「いくよーっ!!」
会長がドラムスティックを打ち鳴らす。
軽快な前奏から、アップテンポの曲が始まる。
ルカ先輩が歌い出すと、呼応するように歓声があがる。
わたしは、ただ無心でキーボードを叩き続けた。周囲を見る余裕なんてない。間違えないようにと、必死だ。
ただ、音だけは聴こえる。体に響いてくる。
わたしには楽器のことはわからないけど、練習中にレンが教えてくれた。
ドラムは全体のリズムを作ってバンドの作るすべての音を導く、縁の下の力持ちなんだ。
ベースは目立たないように見えるけど、ここがしっかりと仕事をすると音に驚くほど厚みが出る、重要なパートだ。
ヴォーカルだって、音程をとるのがうまいだけじゃダメで、聴く人を元気にするような心を震わせる魅力が必要なんだ。
そんな説明が、担当する生徒会メンバーたちをそのまま表しているようだった。
その時、会長がレンに言っていた。
「うしろはアタシらに任せて、ギターは目立て。派手にやるんだよ。自由に遊んでいいからね」
今、その言葉をまっすぐに受けて、レンはパフォーマンスを交えながら飛び回っている。ヴォーカルに寄り添ったり、それぞれのパートに近づいてきて合わせるように弦を弾いたりするから、視界に飛び込んでくるのだ。
スポットライトに汗の玉がきらめいている。向けてくれた輝くような笑顔に、体の硬さがとれるようだった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。