、かなりしょぼい出来になってしまったでしょう。

 みなさんが取り組むプロジェクトでも、こういう「誰が見てもすごい」というものが見つかるかもしれません。当たり前すぎて、見逃していることもよくあります。

 さっきの森ビルの映像は、途中でぜんぜん予算がないことが発覚して(笑)、手持ちで使えるものはないか考えていたとき、模型のことを思い出したんです。誰が見ても圧倒されるものだし、意外と世に知られていないので使えると思いました。

 でも、そんなにうまくいかないのもまた事実です。どちらかというと、すごいものが見つからないことのほうが多い。ヒアリングをいくらしてもなにも見つからない場合は、企画の「すごいところ」をこちらで発明しなければいけません。これはなかなか難しい作業だ、と毎回思います。

 そういうときは、前回、中村洋基さんが説明していた「驚きと納得」「問題と解決」などの表現の型にあてはめて考えてみます。あとは、とにかくすごい表現方法で人を惹きつける。これは映画の『アバター』などがヒットした理由ですね。先ほどのAppleのCMのように、みんなが共感するストーリーをつくるのもひとつの手です。また、こうなったら楽しいよねという、潜在的な欲求をうまく拾い上げて具体化する。これはアプリの「セカイカメラ」などが好例です。

 もうひとつは、「姿勢」つまりマインドの話です。それは、「ひとつで考えない」ということ。この案件が成功しても失敗しても、人生は続くんです(笑)。だから長い目で、自分がこの先どうなっていきたいかを踏まえて企画を考えるといいと思います。一つひとつの案件を、新しいことをやり続けるきっかけにしましょう。企画としてどういう部分がチャレンジなのか。そのチャレンジが、自分の人生でどういう役割を担うことになるのか。その両面で考えていくと、いいんじゃないかと思います。

 そのためには、自分が今できることを把握しておくのが大事です。そして、今の自分がちょっと背伸びしたらできそうなことを提案する。それを繰り返していると、できることの量も質も増えていきます。

 そのうちに、自分の得意不得意がわかってきます。僕は、どちらかというと、バカっぽい感じの「おもしろコンテンツ」をつくるのが得意ではありません。美しいものを圧倒的に美しく見せたりすることのほうが得意です。不得意なことを無理にやるより、自分ができないことが得意な人と組んで、みんなで「すげー!」っていうものがつくれたらいいと思っています。真剣に仕事をしていれば、そういう仲間が見つかっていきますよ。


「根っこ」と「落とし穴」を整理して、アウトプットを磨いていく


原ノブオ(はら・のぶお/バスキュール クリエイティブ・ディレクター)
20代前半は音楽に没頭。酒問屋の配送の仕事についた後、1年かけて猛勉強し、ウェブのクリエイティブの世界へ。フリーで活動した後、2004年からバスキュールに参加。Flashディベロッパー、ディレクターを経て、現在はクリエイティブ・ディレクターとしてさまざまな作品に関わる。
【主な作品】AXE HOT ANGLE(ユニリーバ・ジャパン株式会社)ソーシャルヒッチハイク(株式会社トヨタマーケティングジャパン)

 僕が普段考えていることも、2人が言ったこととだいたい一緒です(笑)。だから僕は、企画が決まってからのステップに関わる話をしようと思います。

 僕が伝えたいのは「『根っこ』を探す」「『落とし穴』も探す」、この2つです。この2つは、すぐ理解した気になりやすいけれど、意外と言語化できない部分です。これを常に整理し、把握しながらつくっていくと、最終のアウトプットが良くなります。

 「根っこ」というのは、その企画の持つ本質的な「価値」のことです。そもそも、これはなんのためにつくるのか。これを、明確にしておきましょう。単に「おもしろそうだから」と、演出や機能を足したり引いたりしていくと、「根っこ」がブレて、けっきょく「なんだこれ?」というものができてしまうんです。

 では、一緒に具体的に考えてみましょうか。始業式のワークショップで出たアイデアのひとつ、満員電車をディスコみたいに体験させるという企画「スクランブルディスコ」がありました。さて、このアイデアの「根っこ」はどこにあるのでしょうか。ヒントは、先の2人の話にもあると思います。だれか分かりますか?

生徒「街のノイズや満員電車など、渋谷のネガティブな部分をあえて体験させて、ディスコという快感に変えていくという発想がおもしろい」

 はい、先の中村さんの「問題と解決」という話に通じていますね。ネガティブな部分をポジティブに変える、というのがアイデアの「根っこ」だと。このアイデアに、講師やクライアントは「なんかいいかも」という反応を示しました。アイデアを考えるときは、その話を当事者ではない人に聞かせた時の反応の中に、ヒントがあることが多いものです。世の中にそのアイデアを出したときに、どういう反応があるか。そういう探り方を日常的にしていると、最終的にどこが大事でどこがいらないのかも見えてきやすくなります。

 次に「落とし穴も探す」。これは、この企画が「どうなったらやばいのか」を想像することです。そして、そちら側には絶対行かないように、制作を進めていく。

 落とし穴の典型のひとつは、こちらが提供するコンテンツやサービスの価値よりも、体験者の労力が上回ってしまうこと。そういうものは、どういう状況でも「いいコンテンツ・サービスだった」とは感じてもらえません。ひとつ例をあげると、好きなアーティストがいて、そのアーティストのメルマガに、新作の発売情報のリンクがついてたとしますよね。そのリンク先をたどっても、ジャケットは「No Image」、金額未定、発売日未定、と書いてあるページだったときの「ふーん……」っていう気持ち(笑)。メルマガを開いて、URLをクリックして、ブラウザを開いたのに、それかよ、と。なんかがっかりしますよね。

 さて、みなさんの課題でも「落とし穴」を具体的に考えてみましょう。では次は……、また「スクランブルディスコ」(会場・笑)。

 スクランブルディスコは前回の発表で、満員電車を再現したぎゅうぎゅうの状態で体験するという要素もありました。それってちょっと変わってておもしろいんですけど、体験する側にしたら、「たくさんの他人と狭いところに詰め込まれるなんて! 最悪!」ということにもなり得ますよね(笑)。「こっちに立ってください」「これを登録してください」と、お願いごとが増えれば増えるほど、体験する側は大きな見返りを期待してしまいます。

 ここで、僕が関わったサイトを紹介します。


AXE HOT ANGLE

 男の子なら誰でも一度は、テレビや雑誌に出てるミニスカートの女の子を下からのぞきこもうとしたことがありますよね? 絶対見えないのに(笑)。AXE HOT ANGLEはそんな男の子の夢をテクノロジーで叶えちゃったサイトです。ウェブカメラでモニターの前の人の顔を認識して、下から上を覗きこめばそのアングルで映像が動きます。

 これはモニターをのぞくだけで、かわいい女の子が見られます。ユーザーの体験の労力と価値を天秤にかけたら、得られる価値の方が大きくなるように設計しているわけです。広告は大抵つまらないものと思われていますが、インタラクションで観る側に楽しみを提供することもできるんですよ。

 「根っこ」と「落とし穴」については、アイデア出しの段階ではそこまで気にしていません。実制作に入ったときに、必要になってくる観点です。制作していると、途中でテクニカルディレクターに「この企画、サーバースペック的に絶対無理です」と言われたりします(笑)。そのときに、「じゃあ、ここは削ってもいいかな」とか、「そこは譲れないから他を削ってでも実現したい」といったジャッジができるようになります。ここが崩壊するなら、企画を最初から考えなおさなければいけない。そんなときもあります。でも、「根っこ」と「落とし穴」を押さえていれば、最終的なアウトプットはいいものになるはずです。

各チームのアイデアへの講評

最後に、AからJの10チームで考えてきてもらった「外国人に『Fantastic! SHIBUYA!』と言ってもらう作品」のアイデアを、3人の講師が講評しました。ここでは3つのチームへのコメントをご紹介します。

チームJ「インタラクティブなゴミ箱」

コンセプト:渋谷にいた外国人に話を聞いたところ、イルミネーションなどはきれいだけれど、ゴミが多いという意見があった。そこで、ディスプレイのついたインタラクティブなゴミ箱を街のあちこちに設置して、ほぼ同時にゴミを入れた人の顔を移し、コミュニケーションをはかる。

中村 すごくいいと思いました。ゴミ箱というアイデアを聞いた時、「ファンセオリー」っていうゴミを入れると「ヒュ—ッ」って深いところに落ちていく音がするやつを思い浮かべたんですけど、それとも違いますね。ゴミ箱に入ってるゴミの重さから、プロジェクトの成果の可視化もできそうです。

 うまくいったら、こんなインタラクティブなゴミ箱で渋谷はゴミが少なくなりました、となる。それは、他の国から見たらかっこいいことやってると思われるでしょう。顔が見えるだけでも楽しい気がするけど、もっとゴミを捨てる人の気持ちを想像して、ゴミを捨てたくなるような仕掛けを考えたらいいかもしれません。

中村 気をつけなければいけないのは、日本人はシャイだということ。大きなサイネージに自分の顔が大きく表示されている前で、ゴミを捨てたくはならないはず(笑)。一見普通のゴミ箱なんだけど、捨てたら良い驚きがある。そういうことができたらいいですね。

Fチーム「Wi-Fi自動販売機」

コンセプト:渋谷の課題は、Wi-Fiがつながらないこと。自動販売機は日本の象徴でどこにでもある。なんでも自販機で売ってしまう(おでん缶など)のも、日本のおもしろさ。そこで、自動販売機でWi-Fiが使えるようになる何かを売る。

中村 Wi-Fiがつながるというのはいいですよね。それが自動販売機に関連しているのもイカす。だからこそ、もうひとひねりほしいです。「そこで終わりかい!」と思っちゃいました(笑)。

 確かに着眼点はいいけど、アイデアにファンタスティックさが足りない気がします。Wi-Fiを自販機で買えるのは皆がいいと思うこと。だからこそ、渋谷区がやってもおかしくない。でも自治体に任せたら、つまらないことや、不便なことが起こりがちです。そのダメな状態にならないようにはどうすればいいのか。みなさんのアイデアで飛び越えてほしいです。

馬場 コンセプトから理路整然と考えていくと、意外とアイデアが広がらないんですよね。これは、実際の仕事でもよくあることなんです(笑)。ニーズから組み立てていくことと、アイデアの飛躍は、別で考えるといいと思います。

チームE「SHIBUYA mass rhythm」

コンセプト:外国人の渋谷へのイメージをネットや現地で調査した。すると、やはりスクランブル交差点で「すごい!」「大好き」という投稿が多いことがわかった。一斉に歩行者が動いたり止まったりするところに、日本という国の規律性を感じている人もいた。そこで、スクランブル交差点を行き来する人に潜む規律性を、音とグラフィックに変換するアート作品をつくる。

中村 これは、アウトプットがめちゃくちゃカッコよかったら「うわー! かっこいい!」ってなって大成功。ウェブで見た外人が「超クール!」って広めてくれる可能性も十分ある。しかしそれ以外は失敗という、抜身の剣みたいなアイデアですね。

馬場 いいですね。これは自分が企画していく時のプロセスに一番近い考え方です。僕はいま、どうつくるかかなり明確に見えてます。

 いかにも馬場さんが好きそうな案だ(笑)。ある意味一番ターゲットが明確かもしれません。「Fantastic!」と思わせたいのは、そういう書き込みをしている人たちですから。渋谷のスクランブル交差点に対してすでに「やべえ!」と思ってる人たちを、「さらにやべえ!」というテンションに持っていけるか。そこを考えてみてください。


(次回、6/11更新予定)

構成 崎谷実穂、写真 PARTY & 崎谷実穂

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デザインとプログラミング。両方のスキルを兼ね備える、次世代型スーパークリエイターの育成を目指す学校ができました。“Both Art and Programming Academy”、その名もBAPA(バパ)! デザインや広告などのクリ...もっと読む

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コメント

matchamttm 都市模型にプロジェクションマッピングした動画めっちゃきれい。  約4年前 replyretweetfavorite

katapad おもしろいなー。学生になりたい 講義1「ユーザーエクスペリエンス」【後編】| 約4年前 replyretweetfavorite

yaiask ユーザーエクスペリエンスの授業、後編です。クリエイティブの生みの苦しみと戦い続けている人が、エッセンスをおすそ分けしてくれてる貴重な話→ 約4年前 replyretweetfavorite

sanokazuya0306 BaPAいいなあ 約4年前 replyretweetfavorite