第79回 数を探る(前編)

「お兄ちゃん、よくいうじゃん。《定義にかえれ》って。定義を考えれば求められるんじゃない?」とユーリは言った。
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第一弾「式とグラフ」 第二弾「整数で遊ぼう」 第三弾「丸い三角関数」

第78回の続き)

$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} $

の部屋

ユーリ「にゃあにゃあ!」

「へんな猫が来た」

ユーリ「へんにゃねこじゃ、にゃいにゃ!にゃにいってるにゃ!」

「無理に猫語で話すなよ。何いってるか、わからないし」

ユーリ「猫物語の(白)読んだ影響で猫化が加速中…」

「数学にぜんぜん関係ない前振りって珍しいな」

ユーリ「そんなことより、指数関数の話なんだけど」

「なにそれいきなり」

ユーリ「お兄ちゃん、こないだ指数関数と対数関数の話、してくれたじゃん?(第76回参照)」

「そうだったね」

ユーリ「ふと気付いたんだけど、お兄ちゃん、グラフ描いてくれたよね」

「これ?」

指数関数のグラフと対数関数のグラフ

ユーリ「それそれ。でも、これってごまかしてるよね」

「え、どこが?」

ユーリ「だってさ、 $y = 10^x$ のグラフっていっても、考えたのは $x$ が $1$ とか $2$ とかじゃん? だったらグラフってテンテンになるんじゃないの?」

「ああ、そういうこと?  $x$ が $\ldots, -3, -2, -1, 0, 1, 2, 3, \ldots$ という整数しか考えてないって?」

ユーリ「そーそー。そして $x = 1$ のとき $10^x$ は $10$ だから、グラフ用紙からはみ出しちゃうよね」

「まあ、そうなるよね。でも指数関数 $10^x$ そのものは、 $x$ が整数以外でも定義できるよ。たとえば $10$ の $\dfrac12$ 乗も」

ユーリ「え! $\dfrac12$ 乗!?」

「あれ? この話、したことなかったっけ」

ユーリ「あったっけ。でも忘れた」

「がく。 $10$ の $\dfrac12$ 乗は、 $10$ の $0$ 乗を定義したときと同じように考えて定義すればいいんだよ」

問題
$10^{\frac12}$ の値は何と定義するのがいいか。
$$ 10^{\frac12} = \text{?} $$

ユーリ「 $10$ の $0$ 乗って $1$ でしょ?」

「そうだね。 $10^0$ は $1$ に等しい。これは指数法則を満たすように定義したんだったよね。冪乗を掛け算すると、指数の部分の和になるという指数法則 $10^m \times 10^n = 10^{m+n}$ を使う」

$$ \begin{align*} 10^m \times 10^n &= 10^{m+n} && \text{指数法則} \\ 10^0 \times 10^1 &= 10^{0+1} && \text{ $m = 0, n = 1$ とした} \\ 10^0 \times 10 &= 10 && \text{ $10^1 = 10$ で $10^{0+1} = 10$ だから} \\ 10^0 &= 1 && \text{両辺を $10$ で割った} \\ \end{align*} $$

ユーリ「うんうん、そうだった。なんか思い出した。でも $10^{\frac12}$ は?」

「同じように、今度は $10^{\frac12} \times 10^{\frac12}$ も指数法則を満たすとしたら……と考えるんだよ。 $m$ と $n$ が $\dfrac12$ でも指数法則を満たすとしたら、 $10^{\frac12}$ はどんな値にならなくちゃいけないか、と考える」

$$ \begin{align*} 10^m \times 10^n &= 10^{m+n} && \text{指数法則} \\ 10^{\frac12} \times 10^{\frac12} &= 10^{\frac12+\frac12} && \text{ $m = \dfrac12, n = \dfrac12$ とした} \\ 10^{\frac12} \times 10^{\frac12} &= 10^1 \\ \left(10^{\frac12}\right)^2 &= 10 \\ \end{align*} $$

ユーリ「ふむふむ?」

「だから、 $10^{\frac12}$ は《 $2$ 乗すると $10$ に等しい数》だとうれしい。だから、そう定義する」

ユーリ「《そう定義する》って?」

「《 $2$ 乗すると $10$ になる数》は二つある。 $\sqrt{10}$ と $-\sqrt{10}$ だ。そのうち正の数を採用することにして、つまり、 $10^{\frac12} = \sqrt{10}$ と定義するってことだよ」

ユーリ「うわそんな勝手に」

「 $10^{\frac12}$ は《 $10$ を何個か掛ける》という考え方では定義できないから、指数法則を頼りにすることにした。それは自然な拡張になるからだね」

ユーリ「ふーん。あれ、でも、指数法則を満たすだけなら $10^{\frac12}$ を $-\sqrt{10}$ と定義してもよかったよね?」

「そうだね。なぜマイナスにしなかったかというと……なぜだろう。たぶん、そうしてしまうと、 $10^x$ の変化がとっても不自然なものになるからじゃないかな。 $x$ が整数のときは $10^x > 0$ で、 $x$ が整数じゃないときには $10^x < 0$ になっちゃうから」

ユーリ「そっか」

解答
$$ 10^{\frac12} = \sqrt{10} $$

「 $10^\frac12 = \sqrt{10}$ で、 $10^\frac13 = \sqrt[3]{10}$ になる」

$10$ の $\dfrac1n$ 乗
$$ \begin{align*} 10^{\frac11} & = 10 \\ 10^{\frac12} & = \sqrt{10} \\ 10^{\frac13} & = \sqrt[3]{10} \\ 10^{\frac14} & = \sqrt[4]{10} = \sqrt{\sqrt{10}} \\ 10^{\frac15} & = \sqrt[5]{10} \\ \vdots & \end{align*} $$

ユーリ「 $\sqrt{\sqrt{10}}$ って何?」

「 $\sqrt{10}$ は $10$ のルート、つまり平方根の正の方だね。二乗すると $10$ になる二つの数のうち、正の方。 $\sqrt{\sqrt{10}}$ はその数のさらにルートを取ったもの」

ユーリ「 $10$ のルートのルート?」

「そうだね。 $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $10$ の四乗根の一つになるよ」

ユーリ「それって、どんくらい大きい数なの?」

「え?」

ユーリ「 $\sqrt{\sqrt{10}}$ って数でしょ? どのくらいの大きさかなって」

「計算してみようか」

は電卓で $\sqrt{\sqrt{10}}$ を計算する。 $10$ → $\sqrt{\mathstrut\text{ }}$ → $\sqrt{\mathstrut\text{ }}$ とキーを打った。

$$ \begin{array}{rllll} 10^{\frac12} &= \sqrt{10} &= 3.16227766016838\cdots \\ 10^{\frac14} &= \sqrt{\sqrt{10}} &= 1.778279410038923\cdots \\ \end{array} $$

「 $\sqrt{10}$ は $3.16$ くらいで、 $\sqrt{\sqrt{10}}$ は $1.77$ くらい。四捨五入すれば $1.78$ ってとこかな」

ユーリ「あっ!  $10$ より小さいんだ!」

「そうだね。 $\sqrt{10}$ も $\sqrt{\sqrt{10}}$ も $10$ より小さい。それは指数関数のグラフからもわかる」

ユーリ「どゆこと?」

「 $\sqrt{10} = 10^\frac12 = 10^{0.5}$ だし、 $\sqrt{\sqrt{10}} = 10^\frac14 = 10^{0.25}$ だよね」

ユーリ「 $10^{0.5}$ と $10^{0.25}$ ……そーだけど?」

「ほら、指数関数のグラフは右上がり。 $x$ が大きい方が $10^x$ も大きい。 $0.5$ より $1$ は大きいし、 $0.25$ より $1$ は大きい」

ユーリ「ごめん、何言ってるかわかんない」

「難しい話じゃないよ。《 $x < 1$ ならば $10^x < 10^1$ だ》っていってるだけ」

ユーリ「……あ、そゆことか。あたりまえじゃん!」

「そうそう。あたりまえのこと。指数関数のグラフみたいに右上がりの関数を増加関数っていう。指数関数が増加関数であるっていうのは、《 $a < b$ ならば $10^a < 10^b$ が成り立つ》ということだね」

ユーリ「んー……んんん。数学って、当たり前のことをめんどくさく言うんだね」

「めんどくさくっていうより、きっちり言おうとしているんだよ」

ユーリ「まー、そゆところは好きだけど」

「 $a < b$ ならば $10^a < 10^b$ が成り立つし、 $10^a < 10^b$ が成り立てば、 $a < b$ が成り立つ。《指数関数を通しても、数の大小関係は変化しない》ともいえるね」

指数関数を通しても、数の大小関係は変化しない
$$ a < b \qquad \Longleftrightarrow \qquad 10^a < 10^b $$

ユーリ「ふんふん。簡単だね!」

「言ったな。ではクイズを出すよ。 $\LOG{\sqrt{10}}$ を求めよ!」

クイズ
$$ \LOG{\sqrt{10}} = \text{?} $$
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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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mathpico 数学ガールで対数の値を求めてたような…。調べてみると、秘密ノートの連載で、常用対数 log2 を求めていた。 https://t.co/8y375SinHE 小数を二進法で表す話があって、ほほぅと思ったのをすっかり忘れていた。眺めてただけじゃ、ね。 3年弱前 replyretweetfavorite

lighty_karume 第76回の続き。底が10で[10の2分の1乗]の対数と同じように、10の[底が10で2の対数]乗もグラフで示すと理解が深まるかにゃ! 4年弱前 replyretweetfavorite

WilliamJonesWU 宿題を解く。これって答えわかったらツイートしていいんだろうか・・・? 4年弱前 replyretweetfavorite

chibio6 少し前同じようなことで悩んで、同じように当たり前だと気付いたことを思い出す。宿題、log 2(底は10)を解くこと。 4年弱前 replyretweetfavorite